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5章【外交編・モットー国】

38 噂話

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「〈すみません、デーツください〉」
「〈はーい。あら、おうちの御使い?この辺の子じゃないでしょう〉」
「〈そうなんです。田舎から旅をしてまして〉」

ミネラル、カリウムが豊富でこれさえあれば砂漠で乗り越えられると噂のデーツを買っておこうと店に行くと、目敏く店主らしき女性から声をかけられる。

「〈あら、若いのだから気をつけなさいよ?最近物騒だから〉」
「〈物騒、ですか?〉」

先程のヒューベルトを見習って、あえて話題を拾う。すると、やはり喋りたかったらしい店主は食い気味で色々と話してくれた。

「〈そうそう。危険な女性の2人組がいるって帝国兵が言って追いかけてるらしいわよ。でも、ねぇ?危険な女性って言われても想像つかないし、しかもその女性2人を追いかけて帝国が目を光らせるってのもなんだか変な話じゃない?私が思うに、何か帝国の秘密をその女性達が握ってると思うのよ〉」
「〈な、なるほど〉」

店主は名推理とばかりに自論を展開していく。普段からこう言った話題に食いつくタイプなのだろう、初対面だというのにぐいぐいくる。

「〈帝国を揺るがす秘密って何かしらねぇ?お嬢ちゃん、なんだと思う?〉」
「〈うーん、何でしょうねぇ……〉」
「〈私はきっと皇帝が実は女だったとか、本当は死んでるとかその辺りだと思うんだけど……〉」
「〈おい、あんまりベラベラ喋ってんじゃねぇぞ?下手に帝国兵に聞かれたら連行されるぞ〉」
「〈あら嫌だ、私ったら。つい夢中になっちゃって。ごめんなさいね?〉」

奥から男性が来たと思ったら、女店主が窘められる。様子的に女店主の主人だろう。話の内容から察するに、下手なことを言うと拘束されるということだろうか。

であれば、ここでも権力を振りかざしての圧政を敷こうとでもしているのかもしれない。

「〈帝国ってそんなに恐ろしいんですか?〉」
「〈ん?嬢ちゃん、帝国を知らないのかい?〉」
「〈えぇ、そうらしいよ。田舎から来たんだって〉」

私が口を挟む間もなく女店主がペラペラと喋る。きっとお喋り好きなのだろう、おかげで下手にボロも出すことなく、喋る手間も省けてちょうどよかった。

「〈そうかい。帝国兵……ほら、あそこにいる小綺麗な鎧を来た連中だが、あんまり近づかないほうがいいぜ?最近例の娘達が見つからないと、手当たり次第に女を見つけてはヒジャブを剥がしたり連行したりしてるらしい〉」
「〈酷い話よねぇ!女性を何だと思ってるんだか!!〉」
「〈お前はそういうことないからって僻むんじゃねぇよ!〉」
「〈僻んでるわけじゃないわよ!私は女の子がそういう目に合ってるのが気に食わないだけよ!!〉」
「〈またまた、そんなこと言って……〉」
「〈何よ、何が言いたいのよ〉」

なんだか2人の雲行きが怪しくなってきたので、品物を受け取り、お金を払って「〈ありがとうございました!〉」と礼を言えば、そそくさと立ち去る。

デーツは買ったし、靴も先程新しいものを仕入れておいた。あとは日除け用の布だが、なるべく軽い薄手のものがいいだろう。

(情報聞き出すにしても、加減が難しいなぁ……)

下手に根掘り葉掘り聞くわけにもいかないが、かと言って聞かなければわからない。しかも下手に情報収集していることがバレて帝国兵などに目をつけられては厄介だ。

(さっきの店主達の内容的に帝国兵はなりふり構っていられなくなったということか?)

私が知らないうちに色々と状況が変わっている可能性もある。そもそも、他国だというのに帝国が力を奮っているのも気になる。

(わからないって不便ね)

やはり情報はあるに越したことがない。とにかく色々聞き込みせねば、と聞きたいことを頭の中で整理しつつ、いかにスマートに聞き出せるのか逡巡しゅんじゅんするのだった。
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