上 下
247 / 437
4章【外交編・サハリ国】

46 一旦昼食

しおりを挟む
それから、ゆっくりとゾウに揺られながらサハリ国内のあちらこちらを見て行った。以前見たときよりも格段に生活が向上しているのがわかるほど、民は活気に満ち溢れ、かつて不毛だった土地は豊かになっていた。

「そろそろ一度休憩にしようか。昼食を取ろう」

ブランシェがそう言うと、下にたくさんいた従者達が一斉に動き始める。そして、いつの間にやらオアシスのような場所に案内されると、そこでピクニックのように昼食会のセットが用意されていた。

「足下に気をつけて」
「ありがとう」

スマートにエスコートされると、そのまま彼の隣の席に案内される。周りの視線が凄く痛いが、きっと彼らには未来の妃のように映っていると思うと、何となく申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「今朝も出たアエーシだ。今朝のは焼き立てでふっくらしていたが、冷めたら冷めたで美味しいものだ。ぜひ食べてくれ」
「いただきます」

朝食べたときはもっちりとふっくらしていたパンは、今は携帯食用にサンドイッチになっている。見た目だけでなく、用途に合わせて使える使い勝手の良さに素直に驚く。

よく見ると、中が空洞になっているようで、その部分をうまく利用しているようだ。パンの中には豆やポテトやコロッケなどが入っていて、思いのほかボリューミーである。

パクッと大きく一口齧ると、香辛料の香りが鼻腔をくすぐり、ふわっとスパイシーな味が口腔内に広がる。

もちっとしたパンの食感を邪魔することなく、またコロッケなども食べやすい大きさになっているので汚さずに溢さずに食べられる部分も高評価だ。

「美味しい!」
「そうか、それは良かった。コシャリやコフタもぜひ食べてくれ。きっとキミの好みの味だと思う」

言われて、それぞれぱくりと食べる。コシャリは混ぜ料理だそうで、中には米やパスタやレンズ豆などが入っていて、それにトマトソースやニンニクのソースなどがかけられている。

見た目は多少「ん?」という雑多さではあったが、食べてみると色々な食感とトマトの酸味やニンニクのアクセントが調和していてとても美味しかった。

またコフタは、挽肉の串焼きだそうだが、玉ねぎやトマトなどの野菜が混ぜられており、スパイスと調味料がちょっと辛めの味付けではあるが、それが逆に食欲をそそる。

まさにクセになる美味しさであり、ついつい何本も手を伸ばしてしまった。

「お気に召していただけて良かった。朝はあまり食が進んでないように感じたからな」
「あれは、ブランシェが突拍子もないことを言うからでしょう」
「それはすまなかった。気がせってしまってな」

そう言って頭を撫でられる。何だかやたらと距離感が近いというか、ボディタッチが多いというか。言えばやめてはくれるけど、それでもクエリーシェル以外の男性から触れられることなどなかった私は、ちょっと気まずい。

「すぐ触らないで」
「あぁ、すまない。キミを見ているとつい触りたくなってしまう。あぁ、そういえば先程から僕の話ばかりだったな。今度はキミの話を聞かせてくれ、ステラ」
「私の話なんて、大したことはないと思うけど……」

そして、ペンテレアでの出来事やマシュ族のこと、コルジールでのことを簡略的に話す。もちろん、姉様の話やバレス皇帝の狙いについてなどはあえて言わなかったが。

「なるほど、そうか。キミはキミで、色々あったのだな」
「えぇ。おかげさまでね」

嫌味のつもりはないものの、つい喧嘩腰になってしまう。本当、話すたびに我ながら波乱万丈な人生を送っていると思う。

不意にちらっとブランシェの視線が外に向く。私もつい癖で追いかけると、そこにはニコニコと穏やかな笑みを浮かべた従者がいた。

(何かあったのだろうか?)

疑問に思いつつも、ジッとブランシェの顔を見つめると、「どうした?」と目を見つめられて微笑まれる。だが、先程までは自然に振る舞っていたその姿に、どこか違和感を覚えた。

「いえ、別に」
「【そうか。で、式はいつがいい?】」
「【ぶはっ!し、式!?式ってその、歓迎式とかの話じゃないわよね?】」

不意打ちで再び噴き出す。しかもなぜか急にサハリ語に変わって、とりあえず私も言語対応する。

「【あぁ、もちろんキミとの結婚式だ。で、いつにする?】」
「【ちょ、無理強いしないって!】」
「【もちろん、無理強いはしないさ。キミが僕を望んでこその結婚だからね】」

そう言って手を握られる。

(ん?)

握られた手の中に仕込まれた紙。ブランシェは視線で開けろと言っているようで、多少ぎこちないものの周りから気づかれないようにコソッと中を見れば、「今だけ僕の言うことを聞いて」とだけ書かれていた。

(今だけって、ブランシェの言うことに従えってこと……?)

よくはわからないものの、何かしら意図があるのだと感じながら「【まだ、ブランシェのことよく知らないし……】」とそれっぽいことを答える。

すると、私の返しは及第点ではあったのか、ブランシェはにっこりと微笑むと、「【では、今夜キミの寝室に伺ってもかまわないかな?】」と頬に触れられながら尋ねられる。……まぁまぁの音量で。

周りから歓声やら浮き足立った声が沸く。明らかに私に対してではなく、今の言葉は周りに対してだろう。

「あとで詳しく説明してもらうからね」
「あぁ、もちろんだ」

コソッと言えば、頭を撫でられる。それに周りが色めき立っている中、ただ1人例の従者の顔色が悪くなっているのに、私は気づかなかった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~

氷雨そら
恋愛
幻獣を召喚する力を持つソリアは三国に囲まれた小国の王女。母が遠い異国の踊り子だったために、虐げられて王女でありながら自給自足、草を食んで暮らす生活をしていた。 しかし、帝国の侵略により国が滅びた日、目の前に現れた白い豹とソリアが呼び出した幻獣である白い猫に導かれ、意図せず帝国の皇帝を助けることに。 死罪を免れたソリアは、自由に生きることを許されたはずだった。 しかし、後見人として皇帝をその地位に就けた重臣がソリアを荒れ果てた十三月の離宮に入れてしまう。 「ここで、皇帝の寵愛を受けるのだ。そうすれば、誰もがうらやむ地位と幸せを手に入れられるだろう」 「わー! お庭が広くて最高の環境です! 野菜植え放題!」 「ん……? 連れてくる姫を間違えたか?」 元来の呑気でたくましい性格により、ソリアは荒れ果てた十三月の離宮で健気に生きていく。 そんなある日、閉鎖されたはずの離宮で暮らす姫に興味を引かれた皇帝が訪ねてくる。 「あの、むさ苦しい場所にようこそ?」 「むさ苦しいとは……。この離宮も、城の一部なのだが?」 これは、天然、お人好し、そしてたくましい、自己肯定感低めの姫が、皇帝の寵愛を得て帝国で予定外に成り上がってしまう物語。 小説家になろうにも投稿しています。 3月3日HOTランキング女性向け1位。 ご覧いただきありがとうございました。

処理中です...