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6章【外交編・ブライエ国】

43 痴話喧嘩

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「許すと思ったか?」
「許す許さないの問題じゃないです」
「またしてもこんな話になる。だから連れてくるのは嫌だったんだ」
「それはもう今更な話なので諦めてください」

一体何度目かというやりとりだ。クエリーシェルは眉間に皺を寄せ、今にも誰かを殺さんばかりの怒気を孕んでいたが、さすがにこう何度もやっていると慣れてくる。……慣れてしまうのもどうかと思うが。

「私が反対したところで譲らないだろう」
「えぇ、まぁ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ」

とてつもなく大きな溜め息を吐かれた。なんだかクエリーシェルがどっと老け込んだ気がするが、それを指摘するとまたふりだしに戻ってしまうので口を閉じておく。

「で、どういうプランなんだ?」

改めて話をすると、またしても頭を抱える。そりゃそうだ、ほぼ死地に向かっているようなものなのだから。

「わかりたくないが、時間もないのだろう?」
「よくおわかりで」
「もう嫌になってきたぞ」
「すみません」
「謝るならもう勘弁してほしいが」
「それは無理です」

はたから見たら何をやっているのかと思うかもしれないが、当人達はいたって真剣である。クエリーシェルは再び大きな溜め息をついたあと、「私はリーシェに着いていくからな」と絶対離れないとばかりに睨まれた。

「えぇ、守ってくださいね」
「はぁ、惚れた弱みというのはつらいな」
「尻に敷かれておりますねぇ」
「煩い、黙れ」

茶化すギルデルにすかさず殺気が飛んでくる。

(この2人の相性が悪すぎるのはどうにかならないのだろうか)

そう思っても実際無理な話なことはわかっているので、早々に諦めるとして作戦実行に取り掛かる。

隠し通路の仕組み上、少人数で行動するのがいいということで、少数精鋭でメンバーを組むことにする。

そのため、私とクエリーシェル、シオン、ギルデルの4人で隠し通路に行き、残りのメンバーが陽動として隊列を組みながら壁を攻め込むこととなった。

「[シオンがこっちに来ちゃって大丈夫なの?]」
「[おれ達を誰だと思っている?誉高きブライエ国の騎士達だぞ!?おれがいてもいなくても戦闘できるように仕上げているに決まっているだろう]」
「[は!我々だけでも攻略できると自負しております!!]」

確かにこの人達は歴戦の猛者達であり、勇敢な戦士なのだろう。仲間が目の前で次々にやられ、自軍の人数がかなり削られたというのにその瞳からは強い意志を感じる。

それが1人のみならず、ここにいる全員がまだ諦めていない事実。戦意が衰えることなく、まっすぐ勝ちに拘れるというメンタルの強さは見習うべき部分であろう。

「[ごめんなさい、失礼なことを言ったわね。忘れて。兵法については確認大丈夫?]」
「[あぁ、問題ない。あとは頼んだぞ!]」
「[はっ!シオン様もご武運を!!]」

騎士達はそう言うと一気に隊列を組み直す。その姿は圧巻の一言であった。

「[方円でゆっくりと前に攻め込むぞ!誰1人列を乱すな!!1人やられたら一気に崩れると思え!!]」
「[おぉおおおおおおお!!!!]」

そのままゆっくりと前進していく兵達。それを見届けると私達も移動を始める。

「何でボクがこちら側に……」
「案内する約束でしょう?それに、置いていかれたらどっちみち殺されるわよ」
「ですねぇ。ボクの立ち位置は現在危ういものですし、皇帝にボクの所業がバレたら殺されるだけじゃすまない」
「殺されるだけじゃすまないって、どういうこと?」
「皇帝は呪術に関して精通されてるとかどうとか。その辺りはリーシェさん……いえ、ステラさんのお姉様であるマーシャルさまがお詳しいのでは?」
「……なぜそこで姉様の名が出てくるの」
「さぁ?貴女ならご存知のはずでは?」

(この男、一体どこまで知っているのか)

姉にこの事実を教えてもらったのは生前ではない、死後だ。それなのにどうして彼は私がその事実を知っていると気づいているのかが疑問だった。

(カマをかけているのか、それとも別の何か理由があるのか)

さらに謎が深まるが、今はそれどころではない。シオンの「[そこの2人、おいていくぞ!くっちゃべってないで進めよ、お前ら!!]」という声かけと共に、お互い黙り込むとそのまま隠し通路へと向かうのだった。
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