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4章【外交編・サハリ国】
60 焼き菓子
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あれから数日、思いのほかのんびりとした日々を過ごしているころだった。式まであと2日、と控えたある昼下がりのことである。
ランチのあとの食後のティータイムとして出された焼き菓子に、ふと違和感を覚えた。
「ブランシェ、ちょっと貴方の焼き菓子を頂戴」
「ん?食べかけだが」
「いいから。ちょっと貸して」
「間接キスを御所望とは随分と大胆だな。とうとう僕の魅力に気づいてくれたか。ならいっそ、直接してもいいんだぞ?」
そう言いながら近づいてくるブランシェを軽く手でいなしながら、彼の食べかけの焼き菓子を口に含む。
(やはり味が違う)
「ブランシェ、私のちょっと食べてみて」
「口移しでかい?」
「もう、そういうのいいから……!」
言いながら彼の口に差し出す。そして私が持つ焼き菓子を囓り、味わうように咀嚼する。
「何となく味が違うような」
「えぇ、多分だけどアシュワガンダが入ってるみたい」
「アシュワガンダ……?」
「カジェ国にある常緑低木の名前よ。その根からは誘眠作用があると言われているの。あと、この紅茶はカモミールティーだし、これに関してもリラックス、安眠効果があるとされているわ」
「つまり……?」
「今日仕掛けてくる可能性があるってこと」
ここまであからさまに寝入りさせようとするというのは、悪意以外の何者でもないだろう。ここのところずっとブランシェがくっついていたし、さすがの前国王夫妻も痺れを切らした、と言ったところだろうか。
この調子なら、夕食にはさらに色々と仕込んでくるはずだ。ブランシェに言って侍女に用意されていた紅茶を下げてもらい、違う紅茶を用意してもらう。もちろん、レモンバームなどの他の誘眠作用のもの以外を指定する。
「どうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、迎え撃つしかないでしょう」
「迎え撃つって……キミはどうしてそう荒々しく考えるんだ?」
「そういう性分だからね」
(さて、どう迎え撃とうかしら)
誘眠作用を利用したということは、寝込みを襲うつもりだということは予想できる。であれば、今夜が正念場だとは思うが。
「一緒の部屋で寝るか?」
「それは無理」
「そんな、即答せずとも……」
食い気味で返答しながらも、思考をフル回転させる。一応ブランシェと部屋は隣同士とはいえ、先日のクエリーシェルの件しかり、抜け道はなくはない。
そして、自国の兵で前国王夫妻側の人間さえ配置すれば仕掛けてくることなど造作もないことだ。
(さて、どうするか……)
今回やることは2つ。捕まらないことと、相手の確保である。
そもそも私が捕まってしまっては元も子もない。だからもちろん用心はするが、さすがの多勢に無勢では厳しいものがあるだろう。ブランシェと共にいるのは拒絶したものの、協力はあおがなくてはならない。
そしてもう1つがとても重要だが、相手の確保である。もし逃げられてしまった場合、待ち構えていたことがバレてしまうし、下手に相手に悟られてしまうのはあまりよろしくはない。
そのため、確保のちそのまま拘束し、情報をあまり与えぬようにして、相手には何があったのかと混乱させておきたい。
そのためには、できるだけスマートに騒ぎにならぬようにするのがベストなのだが……。
「ねぇ、ブランシェ」
急に声のトーンを落として、上目遣いで隣に座っているブランシェに徐々に近づきながら下から見上げる。その際に、そっと彼の太腿に手をつくのは忘れない。
「何だい、急にそんなおねだりをするように……。やっぱり僕の力が必要なのではないかな?僕はいつでもキミのそばで一晩中でも待機できるよ?」
「……私の言うこと、聞いてくれる?」
近づく顔を利用して、自らも顔を近づけていく。そしてゆっくりと、耳元で囁けば、「ごくり」と生唾を飲み込む音が聞こえた。
「も、もちろん。キミの言うことなら僕は聞くよ!」
「そう、ありがとう。では、コルジールの……クエリーシェル・ヴァンデッダ卿を呼んでちょうだい?」
「うん、……ってはぁ!???」
にっこりと微笑むと、ブランシェは理解できないとでも言うように、目を丸くしていた。
ランチのあとの食後のティータイムとして出された焼き菓子に、ふと違和感を覚えた。
「ブランシェ、ちょっと貴方の焼き菓子を頂戴」
「ん?食べかけだが」
「いいから。ちょっと貸して」
「間接キスを御所望とは随分と大胆だな。とうとう僕の魅力に気づいてくれたか。ならいっそ、直接してもいいんだぞ?」
そう言いながら近づいてくるブランシェを軽く手でいなしながら、彼の食べかけの焼き菓子を口に含む。
(やはり味が違う)
「ブランシェ、私のちょっと食べてみて」
「口移しでかい?」
「もう、そういうのいいから……!」
言いながら彼の口に差し出す。そして私が持つ焼き菓子を囓り、味わうように咀嚼する。
「何となく味が違うような」
「えぇ、多分だけどアシュワガンダが入ってるみたい」
「アシュワガンダ……?」
「カジェ国にある常緑低木の名前よ。その根からは誘眠作用があると言われているの。あと、この紅茶はカモミールティーだし、これに関してもリラックス、安眠効果があるとされているわ」
「つまり……?」
「今日仕掛けてくる可能性があるってこと」
ここまであからさまに寝入りさせようとするというのは、悪意以外の何者でもないだろう。ここのところずっとブランシェがくっついていたし、さすがの前国王夫妻も痺れを切らした、と言ったところだろうか。
この調子なら、夕食にはさらに色々と仕込んでくるはずだ。ブランシェに言って侍女に用意されていた紅茶を下げてもらい、違う紅茶を用意してもらう。もちろん、レモンバームなどの他の誘眠作用のもの以外を指定する。
「どうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、迎え撃つしかないでしょう」
「迎え撃つって……キミはどうしてそう荒々しく考えるんだ?」
「そういう性分だからね」
(さて、どう迎え撃とうかしら)
誘眠作用を利用したということは、寝込みを襲うつもりだということは予想できる。であれば、今夜が正念場だとは思うが。
「一緒の部屋で寝るか?」
「それは無理」
「そんな、即答せずとも……」
食い気味で返答しながらも、思考をフル回転させる。一応ブランシェと部屋は隣同士とはいえ、先日のクエリーシェルの件しかり、抜け道はなくはない。
そして、自国の兵で前国王夫妻側の人間さえ配置すれば仕掛けてくることなど造作もないことだ。
(さて、どうするか……)
今回やることは2つ。捕まらないことと、相手の確保である。
そもそも私が捕まってしまっては元も子もない。だからもちろん用心はするが、さすがの多勢に無勢では厳しいものがあるだろう。ブランシェと共にいるのは拒絶したものの、協力はあおがなくてはならない。
そしてもう1つがとても重要だが、相手の確保である。もし逃げられてしまった場合、待ち構えていたことがバレてしまうし、下手に相手に悟られてしまうのはあまりよろしくはない。
そのため、確保のちそのまま拘束し、情報をあまり与えぬようにして、相手には何があったのかと混乱させておきたい。
そのためには、できるだけスマートに騒ぎにならぬようにするのがベストなのだが……。
「ねぇ、ブランシェ」
急に声のトーンを落として、上目遣いで隣に座っているブランシェに徐々に近づきながら下から見上げる。その際に、そっと彼の太腿に手をつくのは忘れない。
「何だい、急にそんなおねだりをするように……。やっぱり僕の力が必要なのではないかな?僕はいつでもキミのそばで一晩中でも待機できるよ?」
「……私の言うこと、聞いてくれる?」
近づく顔を利用して、自らも顔を近づけていく。そしてゆっくりと、耳元で囁けば、「ごくり」と生唾を飲み込む音が聞こえた。
「も、もちろん。キミの言うことなら僕は聞くよ!」
「そう、ありがとう。では、コルジールの……クエリーシェル・ヴァンデッダ卿を呼んでちょうだい?」
「うん、……ってはぁ!???」
にっこりと微笑むと、ブランシェは理解できないとでも言うように、目を丸くしていた。
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