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4章【外交編・サハリ国】

55 発表

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「どうしたんだ?首元が赤く……腫れているのか?」
「え?……、あぁ、虫にでも刺されたのかも」
「そうか、気をつけてくれ。毒があったら大変だ」
「そうね。今のところ痛みとかはないけど、今後気をつけるわ」

チラッとクエリーシェルを見れば、聞こえてはいるのだろうが、わざとこちらを意識しないようにしているらしい。むしろ周りのヒューベルトやマーラの方がこちらというか、私達を意識しているようだった。

ヒューベルトは何かクエリーシェルに耳打ちしてるようだが、クエリーシェルは適当にあしらっているように見える。

何となくその様子は冷たく、ヒューベルトも硬くなってしまっているように見受けられた。

(元々人嫌いだし、言い方とか人の機微とかに疎いとこあるからなぁ……)

ニールみたいな特殊な人物ならともかく、なかなかあの大きさで威圧感がある人に無碍にされたら普通の人は凹むだろう。ヒューベルトが気落ちしていないといいが。といらぬ心配をしてしまう。

「ねぇねぇ、ステラ。やはり国王陛下と……」

食事の途中、横から脇腹をツンツンされる。今日も昨日に引き続きマーラは私の隣の席にいてもらっているのだが、そちらを向くと何やらニヤニヤ顔のマーラがこちらを見ていた。

まぁ、察するに私のことを揶揄からかおうとしているのだろう。

「それに関しては、まぁ後ほど……」
「まぁ!もったいぶっていらっしゃるのね。ふふふ、ワタクシも皇女ですし、色々理解しておりますわよ?ふふふ」

下手なことを言って拗らせてもしょうがないので、あえてそこはノーコメントだ。どうせこのあと大々的に発表するのだろうし。

(擬似だけど。あくまで擬似だけど……!)

「そういえば、知ってらっしゃいます!?」
「何がですか?」

急に先程とは打って変わったテンション。相変わらず気分の高低差が激しい。……若いからだろうか。いや、マーラだからだろうか。

「クエリーシェル様ですよ!今朝お会いしたら、目元が大きく腫れ上がっていらっしゃって……!本当おいたわしい……」

しくしくとあの麗しいご尊顔が……、と嘆いているマーラ。視線の先には、ある程度離れていてもわかるほどに顔を腫らしたクエリーシェル。

(言えない。あれは私がしたことだと……)

不可抗力ではあったとはいえ、案の定一夜が明けてクエリーシェルの目元は変色し、腫れてしまっている。前髪で多少隠してはいるものの、彼の目元は変色しているのが傍目から見てすぐ気づける状態だった。

あの蹴りが眼球にいってなくてよかったとは思いつつも、申し訳なさが込み上げてくる。

「そうですね。何かあったのでしょうかね……?」
「ワタクシも詳しくはお聞きできてないのですが、不注意だとか……。でも、不注意であの方があんな怪我をするとは……」
「そ、そうですね……」

疑問はごもっともである。そりゃコルジール国の軍総司令官が、不注意であんな怪我するなんていうのはある意味不祥事レベルだろう。

「きっと、不意打ちでたくさんの御仁に囲まれたりして不利な状況で襲われたのだわ……!クエリーシェル様のことを妬む方がきっといらっしゃるのですわ」

(なんか勝手に陰謀的な話になってる)

マーラの妄想力の凄まじさに舌を巻きつつも、あまり下手なことを大きな声で言うと国際問題に発展するからやめてほしいところではあるが。

(せっかくの美味しいお料理だというのに、気がそぞろになってしまって味がわからない……)

その日の朝食もまた、気分が落ち着かなさすぎてあまり味わえたものではなかった。

「ところでステラ。いつ発表する?」
「1週間後だというのであれば、早急に」
「では、この場である程度告知をしようか」
「えぇ、それでよろしいかと。国民の皆々様方にもお伝えせねばならないことですが、……あまり情報が広がりすぎても問題かと」

実際、下手に他国に漏れてしまっても問題である。国内であればある程度内々でことが済ませられることでも、他国が介入してくると途端問題が複雑化する。

今回の婚礼もあくまで囮だ。前国王夫妻を確実に行動不能にするための餌に過ぎない。それなのに、万が一ゴードジューズに話が行ってしまってサハリ国に何かあってしまっては目も当てられない。

というわけで、国民のいる前ではなく今回は城内での発表のみという形にする。国民には例え噂で広まったとしても、実際の発表がなければ上手く誤魔化しが効く。

そして前国王夫妻が何かしてきた場合も、ブランシェの都合のいいようにことを運ぶようにすることができる。

コルジールの人にとっては寝耳に水の案件で申し訳ないが、騙すにはまず身内から、というし、ここはちょっと騙されてもらうしかない。

「【今回、遠路遥々長い航海を経てお越しいただいたコルジールの皆様に重大なお知らせがございます】」

席を立ち、ブランシェが発言したことを後追いして私もコルジール語に訳す。クエリーシェル以外の人達が一斉にこちらを向くのに、多少の圧力を感じながらも、ブランシェに続いて発言する。

「【この度、サハリ国の王である僕、ブランシェとこちらにいるペンテレア国第2皇女ステラ様とこの度結婚することとあいなりました。つきましては突然ではありますが、1週間後に挙式をする予定ですのでぜひご参列ください】」

ザワザワザワザワ、とする室内。その視線は一点、私に全て集中する。

(みんな、振り回してごめんなさい)

私はみんなの反応が恐くて、視線を合わせることなく、ただ深々とお辞儀することしかできなかった。
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