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6章【外交編・ブライエ国】

12 野暮な男

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「よっす、って、何だ?随分と辛気くせぇ顔してるな」

ノックもせずに部屋に入ってくるなり不躾なことを言ってくるセツナ。あぁ、この人本当マイペースだわ、と思いながらジト目で彼を見つめた。

「セツナさん。部屋入るときはノックしてください」
「おぉ、悪い悪い。で?どうした?」
「本当、こういうとこ無粋ですよね」
「あぁ、よく言われる」

(全く、この人は……)

相変わらず飄々として読めないと思いながら、右腕として彼を御してた紫がいかに凄いかを肌身で感じた。

「で?何の用です?」
「いや、明日以降のスケジュール把握しといたほうがいいと思って。あとはちょっとした雑談でもと思ってな」
「……それで、スケジュールはどんな感じです?」
「びっくりするなよ?3日後に出発する」
「え、3日後!?えと……開戦の宣戦布告はどうするんです?」
「そりゃ、オレさまが行くに決まってるっしょ。ついでに内部引っ掻き回してくるわ」

ちょっくら散歩してくるわ、みたいな軽いノリで言ってのけるが、実際にそうしてしまうのがこの男である。

クエリーシェルも鬼神と呼ばれるほど戦地では恐ろしいとよく聞くが、このセツナという男は軍神ともいうべきか、華麗な刀さばきでまるで舞の如く敵を斬り伏せていく男だった。

「お気をつけください」
「はっ、オレさまがそんな簡単にやられると思うか?」
「ですが、慢心は命取りですよ」
「本当、クソ餓鬼は言うことが紫に似てきたな。……オレさまの周りにいる姫はどいつもこいつも同じような思考なのかねぇ」
「ん?何かおっしゃいました?」
「いんや、何でも。というわけだから、オレさまは明後日から出立するからヴァンデッダさんの通訳諸々はよろしく頼んだぜ」
「あぁ、それに関しては大丈夫です。承知しました」

それにしても3日後というのは随分と急である。いや、事前に準備していただろうし、いつ始まってもおかしくないとは思っていたが。

「なんだ、不満か?オレさまがいなくて寂しいとか?」
「そんなことないですよ。あ、でも」
「でも、何だ?」
「ケリー様が一度手合わせしたいとおっしゃってたので、お相手していただければありがたいんですが」
「うん?まぁ、いいけど。明日軽く肩慣らしついでにいっちょやるか」
「お願いします」

ぺこりと頭を下げると、その上から手を乗せられたかと思えば力一杯にガシガシと髪を乱される。

「はん、クソ餓鬼のくせに一丁前に色気づきやがって」
「なっ、どこがです!?」
「惚れた男の頼みを聞いてくれ、だなんて健気じゃねぇか」
「別にそんなつもりじゃ……っ」
「もうヤったのか?」
「は?」
「だから、いまゆる性行ってやつ」

直球にとんでもないことを言われて、頭にカッと血が上る。

「してないです!てか、よくそんなこと聞けますね!!」
「えー、だって愛し合ってたらそういうことしたくなるのは必然だろ?」
「セツナさんはそうかもしれないですけど、ケリー様は違うんです!!」
「うわ、マジか。もしかして不能、とか?」
「あーもー!本当もう信じられない!出てって!!」

無理矢理セツナの身体を部屋の外まで押すと、そのまま強く扉を閉める。

(なんなんだ、あの男……っ!!)

ずるずるずる、と背を扉に預けてしゃがみ込む。

(ケリー様はそんなこと考えてるわけ……)

キスはしてるし、抱き合っている。それで十分ではないか、と思いながらももしかしてクエリーシェルもそういう欲求があるのかとちょっとだけ不安になる。

元々生い立ちのこともあって性的なことは避けて生きてきた傾向にあると聞いていたが、全くないというわけではないだろうし、と頭の中がぐるぐると同じ問答が繰り返される。

(ケリー様も私とそういうこと……)

考えなかったわけではないが、いずれそういうこともするのだろうか。でもそれがどういうことでどんなことをするのかは聞いたことはあれど実体験はもちろんなくて、正直恐い。

でも、クエリーシェルが求めるならば、と考えて、ふるると震えた。

「もう、何考えているんだろう、私」

セツナの言葉で破廉恥な妄想をしてしまった自分の頬を叩いて正気に戻る。そして明日に備えて、と寝る支度を始める。

結局なんだかその日はそわそわしてしまい、あらぬ妄想をしたりしまったりしてなかなかどうにも寝つけなかった。
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