上 下
301 / 437
4.5章【閑話休題・マーラの物語】

マーラの物語1

しおりを挟む
ワタクシの世界は両親と侍女、ただそれだけだった。

人付き合いなどしなくても、両親から言われて通りに生きていけば旦那様も見繕ってくれるし、幸せになれると信じていた。

だから2人を見習い、特に母のように愛される存在を目指した。学などいらず、ただ旦那様のためだけに美しく、愛嬌さえあればいいのだとそう思って実行していた。

例え、それが自分に合わないと思っていても。

例え、それが苦痛だったとしても。

だけど現実は、伴侶となる見込みがありそうな方を見繕みつくろってあつらえられても、なぜかことごとくフラれてしまう。

最初こそ両親も一緒にいるときには好意的な態度を取るというのに、いなくなった途端に手のひらを返され、冷たくされる。

それはなぜか、まだ幼いワタクシにはわからなかったが、今ならわかる。……ワタクシの父が王家の血筋であり、王の弟だからだ。

特に父は前々王妃がとてもとても可愛がっていたということもあり、ワガママ放題だったらしい。ワタクシはもちろん当時のことを知らなかったが、周りの大人達が密かに吐く悪口を聞く限り、どうやら事実のようだ。

「あそこの身内になると色々と厄介なようだ。だから、適当にその場だけ繕ってその後合わなかったと言えばいい」

それが共通認識として私達の知らぬところで広められ、ワタクシはまるで道化のように実りのないお見合いをいくつもさせられた。

けれどワタクシは、周りから何と言われようとも、これ以外の方法を知らなかった。女性が生きていく術は幸せな結婚であり、それを信じてきたし、そのように教育されてきたから。

今回がダメでも次がある。あてはいくらでもあると、両親は自分達が原因であることなど露知らず、ワタクシにそう言い続けるのだった。

「……何ですの、これ」

あるとき、侍女の忘れ物であろう本が、ワタクシの部屋の机に残っていた。学は必要ないからと本はほとんど読んだことがなかったものの、ページを開くとそこには文字がぎっしりと詰まっていた。

文字は目にしたことはあるが、教えられなかったので読むことはできない。だが、なぜかこの文字を読みたいと、ここに何て書いてあるか読みたいとそう思った。

でも、両親に聞いたところで本自体を取り上げられるのは目に見えているし、かと言って持ち主に聞いたところで雇い主である両親に報告されてしまうだろう。

では、他に誰に聞けばよいか……。

そう考えたとき、誰にも聞けないのであれば自分で調べればいいのではないか、と気づく。

(今日はお稽古などない日だし、ちょうどいいですわ)

ワタクシはこっそりと部屋を出て、あえて近道の両親の部屋前を通らない道を通りながら図書館へと向かう。

図書館には実に様々な本があった。絵がたっぷり書かれているものや、先程のように字がぎっしりと書かれているもの。

ワタクシは目についた本を手に取る。よくよく見れば子供向けの本のようだが、絵の端にいくつか書かれている文字さえもよく読めずに自分の無知さにガッカリした。

「あらあら、珍しい。マーラ様ではございませぬか」

ビクッと背筋に衝撃が走る。まさか声をかけられるとは思わず、恐る恐る振り返ると、そこには1人の老婆がいた。

「何かお探しですか?」
「あ、いえ……あの……」

上手く言葉が出てこず、もどかしい。

考えてみたら、普段は見知った人達と会話することばかりで、あまり知らぬ人と両親がいないときに会うのは初めてかもしれない。

大抵私がこうしてもごもごとまごついていると、助け舟を出してくれることが多かったが、今はその頼み綱である母もおらず、どうしようと内心パニックであった。

「マーラ様はどんな本がお好きですか?」
「え、っと……ワタクシは……」

しどろもどろになるワタクシを見て察したのか、老婆はにっこりと微笑むとワタクシの手を引いて「では、気になる本を探しましょうか」と図書館の中を案内してくれる。

これが、ワタクシとこの図書館司書でありワタクシに様々な知識を与えてくれた老婆、カルーとの出会いだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

【完結】私の婚約者(王太子)が浮気をしているようです。

百合蝶
恋愛
「何てことなの」王太子妃教育の合間も休憩中王宮の庭を散策していたら‥、婚約者であるアルフレッド様(王太子)が金の髪をふわふわとさせた可愛らしい小動物系の女性と腕を組み親しげに寄り添っていた。 「あちゃ~」と後ろから護衛のイサンが声を漏らした。 私は見ていられなかった。 悲しくてーーー悲しくて涙が止まりませんでした。 私、このまなアルフレッド様の奥様にはなれませんわ、なれても愛がありません。側室をもたれるのも嫌でございます。 ならばーーー 私、全力でアルフレッド様の恋叶えて見せますわ。 恋情を探す斜め上を行くエリエンヌ物語 ひたむきにアルフレッド様好き、エリエンヌちゃんです。 たまに更新します。 よければお読み下さりコメント頂ければ幸いです。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...