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6章【外交編・ブライエ国】

49 弟子と息子

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階段を上がりながら、向かってくる敵をことごとく薙ぎ倒す。先頭にセツナがいるおかげで私の負担もとても軽減されていた。

「セツナさん大丈夫です?」
「よゆーよゆー。そんなことより体力残しとけよ?そろそろ着くぜ?」
「はい!」

城の扉を何人もの兵が護衛していたが、それもいくつも突破する。そして中枢部の扉を勢いよく開けた瞬間つんざくような叫び声と共に、一斉にこちらを見て怯え震える貴族や王族達。

外に出るにも出れず、中でなす術なく留まっていたのだろう。私達に殺されるのではないかとガタガタと震え、城内は混沌と化していた。

私達が近づけば、彼らは慌てふためき、「〈どうにか、命だけはお助けを……!〉」「〈我々は何も悪くない!!〉」「〈国王はこの奥にいる!!〉」と自己保身する者ばかりで、立ち向かう者が皆無だったことに思わず絶句する。

(こんな人達を守るために兵は死んだっていうの?)

ギリっと奥歯を噛み締める。

消耗されるのはいつだって国民だ。ただ生まれがよかったというだけで義務も果たさずに権力を振り翳して利権を貪るやつら。

それを師匠は変えたいと思い、今まで頑張ってきたのにあの頑張りがこうして無碍にされていることに怒りが湧いてくる。

デュオンとシオンも私と同じ気持ちだったのだろう、彼らの視線を感じて眉を顰めていた。

「[反吐が出る奴らばかりだ]」
「[愛国心の欠片もねぇな]」
「[……そういう国にあいつがしたんだろう]」

デュオンとシオンが彼らを見ながら呆れたように吐き捨てる。それを窘めるようにシグバールは苦々しく吐き出した。

(ローグ……っ)

怒りでグツグツと頭が沸くのを、深呼吸して落ち着かせる。感情に支配されてはならない、というのは師匠の格言だった。

「[とっとと、このしょうもない戦いを終わらせましょう!]」
「[そうだな]」
「[それがいい。うちの兵もこれ以上傷つけられたらたまったもんじゃない]」
「[あぁ、ここで消耗させてもな]」

私は再び棍を握り直し、先程白状させたローグの居場所に向かって突き進む。そして、ガンッと思いきり脚で蹴って開けると、そこにはローグの私室であろう場所で、荷物をまとめているローグがいた。

「〈……この期に及んで何をやっているの?〉」
「〈ひぃ!!?はっ!お、お前……っ、もしや、ステラか?〉」
「〈だとしたら?あんたはここで何をしているの〉」

私が会話している間、シグバール国王やクエリーシェル達は私の望み通りに背後で待機していた。心の中で自分のワガママに付き合わせて申し訳ないと思いつつ感謝をすると、キッとローグを見つめた。

「〈お、お前、逃げたんじゃ……っ!なぜここにいる!??〉」
「〈煩い、黙りなさい。あんたの性根叩き直しに来たのよ。師匠の弟子として〉」
「〈それは、親父の……っ!〉」
「〈えぇ、師匠の棍よ。託されたの、私が〉」

見せびらかすようにローグに棍を掲げれば、みるみると怒りを露わにするローグ。私はあえて彼の神経を逆撫でるように見せびらかすように棍を振るった。

「〈なんなの?このざまは。これで一国の王を気取っているとか……師匠が見たらどう思うでしょうね?〉」

師匠、の言葉にますます怒りを募らせるローグ。彼にとって師匠……父親の存在がコンプレックスだということはわかっていた。だからあえてそこを重点的に私は攻める。

「〈お前に……何がわかるっ〉」
「〈わかるわよ。いつも不遜で愚図な国王に虐げられるのは国民。帝国にいいように扱われて、師匠の意思を踏みにじり、娘であるメリッサをも毒牙にかけようとしたなんて〉」
「〈煩い、煩い、煩い、煩い……!!お前は何様なんだ!いつだってお前は親父の周りをうろちょろと目障りで、全部知ったかのような振る舞いで……っ!〉」
「〈そりゃ誰かさんみたいに自分の気持ちを察してくれるのを望んでただけじゃないからね。人間、言わなきゃわからないことばかりよ〉」
「〈煩い!!お前に俺の何がわかる!!!〉」
「〈わからないわよ!そんないつまでも子供のように駄々をこねてるだけのあまちゃんが!!いい加減現実から目を逸らさないでしっかりと見据えなさい!!あんたは国王なんでしょう!?師匠の教えを忘れたの!??〉」
「〈う、う、うぅうううう!!!!このクソが!殺してやる!!殺してやる!!!!〉」
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