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4章【外交編・サハリ国】
57 今後のスケジュール
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「随分とのんびりしてるけど、今後はどういう手筈の予定?」
「ん?」
朝食後、優雅なティータイムを過ごしているブランシェに尋ねる。どうも何ていうか、危機感が足りない気がするのは気のせいだろうか。……彼の気質の問題もあるだろうが。
「だから、今後のスケジュール」
「あぁ、今日はこのあとキミのドレスの採寸がメインだよ。あとはドレスの色味や装飾品、装花なども見てもらう」
「擬似なのに随分と念入りにやるのね」
「そりゃ、本格的にやらないとあちらも本気にしないだろうからね。婚礼前にどうにかキミがいなくなって、婚礼中止という形に持っていきたいのだと思うよ」
(まぁ、普通に考えてあちら側としてはそれがベストでしょうね)
国の威信を傷つけずに、悪いのは全て私……ステラ・ルーナ・ペンテレアということになる。ブランシェにも心象を悪くし、ゴードジューズ帝国には恩が売れる。絶好の機会だと思うだろう、あちらは。
……こちらが全て計画していることだとは知らずに。
そういう意味では確かに前国王夫妻は浅慮というか、短絡的ではあるように思う。いいかえせば、それほどまでに切羽詰まっている状況とも言えるが。
「では、私はどちらに行けば?」
「基本的に僕の私室で行うよ。色々と物騒だからね。できれば、式の当日までは僕と一緒に過ごしてくれ」
「じゃあ、決行は式当日?」
「あぁ、その方が周りが証人ということでことが運びやすいからね」
自分の両親のことだというのに、随分と淡々としているな、と思う。だが、今の表情にこそ出ていないものの、私には推し測れないほど彼なりの葛藤があったことだろうと、あえて何も言わなかった。
「では、あまり悠長にしてても仕方ないしな。せっかくの機会だ、存分に我が国の技術や衣装を楽しんでくれ」
外に呼びかけると、数人の女性が中にぞろぞろと入ってくる。その手には様々な衣装や装飾品があった。
「【よろしくお願いしますわ、次期王妃様】」
「【あーーー……よろしくお願いします】」
深々と丁寧に礼をされて、気まずい。あくまで擬似にすぎず、計画のためとはいえ彼女達だけでなく多くの人々に嘘をついているのはなんとなく落ち着かなかった。
(まぁ、今後もそうは言ってられないのだろうけど)
何に対しても良心の呵責に苛まれているようでは、国を担う者としては不適切であろう。どんな背景や意志があろうとも、自分が決めたことのためには邁進する他ない。
(私に、そうやって割り切ることができるのだろうか)
正直、自信はない。以前のクエリーシェルに拾われる前ならそういう割り切った考えもできたであろうが、今こうして色々な感情を知ってしまったからには、なかなかどうにも割り切れない部分が出てきてしまっている。
でも、それは悪いことではなく自分にとってはいいことだと思える。我ながら葛藤していることが、何だか人生が充実しているように思えた。
(って、自分に言い訳してるだけかもしれないけど)
まだまだ自分は甘ちゃんだな、と自虐しつつ彼女達に促されるままに薄着になろうとしてある者の存在に気づく。
「って、いつまで見てる気?」
「バレたか」
あからさまに、指摘されなければ居座るつもりであっただろうブランシェ。相変わらずというか、油断も隙もあったものではない。
「バレたか、じゃないでしょ!こういうときって新郎は見ないもんじゃないの?ちょっと席外しなさいよ」
「まぁ、仕方ない。では、隣室で待っている。何かあればすぐに呼べよ?」
「はいはい。ほら、さっさと行って」
(全く。そういうとこ、ちゃっかりしてるんだから)
どこまで本気なんだか、と内心苛立ちながらも、一応この国の当主であるため顔に出さぬように努めながら、彼女達が言うままに採寸されるのだった。
「ん?」
朝食後、優雅なティータイムを過ごしているブランシェに尋ねる。どうも何ていうか、危機感が足りない気がするのは気のせいだろうか。……彼の気質の問題もあるだろうが。
「だから、今後のスケジュール」
「あぁ、今日はこのあとキミのドレスの採寸がメインだよ。あとはドレスの色味や装飾品、装花なども見てもらう」
「擬似なのに随分と念入りにやるのね」
「そりゃ、本格的にやらないとあちらも本気にしないだろうからね。婚礼前にどうにかキミがいなくなって、婚礼中止という形に持っていきたいのだと思うよ」
(まぁ、普通に考えてあちら側としてはそれがベストでしょうね)
国の威信を傷つけずに、悪いのは全て私……ステラ・ルーナ・ペンテレアということになる。ブランシェにも心象を悪くし、ゴードジューズ帝国には恩が売れる。絶好の機会だと思うだろう、あちらは。
……こちらが全て計画していることだとは知らずに。
そういう意味では確かに前国王夫妻は浅慮というか、短絡的ではあるように思う。いいかえせば、それほどまでに切羽詰まっている状況とも言えるが。
「では、私はどちらに行けば?」
「基本的に僕の私室で行うよ。色々と物騒だからね。できれば、式の当日までは僕と一緒に過ごしてくれ」
「じゃあ、決行は式当日?」
「あぁ、その方が周りが証人ということでことが運びやすいからね」
自分の両親のことだというのに、随分と淡々としているな、と思う。だが、今の表情にこそ出ていないものの、私には推し測れないほど彼なりの葛藤があったことだろうと、あえて何も言わなかった。
「では、あまり悠長にしてても仕方ないしな。せっかくの機会だ、存分に我が国の技術や衣装を楽しんでくれ」
外に呼びかけると、数人の女性が中にぞろぞろと入ってくる。その手には様々な衣装や装飾品があった。
「【よろしくお願いしますわ、次期王妃様】」
「【あーーー……よろしくお願いします】」
深々と丁寧に礼をされて、気まずい。あくまで擬似にすぎず、計画のためとはいえ彼女達だけでなく多くの人々に嘘をついているのはなんとなく落ち着かなかった。
(まぁ、今後もそうは言ってられないのだろうけど)
何に対しても良心の呵責に苛まれているようでは、国を担う者としては不適切であろう。どんな背景や意志があろうとも、自分が決めたことのためには邁進する他ない。
(私に、そうやって割り切ることができるのだろうか)
正直、自信はない。以前のクエリーシェルに拾われる前ならそういう割り切った考えもできたであろうが、今こうして色々な感情を知ってしまったからには、なかなかどうにも割り切れない部分が出てきてしまっている。
でも、それは悪いことではなく自分にとってはいいことだと思える。我ながら葛藤していることが、何だか人生が充実しているように思えた。
(って、自分に言い訳してるだけかもしれないけど)
まだまだ自分は甘ちゃんだな、と自虐しつつ彼女達に促されるままに薄着になろうとしてある者の存在に気づく。
「って、いつまで見てる気?」
「バレたか」
あからさまに、指摘されなければ居座るつもりであっただろうブランシェ。相変わらずというか、油断も隙もあったものではない。
「バレたか、じゃないでしょ!こういうときって新郎は見ないもんじゃないの?ちょっと席外しなさいよ」
「まぁ、仕方ない。では、隣室で待っている。何かあればすぐに呼べよ?」
「はいはい。ほら、さっさと行って」
(全く。そういうとこ、ちゃっかりしてるんだから)
どこまで本気なんだか、と内心苛立ちながらも、一応この国の当主であるため顔に出さぬように努めながら、彼女達が言うままに採寸されるのだった。
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