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6章【外交編・ブライエ国】
34 父子
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「[随分とまぁ……凄いことになっているな]」
シオンが奥へ進むにつれて登場する罠の数々に感嘆の声を上げる。こうした罠など初めて見たのだろう。そもそも地下施設自体が珍しく、こうも入り組んだ作りというのは他国には見られないものである。
そもそも昔来たときとは違い、膠着状態になってからはシオン達はモットー国に入ったことがなかったはずだ。だからこそ、以前との差に大いに驚いていることだろう。
「[ステラはこういうのは詳しいのか?他国でもやっていることなのか?]」
「[いえ、全然。私もここまで手の込んでいるのは初めて遭遇したわ]」
「[ほう、やはりそういうものなのか]」
「[えぇ。とりあえずローグの代になってからこういうことを始めたんでしょうね]」
「[その労力をもっと別のところに生かせばいいと思うがな]」
シオンの溢した言葉に頷く。こんなことに手間も時間も金もかけるなら、もっと別のやるべきことがあったのではないかと思う。
(貧民街のことだって。本当自分達や上層部のことしか考えていない)
そしてこの考えは師匠の意志を全部踏みつけにするものだ。彼は常に平和な世になるように尽力していた。
以前に私達を呼んだのもここの国の地盤をいかに固くし、平和な世を築くにはどうしたらいいかの相談であった。私はそんなことそっちのけで物珍しい師匠のスキルや技などを得たいとひっついていたが。
その当時のローグの印象は希薄だった。だが、師匠にくっついているとき、殺気に似た歪んだ感情を向けられたことだけは覚えている。
私を睨むようにこちらに送られる視線。だからこそ私は元からローグに対してあまりよい感情を持ってなかった。
師匠もやけにローグには気を遣っているというか、変な距離感で接していたように思う。私が稽古をつけてもらっているときに向けられる視線に師匠がローグに一緒にやるか?と誘うもキッと睨まれてどこかに行ってしまう。
男同士は複雑なのだ、と師匠はよく言っていたが、私はそれが不思議で仕方なかった。
「[ねぇ、シオンはシグバール国王のことどう思ってるの?]」
「[うん?親父がどうかしたか?]」
「[いや、シオン達ってシグバール国王とどう接してるのかなーって]」
「[親父と、かぁ……]」
そう言って考え込んでいるのか黙り込むシオン。そんなに悩むような質問だっただろうか、と思いつつも彼の言葉を待つ。
「[そうだな。尊敬する師、かな]」
「[尊敬する師……]」
「[きっとラウル国王のことを師匠と慕っているお前とそんなに気持ちは変わらん。そもそもうちには早くから母がいなかったし。兄さんはちょっとは記憶にあるかもしれないけど、おれは全くないからな]」
「[確か、シオンを産んですぐに亡くなったんでしたっけ?]」
「[あぁ。だからかな、親父はおれに対して複雑な気持ちはあるんだと思う。おれを産んだことによって母さんが死んだわけだし]」
そう話すシオンはとても寂しげな表情だった。私みたいに部外者には踏み込めない領域。そこに何も考えずに足を踏み入れてしまった自分を恥じた。
「[なんだか、ごめんなさい]」
「[はっ、ステラが謝るなんて明日は砂嵐か?……なんて冗談だが、別に気にしてない。今更のことだし、おれと親父の関係は不器用だけど悪いもんじゃない。お互い言いたいことは言ってるつもりだし、あっちもそうだと思う。お互い気を使い合っても気持ち悪いしな]」
「[そういうもの?]」
「[そりゃそうさ!男同士でドギマギするなんて気持ち悪いだろ。しかも親父とだろ?絶対ないね!考えただけで寒気がする]」
そう話すシオンの表情は明るい。本心からそう思っていることがよくわかった。
「[いい関係ね]」
「[そうだぜ?羨ましいだろ]」
「[えぇ、本当]」
「[おいおい、冗談だったんだが……]」
そんな軽口を言い合いながら奥へと進む。司令部まではあともう少しだった。
シオンが奥へ進むにつれて登場する罠の数々に感嘆の声を上げる。こうした罠など初めて見たのだろう。そもそも地下施設自体が珍しく、こうも入り組んだ作りというのは他国には見られないものである。
そもそも昔来たときとは違い、膠着状態になってからはシオン達はモットー国に入ったことがなかったはずだ。だからこそ、以前との差に大いに驚いていることだろう。
「[ステラはこういうのは詳しいのか?他国でもやっていることなのか?]」
「[いえ、全然。私もここまで手の込んでいるのは初めて遭遇したわ]」
「[ほう、やはりそういうものなのか]」
「[えぇ。とりあえずローグの代になってからこういうことを始めたんでしょうね]」
「[その労力をもっと別のところに生かせばいいと思うがな]」
シオンの溢した言葉に頷く。こんなことに手間も時間も金もかけるなら、もっと別のやるべきことがあったのではないかと思う。
(貧民街のことだって。本当自分達や上層部のことしか考えていない)
そしてこの考えは師匠の意志を全部踏みつけにするものだ。彼は常に平和な世になるように尽力していた。
以前に私達を呼んだのもここの国の地盤をいかに固くし、平和な世を築くにはどうしたらいいかの相談であった。私はそんなことそっちのけで物珍しい師匠のスキルや技などを得たいとひっついていたが。
その当時のローグの印象は希薄だった。だが、師匠にくっついているとき、殺気に似た歪んだ感情を向けられたことだけは覚えている。
私を睨むようにこちらに送られる視線。だからこそ私は元からローグに対してあまりよい感情を持ってなかった。
師匠もやけにローグには気を遣っているというか、変な距離感で接していたように思う。私が稽古をつけてもらっているときに向けられる視線に師匠がローグに一緒にやるか?と誘うもキッと睨まれてどこかに行ってしまう。
男同士は複雑なのだ、と師匠はよく言っていたが、私はそれが不思議で仕方なかった。
「[ねぇ、シオンはシグバール国王のことどう思ってるの?]」
「[うん?親父がどうかしたか?]」
「[いや、シオン達ってシグバール国王とどう接してるのかなーって]」
「[親父と、かぁ……]」
そう言って考え込んでいるのか黙り込むシオン。そんなに悩むような質問だっただろうか、と思いつつも彼の言葉を待つ。
「[そうだな。尊敬する師、かな]」
「[尊敬する師……]」
「[きっとラウル国王のことを師匠と慕っているお前とそんなに気持ちは変わらん。そもそもうちには早くから母がいなかったし。兄さんはちょっとは記憶にあるかもしれないけど、おれは全くないからな]」
「[確か、シオンを産んですぐに亡くなったんでしたっけ?]」
「[あぁ。だからかな、親父はおれに対して複雑な気持ちはあるんだと思う。おれを産んだことによって母さんが死んだわけだし]」
そう話すシオンはとても寂しげな表情だった。私みたいに部外者には踏み込めない領域。そこに何も考えずに足を踏み入れてしまった自分を恥じた。
「[なんだか、ごめんなさい]」
「[はっ、ステラが謝るなんて明日は砂嵐か?……なんて冗談だが、別に気にしてない。今更のことだし、おれと親父の関係は不器用だけど悪いもんじゃない。お互い言いたいことは言ってるつもりだし、あっちもそうだと思う。お互い気を使い合っても気持ち悪いしな]」
「[そういうもの?]」
「[そりゃそうさ!男同士でドギマギするなんて気持ち悪いだろ。しかも親父とだろ?絶対ないね!考えただけで寒気がする]」
そう話すシオンの表情は明るい。本心からそう思っていることがよくわかった。
「[いい関係ね]」
「[そうだぜ?羨ましいだろ]」
「[えぇ、本当]」
「[おいおい、冗談だったんだが……]」
そんな軽口を言い合いながら奥へと進む。司令部まではあともう少しだった。
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