上 下
388 / 437
6章【外交編・ブライエ国】

5 懐かしい顔

しおりを挟む
「[おぉ、随分と大きくなったな。ステラ姫]」
「[ご無沙汰してます、シグバール国王。相変わらずお元気そうで何よりです]」
「[ほう、社交辞令まで言えるようになったか。ハッハッハ、あの跳ねっ返りがこうも淑女然としてると調子が狂うな]」

だいぶ体調も戻り、やっと医者からの許可もおりたのでこうしてブライエ国の王、シグバールに謁見していた。

メリッサも私の体調が回復次第会うということでシグバール国王に会うのは今日が初めてのようで緊張しているようだった。

心なしか、そばにくっついているクエリーシェルも緊張しているところを見ると、私が不在の間に色々とあったのかもしれない。

「[私もそれなりに人生を重ねましたから]」
「[そうだな。あのときは間に合わず、申し訳ない]」
「[いえ、もう過ぎたこと。そもそもペンテレアまでの距離を向かおうとしてくださったそのお気持ちだけで嬉しいです]」

深々と頭を下げるシグバール国王に、こちらも頭を下げる。ペンテレアからブライエまでの距離は長く、またモットーを経由せねばいけないため、帝国に仕掛けるとなると非常に大変だったことは承知していた。

(こんな小娘にまで頭を下げてくださるなんて。相変わらず礼節を重んじる方ね。だからこそこの国は強固であり、国民の信頼が得られているのだろうけど)

以前会ったときよりも年は重ねたものの、さらに貫禄があって素敵なおじさまになっているシグバール国王。懐かしさを感じながら、こうして会えたことを素直に喜ぶ。

「[で、こちらが……ラウルの孫娘、と。名は?]」
「〈メリッサ、名前を言ってちょうだい〉」
「〈メリッサです〉」
「[そうか、メリッサか。ラウルは……]」
「[師匠は私達を逃すために命を張ってくれまして……]」

師匠から事前に預かっていた手紙を渡し、自分達がどんな目に遭ったか、ここまで何があったかなどを話した。

「[うむ。そうか……あのバカ息子はとことんバカだったということか]」
「[あいつは昔から自意識過剰だったからな]」
「[言えてる。大きな口は叩く癖に、まともに人を動かす能力もない]」

シグバールに続いて、長男のデュオンと次男のシオンが頷けば、ギロッと鋭い目つきでシグバールが睨んだ。

「[お前達も人のことを言えんだろう。一体誰のせいでワシが隠居できないと思っている!]」

ごつんごつん、と鉄拳がそれぞれに飛ぶ。大の2人を鉄拳制裁し、しかも沈めるというのはさすが国王だと素直に感心した。

「[で、嬢ちゃんは何をしに?]」
「[私は……帝国を倒す手伝いをしてもらいたく、参上しました]」
「[なるほど。利害の一致というやつか。よし、わかった。まずはお互いの情報を出し合おう、いいな?]」
「[もちろんです。よろしくお願いします]」

私の返事ににっこりと頷きガサガサと手荒く私の頭を撫でたあと、「[セツナ!説明は任せたぞ!]」と誰かを呼び、「[すまない、ちょっと席を外す。まずはこちらの情報をセツナから聞いてくれ]」と言って国王はそのまま部屋から出て行ってしまった。

というか、セツナという名前に聞き覚えが……と記憶を引っ張っていると、「では、せっかくだしわかりやすい言葉で話そうか」とにっこりと微笑む優男に、思わず口をポカンと開けてしまった。

「せ、聖上!??」
「リーシェ、知り合いだったのか?」

私のあまりの驚きように、クエリーシェルもびっくりした様子でこちらを見ていた。

「おぉ、クソ餓鬼。元気そうで何よりだ。てか、聖上なんて呼ばれるのは久々だからなんだか照れるなぁ……」

嬉しそうに頭を掻く目の前の男。前に会ったときとあまりに変わらぬ容姿に、この人は化け物かと頭の片隅で思ったのは秘密だ。

「いや、何で聖上がここに?」
「うん?オレさまはちょっくら出稼ぎにな。ちなみにもう聖上とかそういうのはなしになったから、気軽にセツナさん、とかセツナ様、とかでいいぞ」

相変わらずの軽薄さにジト目で見つめると、「そんなに見つめられると照れるなぁ」と満更でもなさそうなのがまたムカつく。

「リーシェ、話が見えてこないんだが、一体どういうことだ」
「あぁ、すみません」

置いてけぼりにされていたクエリーシェルが思わず横槍を入れてくる。すっかり話に夢中というか、衝撃が大きすぎて説明するのを忘れていた。

「この人はアガ国のクジュウリという里の長でして。前線から暗躍まで様々なことをこなすスペシェリストです」
「どうも、スペシャリストです」
「自分で言わないでください。それで、以前アガ国に行ったときに私が迷って家族と離れ離れになった間、保護してもらってお世話になったんです」
「あぁ、前にアーシャ王妃から聞いたような……」

何気に記憶力いいな、と思いながら渋々私は頷いた。

「えぇ、それですよ。でも、なぜセツナさんは出稼ぎに?国……というか里は大丈夫なんですか?」
「ん?もうだいぶ国が落ち着いちまったからな。平和なのはいいが、商売上がったり、ってことでオレさまは出稼ぎとして各地に傭兵として出向いてるわけ」
「そうだったんですね」
「そそ。だから各国色々渡り歩いているうちに言葉もたくさん喋られるようになって、そこのヴァンデッダさんのために通訳してたのさ」
「なるほど、通訳ってセツナさんのことだったんですね」

ブライエ国語を話せないクエリーシェルにとって、セツナがいたことは幸いだっただろう。何をするにでも意思疎通は必須だからこそ、彼がいたことによってスムーズにことが運んだことは感謝せねばならない。

「そうだぜ?感謝しろよ。オレさまのおかげでクソ餓鬼の命が助かったんだからな」
「それに関してはありがとうございます。でも、クソ餓鬼クソ餓鬼言わないでください」

一応感謝と共に釘を刺しておけば、「あーあー、煩い」とでも言うかのように耳を押さえたセツナがメリッサに向き合う。

「〈そこのお嬢ちゃんも、大丈夫かい?話についていけてなくて大変だろ。オレさまがあとで直々にブライエ国語を教えてやるからな〉」
「〈あ、うん。ありがとう、ございます……〉」
「ちょっと、メリッサに手出ししないでくださいよ」
「大丈夫、オレさまの守備範囲外だ!」
「信用できません」
「だんだんお前、紫に似てきたな……」
「似てませんよ。てか、紫さんは何してるんです?」

紫というのは彼の右腕となっていた女性だ。
とても武術に優れ、女性だというのに強く気高い人だった。

「あいつは……、まぁそんなことよりぐだぐだ喋りすぎた。そろそろ本題に入ろうぜ。[ほら、そこの王子達。お前達もぐだってんじゃねぇ]」

話をはぐらかされたことに引っかかりを覚えつつも、確かにずっと世間話をしているわけにはいかないと背筋を正した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます

やまなぎ
ファンタジー
9/11 コミカライズ再スタート! 神様は私を殉教者と認め〝聖人〟にならないかと誘ってきた。 だけど、私はどうしても生きたかった。小幡初子(おばた・はつこ)22歳。 渋々OKした神様の嫌がらせか、なかなかヒドイ目に遭いながらも転生。 でも、そこにいた〝ワタシ〟は6歳児。しかも孤児。そして、そこは魔法のある不思議な世界。 ここで、どうやって生活するの!? とりあえず村の人は優しいし、祖父の雑貨店が遺されたので何とか居場所は確保できたし、 どうやら、私をリクルートした神様から2つの不思議な力と魔法力も貰ったようだ。 これがあれば生き抜けるかもしれない。 ならば〝やりたい放題でワガママに生きる〟を目標に、新生活始めます!! ーーーーーー ちょっとアブナイ従者や人使いの荒い後見人など、多くの出会いを重ねながら、つい人の世話を焼いてしまう〝オバちゃん度〟高めの美少女の物語。

新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~

だいたいねむい
ファンタジー
6/2タイトル変更しました。 ※旧タイトル:勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』を得て料理無双を開始する。 勇者の仲間として旅を続けていた元死霊術師の冒険者ライノ・トゥーリは、あるとき勇者にその過去がバレ、自分の仲間にそんな邪悪な職業はいらないと追放されてしまう。 しかたなくシングル冒険者ライフを送るライノだったが、たまたま訪れたダンジョンの奥で、魔物を食べずにはいられなくなる魔王の力『貪食』を手に入れてしまう。 これにより勇者をはるかにしのぐ圧倒的な存在へと変化をとげたライノだったが…… 魔物の肉はとにかくマズかった。 これにて地獄のメシマズライフの幕開け……は絶対にイヤだったライノは、これまでの冒険者としての経験や魔術を駆使し、ひたすら魔物を美味しく料理することを決心する。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。 18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。 帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。 泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。 戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。 奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。 セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。 そしてその将兵は‥‥。 ※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...