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第八話 いざ、NMAへ!
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そしてあっという間に時は過ぎ、いよいよ今日はNMAの入学の日である。
「時にはつらく接することもあったかもしれないが、よく頑張ったな、クラリス」
「ありがとうございます、父さま」
「我が妹ながらここまで本当によく頑張ったわ、偉いわ!」
「ありがとう、ミランダ姉さま」
「わかった? クラリス。私達が近くにいないからと言ってマルティーニ家の人間として恥ずかしくない行いをするのよ」
「はい、母さま」
私が返事をすると、今までのスパルタな彼らはどこへやら。
みんな一斉に涙ぐみ、私に抱きついてくる。
彼らは本当に優しかった。
私のワガママに多少なりとも苦言を呈することはあったが、私の主張を認めてくれることが多く、社交界に出ないという貴族の中でも非常識なことであっても、私が本気で嫌がっていることを察して意思を尊重してくれた。
今回のNMAへの入学辞退だけはさすがに認めてくれなかったとはいえ、私の将来を案じてくれていることは理解していたし、実際に私のことを真剣に考えてくれたことは知っていた。
だからこそ、私も彼らの期待に応えるべく頑張らねばならないと、今まで必死にやってきたのだ。
「寂しくなったり何かあったりしたらすぐに手紙を送ってね」
「わかったわ」
「マリアンヌちゃんにもよろしくね」
「えぇ、入学式の前に会えるといいのだけど」
「……何度も説得した僕が言うことではないが、もしどうしても会わないとか逃げたくなったらいつでも戻って来なさい。クラリスの居場所はちゃんとここにあるから」
「ありがとう、父さま。いってきます」
予め用意しておいた荷物を片手に彼らに手を振る。
そして、NMAの入学式へ行くために自分の井戸の前に立つと招待状に書いてあった通りの手順を復唱した。
「えーっと、荷物を持ち、『我、ノワール・マジカル・アカデミアに選ばれしクラリス・マルティーニ。道を拓き、我を導け』と井戸の前で唱えて、井戸の中に飛び込む、と」
井戸に飛び込む、という部分は正直恐い。
我が家の井戸の深さは結構あるし、万が一ちゃんと通れなかったら溺れて死ぬ可能性がある。
(前世で火炙り、今世で溺死なんて勘弁よ……!)
そう祈りながら、私はギュッと荷物を持つ手に力が入る。
そのまま井戸の上に立つと、目を瞑ってゆっくりと深呼吸した。
まだ怖気づいている部分もあるが、それをどうにか押し留めながら、心の中で自身に「覚悟を決めるのよ、クラリス」「目指せ、喪女生活!」と何度も言い聞かせる。
そして心を落ち着けた私は覚悟を決め、大きく口を開いた。
「我、ノワール・マジカル・アカデミアに選ばれしクラリス・マルティーニ。道を拓き、我を導け」
呪文を唱えた途端、井戸の奥から今までにない光が放たれる。
そして、私はギュッと目を瞑りながらその中に勢いよく飛び込んだ。
「……す、すごい」
なぜか水の感触はせずに、苦しさも感じずに目を開くと、そこは不思議な光の空間だった。
眩しさを感じるわけでもない、優しい光が溢れる空間。
こんなの初めて見た、とちょっと感動する。
よくよく考えてみたら、今まで引きこもりだったため、家から出たのはこれが初めてだと気づいて我ながらちょっと情けなくもなる。
だが、この一歩は大きいと自分で自分を慰めるように自身に言い聞かせた。
「一体どんなところなのかしら、NMA」
場所も見た目も謎の学校。
期待よりも不安が勝りながらも、私は光に身を委ねたのだった。
「時にはつらく接することもあったかもしれないが、よく頑張ったな、クラリス」
「ありがとうございます、父さま」
「我が妹ながらここまで本当によく頑張ったわ、偉いわ!」
「ありがとう、ミランダ姉さま」
「わかった? クラリス。私達が近くにいないからと言ってマルティーニ家の人間として恥ずかしくない行いをするのよ」
「はい、母さま」
私が返事をすると、今までのスパルタな彼らはどこへやら。
みんな一斉に涙ぐみ、私に抱きついてくる。
彼らは本当に優しかった。
私のワガママに多少なりとも苦言を呈することはあったが、私の主張を認めてくれることが多く、社交界に出ないという貴族の中でも非常識なことであっても、私が本気で嫌がっていることを察して意思を尊重してくれた。
今回のNMAへの入学辞退だけはさすがに認めてくれなかったとはいえ、私の将来を案じてくれていることは理解していたし、実際に私のことを真剣に考えてくれたことは知っていた。
だからこそ、私も彼らの期待に応えるべく頑張らねばならないと、今まで必死にやってきたのだ。
「寂しくなったり何かあったりしたらすぐに手紙を送ってね」
「わかったわ」
「マリアンヌちゃんにもよろしくね」
「えぇ、入学式の前に会えるといいのだけど」
「……何度も説得した僕が言うことではないが、もしどうしても会わないとか逃げたくなったらいつでも戻って来なさい。クラリスの居場所はちゃんとここにあるから」
「ありがとう、父さま。いってきます」
予め用意しておいた荷物を片手に彼らに手を振る。
そして、NMAの入学式へ行くために自分の井戸の前に立つと招待状に書いてあった通りの手順を復唱した。
「えーっと、荷物を持ち、『我、ノワール・マジカル・アカデミアに選ばれしクラリス・マルティーニ。道を拓き、我を導け』と井戸の前で唱えて、井戸の中に飛び込む、と」
井戸に飛び込む、という部分は正直恐い。
我が家の井戸の深さは結構あるし、万が一ちゃんと通れなかったら溺れて死ぬ可能性がある。
(前世で火炙り、今世で溺死なんて勘弁よ……!)
そう祈りながら、私はギュッと荷物を持つ手に力が入る。
そのまま井戸の上に立つと、目を瞑ってゆっくりと深呼吸した。
まだ怖気づいている部分もあるが、それをどうにか押し留めながら、心の中で自身に「覚悟を決めるのよ、クラリス」「目指せ、喪女生活!」と何度も言い聞かせる。
そして心を落ち着けた私は覚悟を決め、大きく口を開いた。
「我、ノワール・マジカル・アカデミアに選ばれしクラリス・マルティーニ。道を拓き、我を導け」
呪文を唱えた途端、井戸の奥から今までにない光が放たれる。
そして、私はギュッと目を瞑りながらその中に勢いよく飛び込んだ。
「……す、すごい」
なぜか水の感触はせずに、苦しさも感じずに目を開くと、そこは不思議な光の空間だった。
眩しさを感じるわけでもない、優しい光が溢れる空間。
こんなの初めて見た、とちょっと感動する。
よくよく考えてみたら、今まで引きこもりだったため、家から出たのはこれが初めてだと気づいて我ながらちょっと情けなくもなる。
だが、この一歩は大きいと自分で自分を慰めるように自身に言い聞かせた。
「一体どんなところなのかしら、NMA」
場所も見た目も謎の学校。
期待よりも不安が勝りながらも、私は光に身を委ねたのだった。
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