上 下
252 / 437
4章【外交編・サハリ国】

51 自己嫌悪

しおりを挟む
「何てことだ……」

ふらふらとベッドに戻る。まさか自分が隠せていたつもりなことが、全然全くこれっぽっちも意味をなしてなかっただなんて。

(ある意味、恥ずかしい……!)

くそくそ、と内心自分に毒づきながらベッドの上を転がり回る。その様子はまるで思春期の子供だった。

(いや、そもそも前はできてたはず)

ついこの前囚われてたときだって、マーラに表情が読めないと言われたばかりだ。でも、他の人には……?

少なくともクエリーシェルの家に来る前後はできてたはずだ。そこは自信がある。でも、正直その後はあまり自信がない。

総合して鑑みるに、きっとクエリーシェルとの交流によって色々な部分が露呈してしまっているのだろう。意図していなかったことではあるが、ある意味以前クエリーシェルに言われた「年相応でいてくれ」の通りになってしまった。

(それがケリー様だけでなく、他の人まで察せるほどボロが出てるなんて……!)

「あぁあああぁあぁああああ」

枕に顔を突っ伏しながら、羞恥のままに謎の言葉を吐き続ける。考えれば考えるほどに己れのダメダメさを思い出してしまって自己嫌悪に陥る。

気の緩みすぎ以外に他ならず、あまりのていたらくに穴があったら入りたい気分だった。

ガタガタ……っ

「……っ」

素早く物音に気づいて、布団に潜る。

(一体誰だろうか。まさかもう、私を攫いに?)

不意打ちに、心臓が激しく鼓動を打つのを息を殺しながら落ち着かせる。

(そっちはその気なら……)

侵入者が布団に手をかけた瞬間、ガバッと勢いよく侵入者に向かって布団を蹴り上げると、そのまま視界を奪うように被せる。

そして、その勢いのまま、身体を捻らせて顔面らしき場所に蹴りをお見舞いすると、すかさず首があるだろう部分に脚を絡めて締め上げる。

「うぐ……っ!う、あ……、……シェ……!」

首を締め上げているからだろうが、ジタバタとしながら何かを言っている。何だろう、と耳を傾けると布団で覆われてるためにくぐもっていて上手く聞き取れなかったものの、何となく聞き覚えのあるような声だった。

「リー……っ、シェ……っ!……だ、……っ」
「……ん?」

なぜか名を呼ばれた気がして、脚の力を緩める。恐る恐る布団を剥がすと、そこには顔面を腫らしたクエリーシェルがいた。

「け、け、ケリー様!??な、なぜここ……っふが……っ!!」
「しー!静かに。黙って抜け出してここまで来たのだ。大きな声を出すでない」
「あ、ごめんなさい。でも、何で……」
「リーシェに会いたかったからだ」

言われて、キュンとしてしまう。先程まで散々ブランシェに口説かれていたというのに、クエリーシェルからの言葉は一撃だった。

カッと顔が熱くなるのが自分でもわかる。こんな一言で舞い上がってしまうなんて、我ながら単純だ。

「わ、私も会いたかったです……」
「そうか……」

ギュっとクエリーシェルにしがみつくように抱きつく。久々の彼の逞しい体躯に抱きしめられて、匂いや体温などに癒される。

(久々に触れられる)

そうして、束の間の幸せを感じているときだった。

「ステラ!大丈夫か!?今、大きな物音がしたが……!」
「あ、やば」

先程の私の大声に気づいたのか、慌ててブランシェが自室から駆けつけたようで、コンコンと大きなノックを何度もしながら外で叫んでいる。

しかも切羽詰まっている様子から察するに、今にでも突入してきそうな勢いである。

(これはまずい)

「ケリー様、隠れて!」
「え、ちょ……!リーシェ!?ふが……っ」

勢いよくクエリーシェルの腕をひくと、そのまま自分が入っている布団の中に引き入れる。多少こんもりと山ができているのは致し方ないが、どこかに隠す時間もないし、どうにか誤魔化せるだろう。

「ステラ、無事か!??」

そう思ったと同時に、ブランシェが転がる勢いで入室してきたのだった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お嬢様は、今日も戦ってます~武闘派ですから狙った獲物は逃がしません~

高瀬 八鳳
恋愛
強い女性が書いてみたくて、初めて連載?的なものに挑戦しています。 お読み頂けると大変嬉しく存じます。宜しくお願いいたします。 他サイトにも重複投稿しております。 この作品にはもしかしたら一部、15歳未満の方に不適切な描写が含まれる、かもしれません。ご注意下さいませ。表紙画のみAIで生成したものを使っています。 【あらすじ】 武闘系アラフォーが、気づくと中世ヨーロッパのような時代の公爵令嬢になっていた。 どうやら、異世界転生というやつらしい。 わがままな悪役令嬢予備軍といわれていても、10歳ならまだまだ未来はこれからだ!!と勉強と武道修行に励んだ令嬢は、過去に例をみない心身共に逞しい頼れる女性へと成長する。 王国、公国内の様々な事件・トラブル解決に尽力していくうちに、いつも傍で助けてくれる従者へ恋心が芽生え……。「憧れのラブラブ生活を体験したい! 絶対ハッピーエンドに持ちこんでみせますわ!」 すいません、恋愛事は後半になりそうです。ビジネスウンチクをちょいちょいはさんでます。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました

奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」  妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。 「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」 「ど、どうも……」  ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。 「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」 「分かりましたわ」  こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...