上 下
8 / 120

第八話 いざ、NMAへ!

しおりを挟む
 そしてあっという間に時は過ぎ、いよいよ今日はNMAの入学の日である。

「時にはつらく接することもあったかもしれないが、よく頑張ったな、クラリス」
「ありがとうございます、父さま」
「我が妹ながらここまで本当によく頑張ったわ、偉いわ!」
「ありがとう、ミランダ姉さま」
「わかった? クラリス。私達が近くにいないからと言ってマルティーニ家の人間として恥ずかしくない行いをするのよ」
「はい、母さま」

 私が返事をすると、今までのスパルタな彼らはどこへやら。
 みんな一斉に涙ぐみ、私に抱きついてくる。

 彼らは本当に優しかった。

 私のワガママに多少なりとも苦言を呈することはあったが、私の主張を認めてくれることが多く、社交界に出ないという貴族の中でも非常識なことであっても、私が本気で嫌がっていることを察して意思を尊重してくれた。

 今回のNMAへの入学辞退だけはさすがに認めてくれなかったとはいえ、私の将来を案じてくれていることは理解していたし、実際に私のことを真剣に考えてくれたことは知っていた。
 だからこそ、私も彼らの期待に応えるべく頑張らねばならないと、今まで必死にやってきたのだ。

「寂しくなったり何かあったりしたらすぐに手紙を送ってね」
「わかったわ」
「マリアンヌちゃんにもよろしくね」
「えぇ、入学式の前に会えるといいのだけど」
「……何度も説得した僕が言うことではないが、もしどうしても会わないとか逃げたくなったらいつでも戻って来なさい。クラリスの居場所はちゃんとここにあるから」
「ありがとう、父さま。いってきます」

 予め用意しておいた荷物を片手に彼らに手を振る。
 そして、NMAの入学式へ行くために自分の井戸の前に立つと招待状に書いてあった通りの手順を復唱した。

「えーっと、荷物を持ち、『我、ノワール・マジカル・アカデミアに選ばれしクラリス・マルティーニ。道を拓き、我を導け』と井戸の前で唱えて、井戸の中に飛び込む、と」

 井戸に飛び込む、という部分は正直恐い。
 我が家の井戸の深さは結構あるし、万が一ちゃんと通れなかったら溺れて死ぬ可能性がある。

 (前世で火炙り、今世で溺死なんて勘弁よ……!)

 そう祈りながら、私はギュッと荷物を持つ手に力が入る。
 そのまま井戸の上に立つと、目を瞑ってゆっくりと深呼吸した。
 まだ怖気づいている部分もあるが、それをどうにか押し留めながら、心の中で自身に「覚悟を決めるのよ、クラリス」「目指せ、喪女生活!」と何度も言い聞かせる。
 そして心を落ち着けた私は覚悟を決め、大きく口を開いた。

「我、ノワール・マジカル・アカデミアに選ばれしクラリス・マルティーニ。道を拓き、我を導け」

 呪文を唱えた途端、井戸の奥から今までにない光が放たれる。
 そして、私はギュッと目を瞑りながらその中に勢いよく飛び込んだ。

「……す、すごい」

 なぜか水の感触はせずに、苦しさも感じずに目を開くと、そこは不思議な光の空間だった。
 眩しさを感じるわけでもない、優しい光が溢れる空間。

 こんなの初めて見た、とちょっと感動する。
 よくよく考えてみたら、今まで引きこもりだったため、家から出たのはこれが初めてだと気づいて我ながらちょっと情けなくもなる。
 だが、この一歩は大きいと自分で自分を慰めるように自身に言い聞かせた。

「一体どんなところなのかしら、NMA」

 場所も見た目も謎の学校。
 期待よりも不安が勝りながらも、私は光に身を委ねたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。

バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。 瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。 そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。 その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。 そして……。 本編全79話 番外編全34話 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...