上 下
22 / 120

第二十二話 距離感

しおりを挟む
「確かに、この特徴的な見た目……あと甘い匂いはこのページのウマル草に当てはまるかもしれないですね。……って、ち、近くないですか?」
「ん? あぁ、いや、キミの瞳はまるで澄んだ空の色のようだと思ってな。こんな綺麗な色、初めて見たよ」
「あ、ありがとうございます……」

 礼を述べながらもフードを深く被り直す。
 まだ顔をじろじろと見られるのはどうしても慣れず、私は俯きながらレポートを書くのに集中した。

「これはバジリスク草で間違いなさそうだね」
「はい。蛇のような見た目が特徴と書いてましたから。解毒に使われるのは主にこの分厚い葉の中の汁らしいですね」
「そうだね。……ねぇ、クラリス。せっかく同じクラスなんだ、敬語じゃなくてもっと気軽に話してくれ」
「はい、善処します」
「うーん、手厳しいなぁ。あぁ、こっちの薬草はペラリン草だね。主に育毛に使われる、と」
「そうみたいですね。……だいぶレポートできてきましたね」

 エディオンとの会話を淡々とこなしながらレポートを進める。

 私が適当にあしらっているのに、めげずに軽口を叩けるのはメンタルが強いなぁ、と思わず感心してしまうくらいエディオンは積極的に私に話しかけてきた。

(こんな会話も盛り上がらないつまらない変な女と話してて、何が楽しいんだろ)

 ぶっちゃけ自分なら絶対こんな女ごめんだ。いくら見た目が良くたって性格が悪ければ普通の人なら敬遠するだろう、とそっと窺うようにエディオンの顔を見る。

 すると、ちょうど彼もこちらを見ていたようでアメジストの瞳と視線がぶつかった。
 そして目が合ったことが嬉しいのか、先程よりもニコニコと微笑まれて私はなんとなく気恥ずかしさを感じて俯く。

「レポートはこれで以上、ですよね?」
「あぁ、そうだね。そうだ、クラリス。今度の新入生歓迎会のパーティーは僕と一緒に参加してくれないかい?」
「はい、わかりました。って……え? 今なんて言いました?」

 適当に相槌を打っていたのが仇になったらしい。
 明らかにレポートとは全く無関係な話題であったにも関わらず、ついろくに聞かないで返事をしてしまった。

「あぁ、ありがとう。ずっと相手を探してたんだ」
「いや、え、ちょっ……! 待って、エディオンさん!?」
「エディオン」
「はい?」
「エディオン、と呼んでくれるまで僕は返事をしないよ」
「えぇ!? え、いや、ちょっと待ってください」

 エディオンは本当に先程までペラペラ喋っていたというのに突然、つーんとそっぽを向き始める。

(なんなのこの人、すっごいめんどくさい!)

 なんて思いながらも、グッとそんな気持ちは出さずに「エディオンさん、このあと発表もあるので、そういった態度は……やめていただけると……」「エディオンさーん、とにかく話を……」と話しかけるも一向に返事をしてくれず、あまりの頑なぶりに私は撃沈した。

「え、エディオン……。とりあえず、話を……」
「なんだい、クラリス。恥じらいながら僕の名を呼ぶキミも素敵だね」
「それは……どうも。というか、さっきの話……」
「ん? あぁ、パーティーへの同行の取り消しは聞かないよ?」
「えぇ!?」
「さっき、いいお返事をしてくれただろう? それでやっぱりなしはなしだよ。それに他に相手がいないなら僕でも構わないだろう?」

(察しがよすぎるのも考えものというか、この人わかってて色々やってるのではなかろうか)

 疑いつつも、そんなこと直接聞けるほどのメンタルを私が持ち合わせてるはずもない。
 それ以上抵抗することもできず、渋々私は「はい、では……お願いします」と降伏するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪魔退治は異世界で

tksz
ファンタジー
タカシは霊や妖を見ることができるという異能を持っている。 いつものように退魔師の友人に同行して除霊に赴いたタカシ。 いつもと見え方が違う悪霊に違和感を持つが友人とともに除霊を行うが5体の霊たちに襲われる。 友人から託されていた短剣で3体の悪霊を切り伏せたが4体目を切った瞬間に反撃を食らってしまった。 意識を取り戻した時に見たのは病室に横たわる自分の姿。 そして導かれて訪れた花畑の中の東屋で会った神様に驚くべき真実が告げられる。 悪霊と思っていた霊は実は地球の人々の邪心と悪意が生み出した悪魔だった。 タカシが食らった反撃は呪いようなものであの悪魔を倒さないとタカシは助からない。 地球の時間で3日のうちに異世界パスロに逃げた悪魔を倒すために神様の加護をもらいタカシは異世界へと旅立つ。 地球から不当に召喚された人たちも守っり、神様の加護で無双できる力は持っているけど、それでは解決できない問題の方が多いよね。 本当の力、本当に強いって何だろう。 他のサイトでも公開中の作品です。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

前世の職業で異世界無双~生前SEやってた俺は、異世界で天才魔道士と呼ばれています~(原文版)

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん
ファンタジー
生前SEやってた俺は異世界で… の書籍化前の原文を乗せています。 書籍での変更点を鑑みて、web版と書籍版を分けた方がいいかと思い、それぞれを別に管理することにしました。 興味のある方はどうぞ。 また、「生前SEやってた俺は異世界で…」とは時間軸がかなり異なります。ほぼ別作品と思っていただいた方がいいです。 こちらも続きを上げたいとしは考えていますが、いつになるかははっきりとは分かりません。 切りのいいところまでは仕上げたいと思ってはいるのですが・・・ また、書籍化に伴い該当部分は削除して行きますので、その点はご了承ください。

狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風
ファンタジー
 この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。  素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。  傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。  堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。  ただただ死闘を求める、自殺願望者。  ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。  様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。    彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。  英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。  そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。  狂乱令嬢ニア・リストン。  彼女の物語は、とある夜から始まりました。

【完結】あなたが妹を選んだのです…後悔しても遅いですよ?

なか
恋愛
「ローザ!!お前との結婚は取り消しさせてもらう!!」 結婚式の前日に彼は大きな声でそう言った 「なぜでしょうか?ライアン様」 尋ねる私に彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ 私の妹マリアの名前を呼んだ 「ごめんなさいお姉様~」 「俺は真実の愛を見つけたのだ!」 真実の愛? 妹の大きな胸を見ながら言うあなたに説得力の欠片も 理性も感じられません 怒りで拳を握る 明日に控える結婚式がキャンセルとなればどれだけの方々に迷惑がかかるか けど息を吐いて冷静さを取り戻す 落ち着いて これでいい……ようやく終わるのだ 「本当によろしいのですね?」 私の問いかけに彼は頷く では離縁いたしまししょう 後悔しても遅いですよ? これは全てあなたが選んだ選択なのですから

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

処理中です...