上 下
24 / 120

第二十四話 エスコート

しおりを挟む
「ついにやってきてしまった、新入生歓迎パーティー……」

 溜め息をつきながら今日を迎えてしまったことを恨めしく思う。
 できればここから逃げ出してすぐにでも寮に籠りたいのだけど、三人から一斉に「「「どこに行くつもり?」」」と圧をかけられたらさすがの私も観念するしかなかった。
 というか、圧力のかけ方が普通に我が家の家族よりも怖いんだが。

「それにしても、いつになったらお礼言えるんだろ」

 初めての授業以降も同じクラスだというのにエディオンからのアプローチのせいで常に私とエディオンがセットという形となり、結局ノースくんにはお礼が言えずじまいであった。
 これが私にとってずっと気がかりになっている。
 寮も一緒なはずなのになぜか全然出会わず。いっそ避けられているのではないかとすら思えてくるくらいである。

(元々あまり接点はないし、さすがに避けられてはないとは思うけど。あ、でも色々と迷惑かけっぱなしだし、要注意人物だとして避けられてる可能性もあるかも!?)

 はぁ、と大きなため息を吐きたい気持ちを抑えながら私はみんなに引っ張られ、エディオンとの待ち合わせ場所へと向かった。

「おい、見ろよあれ」
「誰? あんな綺麗な子、うちの学校にいたかしら?」
「お姫様みたい……」

 マリアンヌとハーパーとオリビアによってドレスから装飾品、化粧に至るまでめいいっぱい綺麗に仕立て上げられて、おかげさまで誰もが振り向くような美人の出来上がりだ。
 というのも、今まで知らなかったのだが、ハーパーの実家はドレスの仕立て屋、オリビアの実家はメイクアップもしている美容師だそうで、彼女達の熱の入り用はそれはもう半端なかった。

 今日に至るまで、毎日色味がどうだ、この髪型ならこのドレスの形、とまさにリアル着せ替え人形の状態で、トイレに行くのさえままならないほど放課後は寮に籠ってずっとその繰り返しだった。

 そのおかげで誰もが振り向くような美人に仕立て上げられ、私は今すぐ透明化の呪文を唱えて逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。

「とにかくクラリス、頑張ってちょうだい」
「が、頑張るって……?」
「とにかく、頑張って……!」
「だから、とにかく頑張るってどういう……」
「やぁ、クラリス!」
「え、エディオン。ご、ご機嫌よう」

 パーティー会場に向かう途中でエディオンに遭遇する。
 待ち合わせ場所よりも早く遭遇したことで身構える暇もなかった私は口元が引き攣りながらもマリアンヌから口酸っぱく言われた通りにきちんと挨拶をした。

「っ、なんと美しいんだ! まさに僕のために天から舞い降りた女神のようだ」
「それはさすがに言い過ぎだと思うけど、ありがとう」

 一々大袈裟じゃないか、と思いつつも謙遜したところでさらに大袈裟に言われそうなことはわかっていたので、とりあえず大人しく甘んじてその評価を受け入れるようにした。
 チラッとエディオンの顔を見ると、ニコニコといつも以上に上機嫌なようで、早速手を差し出される。

「ここで会ったならせっかくだ、エスコートさせていただこう」
「え、えーーーー……?」

 「さすがに早すぎるんじゃ……?」とちらっと三人を見ると、パッと私から離れ「「「いってらっしゃ~い」」」と満面の笑みで手を振られる。

 彼女達に「薄情者ーーーーーー!」と叫びたくなるがそんな勇気もないので、せめてもの足掻きとばかりに恨めしげな目で三人を見つめるが、全然気にする様子もなくみんなニコニコと微笑んでいた。
 エディオンも満足そうに、腕を差し出してくるので私は恐る恐るその腕に触れると、同性とは違った感触にドギマギする。

「クラリスにはいいお友達がいるんだね」
「そ、そうですね。いい友達です」

 そこに関しては全力で同意する。

(早々にこの状況にさせたことに関しては恨んでいるけど……!)

 エスコートだから仕方ないとはいえ、腕を組んでいるせいでいつもよりもさらにエディオンと距離感が近くて困惑する。

 いつもよりもいい匂いはするし、彼の体温も感じるし、腕の感触や他にも接触する部分が多くてパーティーに着く前にも精神的にもうヘロヘロであった。

「クラリスはダンスは得意かい?」
「えーっと。どうでしょう、……まずまず、かと」
「面白い表現をするね」

 実際ダンスはまずまずだ。

 というのもNMAに入学することが決まってから家族の特訓の名の下に始めたばかりで、最近ではマリアンヌなどとも踊って練習したとはいえ付け焼き刃である。

 正直、踊るならワルツが精一杯であり、タンゴやルンバなどが入ったらもうお手上げだった。

「クラリスとのダンスが楽しみだ」

 ニコニコと笑うエディオンの笑顔が眩しい。

(何でこんなイケメンが私に執着するのだろうか、この人もやっぱり私の見た目だけが好きなのかしら……?)

 自分で自分の思考にげんなりしつつも、自分に見た目以外の魅力が思いつかなくて「はぁ」と内心溜め息をつく。
 そしてエディオンにそんな気持ちを察されないように努めながら、歓迎会が行われるホールに向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪魔退治は異世界で

tksz
ファンタジー
タカシは霊や妖を見ることができるという異能を持っている。 いつものように退魔師の友人に同行して除霊に赴いたタカシ。 いつもと見え方が違う悪霊に違和感を持つが友人とともに除霊を行うが5体の霊たちに襲われる。 友人から託されていた短剣で3体の悪霊を切り伏せたが4体目を切った瞬間に反撃を食らってしまった。 意識を取り戻した時に見たのは病室に横たわる自分の姿。 そして導かれて訪れた花畑の中の東屋で会った神様に驚くべき真実が告げられる。 悪霊と思っていた霊は実は地球の人々の邪心と悪意が生み出した悪魔だった。 タカシが食らった反撃は呪いようなものであの悪魔を倒さないとタカシは助からない。 地球の時間で3日のうちに異世界パスロに逃げた悪魔を倒すために神様の加護をもらいタカシは異世界へと旅立つ。 地球から不当に召喚された人たちも守っり、神様の加護で無双できる力は持っているけど、それでは解決できない問題の方が多いよね。 本当の力、本当に強いって何だろう。 他のサイトでも公開中の作品です。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん
ファンタジー
生前SEやってた俺は異世界で… の書籍化前の原文を乗せています。 書籍での変更点を鑑みて、web版と書籍版を分けた方がいいかと思い、それぞれを別に管理することにしました。 興味のある方はどうぞ。 また、「生前SEやってた俺は異世界で…」とは時間軸がかなり異なります。ほぼ別作品と思っていただいた方がいいです。 こちらも続きを上げたいとしは考えていますが、いつになるかははっきりとは分かりません。 切りのいいところまでは仕上げたいと思ってはいるのですが・・・ また、書籍化に伴い該当部分は削除して行きますので、その点はご了承ください。

狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風
ファンタジー
 この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。  素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。  傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。  堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。  ただただ死闘を求める、自殺願望者。  ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。  様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。    彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。  英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。  そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。  狂乱令嬢ニア・リストン。  彼女の物語は、とある夜から始まりました。

【完結】あなたが妹を選んだのです…後悔しても遅いですよ?

なか
恋愛
「ローザ!!お前との結婚は取り消しさせてもらう!!」 結婚式の前日に彼は大きな声でそう言った 「なぜでしょうか?ライアン様」 尋ねる私に彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ 私の妹マリアの名前を呼んだ 「ごめんなさいお姉様~」 「俺は真実の愛を見つけたのだ!」 真実の愛? 妹の大きな胸を見ながら言うあなたに説得力の欠片も 理性も感じられません 怒りで拳を握る 明日に控える結婚式がキャンセルとなればどれだけの方々に迷惑がかかるか けど息を吐いて冷静さを取り戻す 落ち着いて これでいい……ようやく終わるのだ 「本当によろしいのですね?」 私の問いかけに彼は頷く では離縁いたしまししょう 後悔しても遅いですよ? これは全てあなたが選んだ選択なのですから

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

処理中です...