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5章【外交編・モットー国】

43 鶴の一声

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「〈そこで何をやっているんだ〉」

とても鋭く、落ち着いた声だった。そして、まさに鶴の一声であった。

「〈やべっ!帝国兵だ!!〉」
「〈帝国兵が来たぞ!!〉」

蜘蛛の子を散らすように、群がっていた子供達が離れていく。残された私は服も髪もボロボロで、荷物は守れたものの、服は裂けてしまっていた。

(どうしよう。さっきの子供達、帝国兵が来たって言ってたわよね)

きっとヒジャブもズレて、この目立つプラチナの髪が露わになっているだろう。恐くて顔が上げられない。

(隙を見てダッシュで逃げようかしら。でも、逃げ切れる自信はない。いえ、それでもなんとしてでも逃げ切らないと)

頭の中でぐるぐると今後の逃走について考えているときだった。

「〈おや、キミはさっきの方では?大丈夫ですか?〉」

聞き覚えのある声におずおずと顔を上げれば、先程ナンパ男達から助けてくれた帝国兵だった。そして、優しく手を差し伸べられる。

(どうしよう、この手を取っていいのかしら)

差し伸べられた手を見つめながら考える。手を掴まれ、そのまま拘束されても困ると考えていると、「〈どうしました?もしかして酷い怪我をされてますか?〉」と追撃された。

さすがに子供の力と言えど容赦ない攻撃は痛いな、と思いながらも、立てないほどではない。好意を袖にするのは少し心苦しかったが、彼の手を取らずに自ら立ち上がることにした。

「〈お気遣い、ありがとうございます。では〉」

恭しくお辞儀をしたあと、そのまま踵を返してその場を離れようとしたところ、急に腕を掴まれる。振り解こうにも力が強く、どうもできなかった。

「〈え、あの、離してください〉」
「〈ちょっと待ってください。さすがにそのままの状態で見過ごせません〉」
「〈え、あの、何を……!?〉」

言いながら帝国兵の彼は上着を脱ぐと、私に被せてくる。そして、腕を引っ張ると腰を抱かれてグイッと引き寄せられた。

「〈いきなり何するんですか!〉」
「〈その髪、見られたらまずいのではないですか?〉」
「!!!!」

(やはり、正体がバレている!?)

私は身体を離そうともがくが、びくともしない。細身のわりには案外鍛えているらしい。

危機的状況に身構えると、帝国兵は人の良さそうな笑みを浮かべた。

「〈そう身構えないでください。何もとって食おうというわけじゃない。まずはそんな淫らな格好をどうにかしないと。そのままにしているだけでも先程の悪漢のような者達の餌食になります。ここは素直にボクのいうことを聞いておいたほうがいいですよ?〉」
「〈……何が狙いなの〉」
「〈狙い?特には。ボクは紳士ですから、淑女の方がそんな格好をしているのが心苦しいだけですよ〉」

真意の見えない笑顔に、一体この帝国兵の青年は何を考えているのかわからなかった。けれど、実際に彼の言い分も一理あり、このような格好のまま女性1人で歩くのはリスクが高いのも事実だ。

「〈とりあえず、まずは新しい服とヒジャブの用意をしましょう。近くによい仕立て屋を知っています。案内しますね〉」
「〈……わかりました、よろしくお願いします〉」
「〈あぁ、そうそう申し遅れました。ボクはギルデルと申します。ぜひ、ギルと気安くお呼びください〉」

ニコニコとそう自己紹介する目の前の男を脅威に感じながら、私はギルデルと共に服の仕立て屋に向かうのだった。
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