上 下
312 / 437
4.5章【閑話休題・マーラの物語】

マーラの物語12

しおりを挟む
そんなワタクシの様子に気づいているのかいないのか、ジッとワタクシを舐めるように見始めるステラ。この人は本当に読めない人である。

「そういえば、言いそびれてましたが、その衣装お綺麗ですね。マーラ様にとてもお似合いです」

言われて、言葉が詰まる。これは一体、なんて返すのが正解なのかしら。ブランシェ国王からいただいたものだと伝えたら、さすがのステラも気分を悪くするかしら、とちょっと悩む。

沈黙してても仕方ないので、とりあえず「え……あぁ、そうですわね。ありがたい、ことですわね……」辿々しく答えるだけで精一杯だった。

その後も質問攻めにあい、思いのほかワタクシとブランシェ国王とのことを気にしてるようなそぶりを見せるステラ。

それがちょっと嬉しくもあったが、あまり詮索されたらボロが出てしまうのはわかっていたので、どうにか話をそらす。

だが、何を考えているのか、やけにニヤニヤとこちらを見てくるのにはどうにも腹が立ったのはワタクシだけでなく、皆あの顔を向けられたらそう感じるであろう。

(一体、何を考えているのかしら)

これから結婚する相手のことを話題にして、それで戸惑っているワタクシを見てニヤニヤする。

ここだけ聞いたら、ステラはどれほど下賤で悪辣な人物だと思われるだろうが、どうにも本人を見てるとなんだかそうも言い切れないのが不思議である。

とりあえず、絵に集中せねばとステラの相手はそこそこに、筆を滑らせることに集中することにした。

絵を描くのも楽しいが、案外こうして人に装飾を施すのも楽しい。カジェにいたときは化粧はされてばかりだったが、人にするのも楽しいかもしれない。

(それにしても、ステラはされてくすぐったくないのかしら)

ずっと同じ体勢でいるのはつらいだろうと思うが、ステラはそんな様子をおくびにも出さずに、ずっとワタクシや他の方々が描き終わるのをずっと待っている。

自分がカジェにいたときは「早く終わらせて」「いつまでやっているの」と侍女をよく急かしていたが、こうしてみると理不尽なことを要求していたのがよくわかった。

(本当、ワタクシは自分のことばかり。ステラのこういうところを見習わないといけないのかもしれないですわね)

ブランシェ国王も、きっとワガママな娘より、ステラのような分別がある女性が好きなのだろう。であれば、ワタクシもそのような女性を目指さなくては。

例え、ブランシェ国王とは結ばれなくても、他の誰かと結ばれるようにはなるはずだから。

「ふぅ、終わりましたわ」
「ありがとうございます。どれもこれもとても美しいです」
「お、お世辞は結構ですわよ! 乾くまでは放っておいてとのことですので、触らないでくださいな」
「はい、わかりました。大人しく待ってます」

ワタクシよりも年上なはずなのに、とても無邪気な人だと思う。普段は大人びているのに、こういう素の部分ではどこか年相応というか、それ以上に若さを感じた。

本当のステラはどちらなのだろう、と考えながら、手についてしまったヘナを拭い落としておく。

「では、ワタクシはこれで。結婚式、楽しみにしておりますわ」
「ありがとうございます、マーラ様」

自分でも、本音で言ってるのか建前で言ってるのかよくわからなかった。

でも、ブランシェ国王も好きだが、ステラのことも程々には好きである。だから、2人が幸せになるのであれば、それはそれでいいとも思うが、やっぱり心のどこかではそれを否定する自分がいた。

(恋ってこんなに苦しいものだったのね……)

初めて味わう感情。今まで与えられたものを、ただ受け入れるだけの自分にはないものだった。

(好きになるというのは、幸せなことだけじゃないのね)

ただ結婚し、幸せに暮らすことだけを夢見ていたが、現実はそんな簡単なものではないと実感していたその時だった。

「……っ!んぅ、……っぅうううう!!!!」

突然、真っ暗となる視界。そして、大きな手で塞がれる口。

何が起こっているかもわからず、ジタバタと暴れれば「【静かにしろ!】」と首を絞められる。

「ううううぅうううぅう……っ!!……ふ、っ!!」
「【暴れると、今すぐ殺すはめになるぞ】」

息が苦しい。このまま、本当に死ぬのではないかと思った。

「【こら、殺すんじゃない!こいつは生かしておくようにとの命令だっただろ】」
「【あ、あぁ、そうだったな……。ついカッときちまって……】」

ふっと首から手を離されるも、意識が遠のいていく。

(あぁ、ワタクシ……どう……ブランシェ国王……)

そのまま、ワタクシの意識は消えてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

処理中です...