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6章【外交編・ブライエ国】
26 戦争するということ
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「[シオン!この近くが地図にない村があるところだから気をつけて!]」
「[あぁ、ステラが前に行ったという村か。わかった、少々迂回しようか]」
シオンの指示で大きく迂回する。村を注視しながら進むと、こちらの動きに気づいたらしい帝国軍が慌ただしく村から飛び出してきた。
「[来たぞ!迎撃準備!!]」
どうやらこちらがこの村に立ち寄ると思っていたのだろう。だが、思惑とは裏腹にこちらが離れていったことに動揺したようで、動きがてんでバラバラで、隙をつくにはちょうどよかった。
「[リーシェ、離れるなよ!]」
「[はい、よろしくお願いします]」
クエリーシェルが私を庇うように前に行く。そして剣を構えると、そのまま向かってくる敵を斬り伏せていった。
「[リーシェ!大丈夫か!?]」
「[えぇ、ちゃんとついていってますよ!]」
後方からスリングで投石しながら支援をする。クエリーシェルが1人でバッタバッタとなぎ倒していくさまは圧巻ではあるが、やはり他の一般兵はクエリーシェルのようにはいかずに手こずっているようだった。
「[ちょっと支援してきます!]」
「[こら!私についてこいと、あれほど!!]」
「[大丈夫ですよ。ケリー様の後追いをしながらしますから。ケリー様も前方の敵は粗方倒しましたから、他の方の支援に向かってください!!]」
「[わかった。くれぐれも前に出るなよ!]」
「[わかってますよ~!!]」
ぶんぶんぶんぶん、と遠心力に任せて音を立てながらスリングを回す。残りはあと十数人といったところか。シオンも周りの敵を早くも一掃したようで、既に支援に回っていた。
相手も馬に乗っているため、速度や軌道、距離感を頭で計算しながらスリングショットを決めていく。
「{ぐぁあああ!!!}」
「{くそっ!}」
当てられた兵達はまさか死角から投石されるなどとは思っても見なかったのだろう、不意打ちに次々と落馬し、それをすぐさまブライエ国軍が囲っていった。
「[リーシェ!!]」
クエリーシェルから名前を呼ばれたと振り返れば、目の前には剣。
いつの間にか帝国兵が背後に回っていたらしく、すぐさま身体をそらせて馬の背に身体を預けたあと、その反動再び馬に飛び乗り、棍を取り出し大きく振るった。
「{うぐぁぁぁぁ!!}」
帝国兵はそのまま落馬していく。ふぅ、と詰まっていた息を吐くと「大丈夫か!?」とクエリーシェルが血相を変えてこちらまでやってきた。
「えぇ、どうにか。どうもありがとうございます」
「だから言わんこっちゃないと、あれほど……」
「すみません、助かりました」
周囲を見回せば、一通りは制圧できたらしい。多少の怪我人は出たようだが、こちらの死者はいなくてホッとする。
さすがに帝国兵は一人残らず駆逐したようだが。辺りには血溜まりができ、見るも無残な死体の数々に目を背けそうになるが、ジッと彼らを見つめる。
(戦争するということはこういうこと。毎度拘束わけにもいかないし、今後現れる敵はどんどん強くなってくるだろうし、それだけ帝国への忠誠心も強くなっていくはず)
だからこそ、目を背けてはいけない。自分がやろうとしていることに、しっかり向き合わなくてはならない。
(こんなことで気分を悪くしている場合ではない)
自分に言い聞かせながら、こみ上げる吐き気を必死で宥める。すると、クエリーシェルが「無理するな」と背を優しく叩いてくれる。
「ケリー様は私を甘やかしすぎです」
「お互いさまだろう?こういうのは慣れだ。無理して克服するものではない」
「そんなに私の顔色悪いです?」
「あぁ、真っ青だ。見たくないものを無理して見る必要はない」
(本当、ケリー様は私のことをよく見ている)
私の感情や思考を読み取って気づき、そして配慮してくれるクエリーシェルの優しさに甘えたくなる。だが、そう甘えてばかりではダメだと、心を鬼にして前を見据えた。
「[このままジャンスに向かうぞ]」
返り血を浴びたまま、シオンがこちらにやってくる。さすが慣れているせいか、顔色は1つも変わってなかった。
「[死体は?]」
「[このままだ]」
「[そう、わかった]」
事務的に会話をして隊列へと戻る。
(戦争とはこういうもの。墓さえも用意されない……家族に遺体が返されることもない……そんな悲しみの連鎖は私で全て終わりにさせる……!)
改めて戦争終結のために打倒帝国を心に誓いながら、当初の目的であるジャンスに向けて走り出した。
「[あぁ、ステラが前に行ったという村か。わかった、少々迂回しようか]」
シオンの指示で大きく迂回する。村を注視しながら進むと、こちらの動きに気づいたらしい帝国軍が慌ただしく村から飛び出してきた。
「[来たぞ!迎撃準備!!]」
どうやらこちらがこの村に立ち寄ると思っていたのだろう。だが、思惑とは裏腹にこちらが離れていったことに動揺したようで、動きがてんでバラバラで、隙をつくにはちょうどよかった。
「[リーシェ、離れるなよ!]」
「[はい、よろしくお願いします]」
クエリーシェルが私を庇うように前に行く。そして剣を構えると、そのまま向かってくる敵を斬り伏せていった。
「[リーシェ!大丈夫か!?]」
「[えぇ、ちゃんとついていってますよ!]」
後方からスリングで投石しながら支援をする。クエリーシェルが1人でバッタバッタとなぎ倒していくさまは圧巻ではあるが、やはり他の一般兵はクエリーシェルのようにはいかずに手こずっているようだった。
「[ちょっと支援してきます!]」
「[こら!私についてこいと、あれほど!!]」
「[大丈夫ですよ。ケリー様の後追いをしながらしますから。ケリー様も前方の敵は粗方倒しましたから、他の方の支援に向かってください!!]」
「[わかった。くれぐれも前に出るなよ!]」
「[わかってますよ~!!]」
ぶんぶんぶんぶん、と遠心力に任せて音を立てながらスリングを回す。残りはあと十数人といったところか。シオンも周りの敵を早くも一掃したようで、既に支援に回っていた。
相手も馬に乗っているため、速度や軌道、距離感を頭で計算しながらスリングショットを決めていく。
「{ぐぁあああ!!!}」
「{くそっ!}」
当てられた兵達はまさか死角から投石されるなどとは思っても見なかったのだろう、不意打ちに次々と落馬し、それをすぐさまブライエ国軍が囲っていった。
「[リーシェ!!]」
クエリーシェルから名前を呼ばれたと振り返れば、目の前には剣。
いつの間にか帝国兵が背後に回っていたらしく、すぐさま身体をそらせて馬の背に身体を預けたあと、その反動再び馬に飛び乗り、棍を取り出し大きく振るった。
「{うぐぁぁぁぁ!!}」
帝国兵はそのまま落馬していく。ふぅ、と詰まっていた息を吐くと「大丈夫か!?」とクエリーシェルが血相を変えてこちらまでやってきた。
「えぇ、どうにか。どうもありがとうございます」
「だから言わんこっちゃないと、あれほど……」
「すみません、助かりました」
周囲を見回せば、一通りは制圧できたらしい。多少の怪我人は出たようだが、こちらの死者はいなくてホッとする。
さすがに帝国兵は一人残らず駆逐したようだが。辺りには血溜まりができ、見るも無残な死体の数々に目を背けそうになるが、ジッと彼らを見つめる。
(戦争するということはこういうこと。毎度拘束わけにもいかないし、今後現れる敵はどんどん強くなってくるだろうし、それだけ帝国への忠誠心も強くなっていくはず)
だからこそ、目を背けてはいけない。自分がやろうとしていることに、しっかり向き合わなくてはならない。
(こんなことで気分を悪くしている場合ではない)
自分に言い聞かせながら、こみ上げる吐き気を必死で宥める。すると、クエリーシェルが「無理するな」と背を優しく叩いてくれる。
「ケリー様は私を甘やかしすぎです」
「お互いさまだろう?こういうのは慣れだ。無理して克服するものではない」
「そんなに私の顔色悪いです?」
「あぁ、真っ青だ。見たくないものを無理して見る必要はない」
(本当、ケリー様は私のことをよく見ている)
私の感情や思考を読み取って気づき、そして配慮してくれるクエリーシェルの優しさに甘えたくなる。だが、そう甘えてばかりではダメだと、心を鬼にして前を見据えた。
「[このままジャンスに向かうぞ]」
返り血を浴びたまま、シオンがこちらにやってくる。さすが慣れているせいか、顔色は1つも変わってなかった。
「[死体は?]」
「[このままだ]」
「[そう、わかった]」
事務的に会話をして隊列へと戻る。
(戦争とはこういうもの。墓さえも用意されない……家族に遺体が返されることもない……そんな悲しみの連鎖は私で全て終わりにさせる……!)
改めて戦争終結のために打倒帝国を心に誓いながら、当初の目的であるジャンスに向けて走り出した。
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