上 下
346 / 437
5章【外交編・モットー国】

30 連弩

しおりを挟む
「〈とりあえず、買ってくるものは服と日除け、それに食糧。できれば日持ちするもので。あと、もし余裕があれば、さっきメリッサが言っていた村の位置も調べて欲しいです。できますか?〉」
「〈はい。やってきます〉」
「〈うん、任せて〉」

心強い返事に、とりあえずちょっとホッとする。先程まで腫れた顔は、近くのせせらぎで清めたおかげで綺麗に戻っていた。

「〈名前、本名だとヒューベルトさんは異国の人だとバレますし、メリッサはメリッサで手配中だから本名を使うのはリスキーだから、それぞれ偽名を使いましょうか〉」
「〈なら、ヒューベルトさんがウムトであたしはミリーでどう?〉」
「〈いいわね、ではそうしましょう〉」

とりあえず、ヒューベルトさんをウムト、メリッサをミリーと呼ぶことにする。

ちなみに、何か意味がある言葉なのかと聞けば、こちらの名付けで定番の名前らしく、昔の言葉でウムトは希望、ミリーは月のように輝くという意味らしい。

「〈ステラはここで待っていて。すぐ戻ってくるから〉」
「〈わかった。ここで大人しく待ってます〉」

なんだか急に、お姉さんのように頼もしくなるメリッサ。ヒューベルトがいる手前、しっかりしているところのアピールかと思うとなんだか微笑ましくなってくる。

「〈では、いってきます〉」
「〈はい、気をつけて〉」

そして、2人は同じ馬に乗ると、そのまま一番近くの街へと駆けていくのだった。

「さて、私は私で何かしますか」

大人しく待っているなんて時間がもったいない。だから、何かしようと思ったのだが何をしようか。

(ヒューベルトさん用にできれば武器を用意したいのだけど、これ!と言ったものがないのよね)

隻腕せきわんとなってしまった今、今まで通りに大振りの剣を使うのは難しいだろう。そうなると片手剣だろうが、なにぶん片腕がないぶんバランスが悪く動きづらいだろう。

そうなると、他の武器がいいだろうが、かと言って隻腕の騎士などあまり見たことなく、書籍などでも記載があった試しがないので適当な武器が思いつかなかった。

(片手で操作できる武器っていうと難しいわね……)

片手剣、槍、棍、鉄球……いずれも片手で扱えるが、とはいえどれもこれも無意識で両手があってこそ真価を発揮するものである。

扱えなくもないが、付け焼き刃でバランス感覚を身につけるのは難しいだろうし、戦闘でバランスを崩すのは致命的だ。となると……

「片手でバランスを無視して扱える武器。そんなものあったかしら……」

ぼんやりと考えるが思いつかない。そこで、思いつく限りの武器を脳内で挙げていく。

(剣、槍、棍、大剣、鞭、斧、弓……)

弓、と考えたときに、そういえばある文献で自動装填式の弓があったことを思い出す。

(確か、連弩れんどという名前だったかしら。いくつか先に装填しておいて、引き金を引いたら次の矢が番るようになるとかなんとか……だったような。うん、それならヒューベルトさんでも扱えるはず)

仕組みがどうだったか、と古い記憶を呼び起こす。

なにぶん文献を見たのが結構前で、まだペンテレアにいた頃のことだったため、多少記憶は曖昧になりつつあるが、基本的に記憶したことは覚えている性分なのでどうにかなるはずだ。

「まずは用意できるところまで用意しておきましょう。多分、寄せ集めでもできるはず」

幸い、何か使える可能性にあるものは乙女の嗜みとして色々と持ってきてある。そして今いる場所は森の中。木を用意するのには最適な場所である。

まずはとにかくやってみよう、と早速試作機造りに取り掛かる。斧は今手元にないので、仕方なしに先程兵から取り上げた剣でそれほど大きくない木を切っていく。

「はぁ、……大仕事になりそうね」

だが、何もしないでただぼんやり待っていても仕方ない。時間は有益に使わねば、と私は連弩造りに励むのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月
ファンタジー
最強の賢者として名を馳せていた男がいた。 魔法、魔道具などの研究を第一に生活していたその男はある日間抜けにも死んでしまう。 死んだ者は皆等しく転生する権利が与えられる。 その方法は転生ガチャ。 生まれてくる種族も転生先の世界も全てが運任せ。その転生ガチャを回した最強賢者。 転生先は見知らぬ世界。しかも種族がまさかの…… だがしかし、研究馬鹿な最強賢者は見知らぬ世界だろうと人間じゃなかろうとお構い無しに、常識をぶち壊す。 差別の荒波に揉まれたり陰謀に巻き込まれたりしてなかなか研究が進まないけれど、ブラコン拗らせながらも愉快な仲間に囲まれて成長していくお話。 ※拙い作品ですが、誹謗中傷はご勘弁を…… 只今加筆修正中。 他サイトでも投稿してます。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪役令嬢は安眠したい。

カギカッコ「」
恋愛
番外編が一個短編集に入ってます。時系列的に66話辺りの話になってます。 読んで下さる皆様ありがとうごぜえまーす!! V(>▽<)V 恋人に振られた夜、何の因果か異世界の悪役令嬢アイリスに転生してしまった美琴。 目覚めて早々裸のイケメンから媚薬を盛ったと凄まれ、自分が妹ニコルの婚約者ウィリアムを寝取った後だと知る。 これはまさに悪役令嬢の鑑いやいや横取りの手口!でも自分的には全く身に覚えはない! 記憶にございませんとなかったことにしようとしたものの、初めは怒っていたウィリアムは彼なりの事情があるようで、婚約者をアイリスに変更すると言ってきた。 更には美琴のこの世界でのNPCなる奴も登場し、そいつによればどうやら自分には死亡フラグが用意されているという。 右も左もわからない転生ライフはのっけから瀬戸際に。 果たして美琴は生き残れるのか!?……なちょっとある意味サバイバル~な悪役令嬢ラブコメをどうぞ。 第1部は62話「ああ、寝ても覚めても~」までです。 第2部は130話「新たな因縁の始まり」までとなります。 他サイト様にも掲載してます。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...