416 / 437
6章【外交編・ブライエ国】
33 制圧
しおりを挟む
「……これで終いか?」
ガンっ!
持っていた椅子をクエリーシェルが下に叩きつける。すると、それでハッと我に返ったらしい隊長が、一目散に逃げ出した。
「おや、逃げましたね」
「ケリー様」
「詰めが甘い!」
その辺にあった椅子をまた持ち上げると、そのままブンっと隊長に投げつけるクエリーシェル。そして、見事に彼の背に当たるとそのまま隊長は転び、蹲ったまま動かなくなった。
「以上か?」
「恐らく、もういないかと」
「そうか」
(これって、確実にさっきの怒りをぶつけているわよね……?)
未だに苛立った様子のクエリーシェル。興奮した様子はないが、落ち着いて見えるからこそなおのこと怖かった。
というか、まさかこんなに呆気なく倒せるとは思わず、私は構えていた連弩を大人しくしまっておく。
見回しても帝国兵達は未だ動かずのびたままなので、とりあえず紐で腕を縛り上げておき、シオン達に引き渡すためにそのまま転がしておいた。
「ケリー様、さっきのこと、怒ってます?」
「そう見えるのならそうなんだろうな」
「……ごめんなさい」
「別に謝って欲しいわけではないが、あまり自分を雑に扱うでない」
身体を抱き寄せられて背を撫でられる。そのあと頭を優しく撫でられて、こうして私のことを大事にしてくれることが嬉しかった。
そもそも怒っているのも、嫉妬という感情もあるだろうが、それ以上に私を想ってのことだと思うとあの選択をしてしまった自分が申し訳なくなる。
「……はい」
「まぁ、そのことについてはあとで詳しく話すが、とりあえず外の部隊を引き入れたほうがいいだろう。ここは私が見張っているから、呼んでくるといい」
「わかりました。あ、念のためギルデルも縛っておきます?」
「あぁ、それに関しては私がやろう」
「縛るなら、リーシェさんにお願いしたいのですが」
「なに、リーシェの手を煩わせるまでもないだろう?」
「お手柔らかにお願いします」
クエリーシェルの黒い笑みが恐い。ギルデルもクエリーシェルの不穏な様子に気づいているのだろう、ニコニコしつつもちょっと表情が引き攣っているような気がした。
「では、行ってきます」
「あぁ、気をつけて」
「はい」
私はあえて気づかないフリをしながら、クエリーシェルにあとを任せて迷宮を抜けてシオンの元へと向かった。
◇
「[シオン、お疲れさま!]」
「[おぅ!って、どっから湧いて出た!?ずっと探してたんだぞ]」
私達が地下にいる間に制圧を完了していたようで、どこもかしこもブライエ国の兵が闊歩していて、帝国とモットー国の兵の残党探しをしているようだった。
そのうちの1人にシオンの元へ案内してもらうと、彼は私達を相当探し回ったのか、はたまた戦闘が厳しかったのか、汗だくになっていた。
「[ごめんなさい、色々手間取ってたら遅くなっちゃって]」
「[それで?ギルデルは見つかったのか?]」
「[えぇ。ついでに帝国軍のここの拠点の隊長も確保してある]」
「[そうか、それにしても本部拠点はどこにあるんだ?大体見て回ったが、それらしいものは見つけられなかったぞ]」
「[それが、拠点は隠してあって、攻略するまでに時間がかかったのよ。とにかく案内するわ]」
「[あぁ、頼む]」
「[進捗はどう?]」
「[わりとすんなり制圧できた、と言ったところだろうか。こちらも数人負傷者は出たがそこまででもない]」
「[そう、それはよかった]」
みんなが無事と聞いて安堵する。やはり強国ブライエといえども、やはり戦争となると万が一ということが起こり得るから恐ろしい。
(シグバール国王も無事だといいけど)
同じような地下迷宮があるようなら手こずってるかもしれない、とそう思っている時だった。
「[そういえば、ここまで来るときに異臭騒ぎと謎に倒れて戦闘不能な兵が多かったんだが、お前達は何もなかったか?]」
思わぬ質問にギク、と身体が強張る。その様子に眉を顰めるシオン。
「[何だ、知っているのか?]」
「[……い、いえ、何も~?]」
「[怪しい……]」
「[と、とにかく、行くわよ!あ、気をつけないと怪我したり最悪死んだりするかもだから気をつけて着いてきてね]」
「[はぁ!?最悪死ぬってどういうことだよ!]」
とりあえず話を誤魔化して、他の兵に残務処理を命じたシオンを連れて行く。
(そういえば、ケリー様とギルデルを2人っきりにさせてしまったけど、大丈夫かしら)
あんまり大丈夫ではない気もしながらも、とりあえず何もないことを祈って拠点へと戻るのだった。
ガンっ!
持っていた椅子をクエリーシェルが下に叩きつける。すると、それでハッと我に返ったらしい隊長が、一目散に逃げ出した。
「おや、逃げましたね」
「ケリー様」
「詰めが甘い!」
その辺にあった椅子をまた持ち上げると、そのままブンっと隊長に投げつけるクエリーシェル。そして、見事に彼の背に当たるとそのまま隊長は転び、蹲ったまま動かなくなった。
「以上か?」
「恐らく、もういないかと」
「そうか」
(これって、確実にさっきの怒りをぶつけているわよね……?)
未だに苛立った様子のクエリーシェル。興奮した様子はないが、落ち着いて見えるからこそなおのこと怖かった。
というか、まさかこんなに呆気なく倒せるとは思わず、私は構えていた連弩を大人しくしまっておく。
見回しても帝国兵達は未だ動かずのびたままなので、とりあえず紐で腕を縛り上げておき、シオン達に引き渡すためにそのまま転がしておいた。
「ケリー様、さっきのこと、怒ってます?」
「そう見えるのならそうなんだろうな」
「……ごめんなさい」
「別に謝って欲しいわけではないが、あまり自分を雑に扱うでない」
身体を抱き寄せられて背を撫でられる。そのあと頭を優しく撫でられて、こうして私のことを大事にしてくれることが嬉しかった。
そもそも怒っているのも、嫉妬という感情もあるだろうが、それ以上に私を想ってのことだと思うとあの選択をしてしまった自分が申し訳なくなる。
「……はい」
「まぁ、そのことについてはあとで詳しく話すが、とりあえず外の部隊を引き入れたほうがいいだろう。ここは私が見張っているから、呼んでくるといい」
「わかりました。あ、念のためギルデルも縛っておきます?」
「あぁ、それに関しては私がやろう」
「縛るなら、リーシェさんにお願いしたいのですが」
「なに、リーシェの手を煩わせるまでもないだろう?」
「お手柔らかにお願いします」
クエリーシェルの黒い笑みが恐い。ギルデルもクエリーシェルの不穏な様子に気づいているのだろう、ニコニコしつつもちょっと表情が引き攣っているような気がした。
「では、行ってきます」
「あぁ、気をつけて」
「はい」
私はあえて気づかないフリをしながら、クエリーシェルにあとを任せて迷宮を抜けてシオンの元へと向かった。
◇
「[シオン、お疲れさま!]」
「[おぅ!って、どっから湧いて出た!?ずっと探してたんだぞ]」
私達が地下にいる間に制圧を完了していたようで、どこもかしこもブライエ国の兵が闊歩していて、帝国とモットー国の兵の残党探しをしているようだった。
そのうちの1人にシオンの元へ案内してもらうと、彼は私達を相当探し回ったのか、はたまた戦闘が厳しかったのか、汗だくになっていた。
「[ごめんなさい、色々手間取ってたら遅くなっちゃって]」
「[それで?ギルデルは見つかったのか?]」
「[えぇ。ついでに帝国軍のここの拠点の隊長も確保してある]」
「[そうか、それにしても本部拠点はどこにあるんだ?大体見て回ったが、それらしいものは見つけられなかったぞ]」
「[それが、拠点は隠してあって、攻略するまでに時間がかかったのよ。とにかく案内するわ]」
「[あぁ、頼む]」
「[進捗はどう?]」
「[わりとすんなり制圧できた、と言ったところだろうか。こちらも数人負傷者は出たがそこまででもない]」
「[そう、それはよかった]」
みんなが無事と聞いて安堵する。やはり強国ブライエといえども、やはり戦争となると万が一ということが起こり得るから恐ろしい。
(シグバール国王も無事だといいけど)
同じような地下迷宮があるようなら手こずってるかもしれない、とそう思っている時だった。
「[そういえば、ここまで来るときに異臭騒ぎと謎に倒れて戦闘不能な兵が多かったんだが、お前達は何もなかったか?]」
思わぬ質問にギク、と身体が強張る。その様子に眉を顰めるシオン。
「[何だ、知っているのか?]」
「[……い、いえ、何も~?]」
「[怪しい……]」
「[と、とにかく、行くわよ!あ、気をつけないと怪我したり最悪死んだりするかもだから気をつけて着いてきてね]」
「[はぁ!?最悪死ぬってどういうことだよ!]」
とりあえず話を誤魔化して、他の兵に残務処理を命じたシオンを連れて行く。
(そういえば、ケリー様とギルデルを2人っきりにさせてしまったけど、大丈夫かしら)
あんまり大丈夫ではない気もしながらも、とりあえず何もないことを祈って拠点へと戻るのだった。
0
お気に入りに追加
1,921
あなたにおすすめの小説
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる