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6章【外交編・ブライエ国】

1 お馴染みの場所

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温かい。ポカポカと、まるで日向にいるような心地だ。

(あぁ、私はとうとう死んだのか……?)

身体が軽い気がする。あれほど殴られたり髪を引っ張られたりしたというのに、なんだか気分はとてもよかった。

「もう死ぬことにした?」

聞き慣れた声に目を開ければ、そこにいたのはニコニコと微笑む姉の姿だった。

「あれ、私またここに来ちゃったの?」
「えぇ、そうみたいね。誰かさんはしょっちゅう無茶するから、ここの常連さんね」

いいのか悪いのか。姉がいるということは、ここはまた生死の狭間ということだろう。

我ながらここに来る機会が多すぎる、と思い返せば自分の無茶さ加減にちょっと呆れるのも事実だった。

先日お仕置きされたばかりだというのに、こうもすぐにここに来るというのは、我ながら学習できていないのかもしれないと自嘲した。

ニコニコしながらも姉が怒っているのはわかるし、その怒りは至極真っ当なものであり、だからこそこうして私にお灸をすえにきたのだろう。

「で、どうするの?もう生きるの諦める?」
「姉様、わかってるでしょ」

相変わらず意地の悪い姉だと思いつつも、自分のせいなのはわかっていた。姉も姉で私が反省したのを悟ったようでそれ以上何も言わない。

(でも、こういうやりとりしてるのがなんだかちょっぴり幸せだと言ったら姉様は怒るかしら)

こんなこと思ってはきっと姉に呆れられるだろうが、生前の頃よりも今のほうがなんだか彼女の本質が見えているような気がして、ちょっと嬉しかった。

まぁ、この思考も読まれている可能性は大いにあるけど、あえて口にはしなかった。

「そういえば、ギルデルに会ったのね」
「え、姉様知ってるの?」
「そりゃあね。あの子、バラムスカの側近だったから。昔からちょっと変わってる子だったけど、それは今も健在のようね」

くすくすと笑う姉に対し、私はムスッと膨れる。姉は当事者でないからいいとしても、絡まれた私はたまったものではない。

「変わってるってレベルじゃないわよ。変態だし、突拍子もないこと言うし」
「ふふ、本当男運ないわね、ステラは」
「煩い。別に私が好きでそういう人を惹きつけてるわけじゃないんだけど」
「まぁ、でも……貴女の周りの人って変わってる人ばかりよね」

言い返せなくて黙り込む。実際、クエリーシェルを含めて変わっている男性は多いとは思う。

だが、同時に変わってない男性だっていないんじゃないか、とも思いながらも、ダリュードやヒューベルトは変わってない男性ではないかと思い至って、彼らからは別に言い寄られていないという結論に至り撃沈する。

「こういうのって逆ハーレムって言うんですっけ?」
「そういうんじゃないから。てか、何しにきたのよ」
「あら、とうとう私にまで反抗期?やだ、アーシャに言ってお祝いしてもらわないと」

随分と砕けた性格というか、色々吹っ切れたせいか、姉もある意味振り切れている。この方が接しやすいといえば接しやすいのだが、死後もこうして変化があるのだと思うと不思議な感じだ。

「とまぁ、冗談はここまでにして。……以前も行言ったけど、ステラは今後あまり前線に立たないこと。このままだと本当に死ぬわよ」
「う。……わかった」
「本当に?」
「はい。今度こそ気をつけます」

実際に今回は何度死にかけたか。悪運が強すぎて、生きてはいるものの正直身体はぼろぼろである。殴られ、蹴られ、髪を引っ張られてのしかかられて。

恐らく私でなかったら死んでいたかもしれない。

「今後は戦争が起きる」
「戦争……」
「えぇ、モットーとブライエでね」

予想はしていた。だから驚きはないのだが、今までなんだかんだで実際に戦争を間近に見ることはなかったため、やはり緊張する。

自分が挑むのは帝国との戦争ではあるが、あくまで色々根回しをした上だ。大々的な戦争になるとなると初めてのことで、身が引き締まる。

いくら私が武術や剣術を習っていたとはいえ、実際の兵との戦闘では無力であろう。私は今回の戦争ではきっと足手まといになる。

「でも、場数を踏んでおくのはいいことだと思うわ?」
「うん?どういうこと?」

想像していたのとは違う姉の答えに彼女を見れば、ふっと口元を緩ませて優雅に笑った。

「あくまで前線には出ない。でもこの戦争の成り行きは見ておきなさいってこと。いずれ貴女にとって……今後の帝国との戦いにとって大事なことになるから」
「大事なこと……」
「そのためには自分の力を見誤らず、決して前に出ないこと。いいわね、約束よ?」
「うん、わかった」
「よろしい。ステラの帰りを待つ人はいっぱいいるのだから、決して生きることを諦めないで」

静かに頷く。

「でも、何がなんでも生きようと足掻く姿はとてもよかったわ。何かを守ろうとすることは大事よ。それは褒めてあげる。よく頑張ったわね」
「何よ、最後に姉様卑怯よ」

不意打ちに褒められて、うっと涙が込み上げてくる。すると姉は優しく私の頭を撫でたあと、背を押してこの世界から私を押し出すのだった。
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