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4.5章【閑話休題・マーラの物語】

マーラの物語14

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「マーラ!!」

聞き慣れた声に顔を上げれば、そこにはブランシェ国王がいた。

(本物……?)

白昼夢でも見ているのだろうか。先程悪夢を見たばかりの今では、これが現実かどうかの判断ができなかった。

だが、優しく頭を撫でられ、「大丈夫かい?つらかったろう」と慰めの言葉をもらうと勝手に涙が滲んでくる。

(あぁ、これは現実だ。ブランシェ国王はワタクシを助けに来てくださった)

「あぁ、こんなに痛々しい姿に……。申し訳ない、僕が不甲斐ないばかりに。今までよく頑張ったね、あとは僕に任せてくれ」

ブランシェ国王の服は乱れ、顔には汗が滲んでいる。急いで駆けつけてくれたのだろう、それだけでもう胸がいっぱいだった。

「【くそ……っ、あいつ荷台から……っ!】」
「【バレちまったじゃないか!どうする!?】」
「【仕方ない、逃げるぞ……っ!!】」
「【逃がさないよ。よくも僕の大切な人を傷つけたね】」

ブランシェ国王はワタクシから離れると、すぐさま逃げ出した誘拐犯に向かって走り出す。

あっという間に追いつかれた2人は、体術なのだろうか、片方は足元を掬われ、もう片方は首根っこを引っ張られて、それぞれ一瞬で転ばされる。

そして、何かをしたのかいくつか攻撃を加えると、誘拐犯はそのまま地面に這いつくばったまま動かなくなった。

あまりの強さと華麗に彼らを打ちのめしたことに、呆気にとられる。ブランシェ国王の違った一面が見れて、それはそれでよかったが、これほどまでに強いとは思わなかった。

「もう大丈夫だよ。すまない、今このロープを外すから」

戻ってくるなり、ワタクシの手足に巻きつけられていたロープを外してくれる。やっと自由になった腕や足を見ると、やはり擦れてしまったせいか赤く腫れてたり、血が滲んでいたりしていた。

ブランシェ国王は、ワタクシを縛っていたロープを持ち、そのまま誘拐犯のところへ行くと先程ワタクシがされたように縛り上げていく。

そして、気を失っているのか、ぐったりとした様子の男達をそれぞれ1人ずつ担いでは荷台へと放り投げていった。

「あぁ、だいぶ強く拘束されていたようだね。痛くはない?」

テキパキと後始末をしたあとこちらへ再び戻ってきて、身を案じてくれる。ところどころ痛みはするが、我慢できないこともない。

しいて言えば、現在のずたぼろの状態をブランシェ国王に見られていることが恥ずかしいが、もう今更どうしようもなかった。

「えぇ、多少は痛みますけど、そこまでは」
「そうか、マーラは強い子なんだね」
「いえ、そんなことは。ブランシェ国王はとてもお強いのですね。男2人相手だというのにあっという間に倒してしまって」
「いや、まぁ……ステラに負けじと体術を習っていてね。それなりにはマスターしてる、かな?あ、ステラには秘密にしておいてくれるとありがたい。彼女、すぐに張り合ってきそうだから。って、あんまりゆっくりお喋りしている余裕はなかった。とにかく、城へと戻ろう。ステラを待たせてしまっている」

ステラを待たせている、の言葉に一気に現実に引き戻される。

(あぁ、そうだった。今日は結婚式の日だったのに)

なぜ、ワタクシが連れ去られ、ブランシェ国王が迎えに来てくれたかは不明だが、ブランシェ国王が救出してくれたことの余韻に浸っている場合ではなかった。

何らかの理由があって、ワタクシを探しにきてくれたのだろう。正直、助けに来てくれたことはとても嬉しかったが、結婚式というハレの舞台を台無しにしてしまったことには違いなく、自己嫌悪する。

「あぁ、その、ごめんなさい。せっかくの結婚式だというのに、ワタクシ……」
「あー、その辺の話は道中詳しく話すよ。キミがなぜ攫われてしまったかも含めてね。さて、歩けるかい?いや、ここは僕がエスコートさせていただこう」

ひょい、と身体を持ち上げられる。抗議する間もなく、馬車の御者台に乗せられると下された。

「馬を繋いだら出発しよう。すぐに終わるから、ちょっと待っていてね」

訳もわからず頷くと、ブランシェ国王は追いかけるために乗ってきたであろう馬を馬車へと繋ぎ始めるのをぼんやりと見ていることしかできなかった。
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