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4章【外交編・サハリ国】

89 女性らしさ

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「以前もお話したかもしれませんが、両親はとてもとてもワタクシを可愛がってくださいました。……自分達の都合のいいように」
「都合のいいように……?」
「えぇ。彼らの思った通りでないと修正が加えられるのです。女性には知識がいらぬ、ただニコニコと可愛らしく美しくいるのがよいのだと」

そういえば、そんなことを言っていたような気がする、と過去の会話を思い出す。女性らしく、というのは私も実際によく言われていた言葉だが、姉とは違う自分を追い求めていたからこそ、そういった概念は早々に排除していたが。

「でも、それでアーシャ様に出会ったのですわ」
「アーシャに?」
「えぇ。あの方はとても美しく、女性らしくありながら、知的で何もかもが優れていて。ワタクシの理想そのものだったのです」

曰く、女性らしさを兼ね備えながらも人として成熟している部分に惹かれたとか。

ただの意地としてわかりたくないと思いながらも、実際に理解できる部分はある。

アーシャは非常に賢い。認めたくはないが。それぞれの立場や状況を全て理解して先回りして根回しをしておく。それを相手に悟られずにすることがとても多く、一般的に言うなら気配りに長けた人物である。

自分が表に出ず、相手を尊重して引き立てる。女性らしさ、と言われる謙遜をしながらもきとんと抑えるところはきちんと抑える。

それによって救われる部分はたくさんあった。今回の船旅に関してもそうである。彼女の目に見えない働きによって私はだいぶスムーズに色々なことができている気がする。

そういう部分は素直に尊敬するし、凄い部分だと思う。……まぁ、本人に対してそう言うことを言うかどうかは別の話だが。

「アーシャは、あれでも苦労人ですからね」
「そうなんですの?」
「……えぇ。本来はアーシャの上に歳の離れた兄が何人かいたそうですが、いずれも何かしらのことが理由で亡くなってしまったそうで。アーシャの下にも子供を作ろうとしたそうですが、結局できず。……だから彼女に色々な負荷がかかってしまいまして。本人はあまり言いたがらないですけど」

アーシャはあまり弱みを見せたがらない人だった。そこは私と彼女との共通点でもある。親から多くのことを望まれ、精一杯努力し、成果を出してきた。

私や諸外国の人々に対して優しかったカジェ国王夫妻はやはり身内にだけは見せる手厳しさはあるらしく、それを一身で背負っていたアーシャ。

私に対してだけ、なぜか意地悪と共にかまってくれたり愚痴ったりすることもあった気もするが、気を許せる人物がそれだけ少なかったのだろうと思う。

「あ、私がこういうこと言ってたっていうのは秘密で。アーシャに殺されかねないので」
「……あのアーシャ様が?」
「あのアーシャは結構恐い人なんですよ」

そういえば、過去に呪いだなんだと持ちかけられたことを思い出す。占術の国なら身内を呪えるかしら?と溢されたときは、本気なのかどうか判断に迷ったが、今思えば本気と冗談半々と言ったところだろうか。

「そうなんですのね。でもワタクシ、アーシャ様みたいになりたくて、両親に隠れて必死で勉強致しましたの」
「あぁ、それで色々と語学や他国についてお学びに?」
「深夜、家族が寝静まった頃を見計らって図書館に忍び込みましてね。最初はバレたらどうしようかとドキドキしましたが、たくさんの知識が詰め込まれている本の数々に、それはそれは興奮しまして。そんな気持ちはどこかへ行ってしまいましたわ」
「ふふ、その気持ちはわかります」

私も大声では言えないがよく色々なところに忍び込んでいた。図書室はもちろん、キッチンや庭園やら色々なところに行っては、日中できないようなことを隠れてやっていた。

「まぁ、結局何度かそのまま寝入ってしまってバレてしまいますが、その時もアーシャ様がかばってくださいましてね。私が彼女にお使いを頼んでしまったのよ、と」
「なるほど」
「まぁ、そのあとはアーシャ様にあまり庇えないから、日中に自由時間を与えるから夜に忍び込むのはやめてね、と釘は刺されましたが」

私のようにオープンではないものの、案外彼女もおてんば娘のようだ。アーシャに言ったら「類は友を呼ぶのね」と言われそうな気もするが。
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