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4章【外交編・サハリ国】

44 私にとってのコルジール

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「いや、無理だから」
「……どうして?」
「本当は知ってるんでしょう?ゴードジューズ帝国のバレス皇帝が、私を探してること」
「……あぁ。びっくりするほどの懸賞金がかけられていることも知っている。だから死んだという噂も半信半疑ではあった」

(やっぱり)

死んだと思っていた、と言っていたわりには順応するのが早いからおかしいと思っていたが、やはり知っていたのか。

「だったら!」
「だったら?……キミは僕の妃としてずっとここにいればいい。大丈夫、隠すことや誤魔化すことは慣れている」
「慣れてるって……」

そもそも、ゴードジューズ帝国に睨まれたらいくらサハリ国が持ち直して栄えたとしても、ペンテレアの二の舞になるだけだろう。それだけはどうしても避けたかった。

「サハリの話術は世界一だからな。バレス皇帝を欺くことくらいできるさ」
「どうやって?」
「ひたすら本題から遠ざけるのさ。Aの話からBの話、Bの話からCの話、Cの話から……とどんどん会話をスライドさせていく。結末のない話をね。それを延々とされることで思考は鈍ってくるし、中身もわかりづらくなってくる」

言われて確かに、と思う。まどろっこしい言い方などではなく、ごく自然に会話の内容を自分の都合のいいように持っていくということだろう。今の私の状況のように。

だが、果たしてそれがバレス皇帝に通用するのだろうか。……いや、あの皇帝のことだ、自分の思い通りにならなかった場合簡単に切り捨てる男である、そう簡単にはいかないだろう。

(だからこそ幼少期の私も殴って黙らせていたのだしな)

要らぬことを思い出してしまって、苦虫を噛み潰したような表情になってしまいそうになるのをグッと歯を噛みしめ堪えながら、ブランシェを見つめる。

「だから、いくらでもどうにでもなる話なのだよ。キミさえよければね?コルジールという国には元々ただ流れ着いただけの国だろう?」
「そう、だけど……」
「どうして肩入れする必要がある?何も馴染みのない国だろう?」

(馴染みのない……?)

言われて逡巡する。確かにクエリーシェルのところに行くまでは、ただ流れに身を任せて根無草のように意思もなく渡り歩いていた。

けれど、クエリーシェルに拾われて私という存在をきちんと見出してくれたことで、自らの意志で行動するようになった。ただ死ぬだけの人生が色鮮やかに、180度景色が変わったのだ。

殺していた感情も、様々な願望も、捨てていたはずのものをクエリーシェルが与えてくれた。だから私はクエリーシェルのために、彼の故郷のために戦いたいと、ペンテレアの二の舞にしたくないと思ったのだ。

(だから、コルジールはただの馴染みのない国ではない)

クエリーシェルだけではない。ロゼットもバースも、クイード国王やマルグリッダなども、みんな私にとって大切な存在だ。コルジール国は私の第二の故郷と言ってもいいくらい、大切な国なのだ。

「馴染みがなくはないわ。私はあそこに骨を埋める覚悟でいる」
「……どうしてだい?コルジールでの待遇がいいというのならこちらでも待遇をよくしよう。それに、キミの全てを愛せる僕と一緒にいたほうがキミを幸せにできると思うが」
「コルジールでは、私を必要としてくれる人がたくさんいるもの」
「そうか?そう言うなら、我が国の民の方がキミを求めているぞ?なんたってキミは我が国の救世主。国を導いてくれた人物だ。それに、何より僕がキミの存在全てを欲している」

相変わらず、凄い自信だ。国王という権力者だからか、それともブランシェという人間だからだろうか。

「キミのその美しい瞳や月の光のような安らぎを与える髪、強気で責任感が強くて、真っ直ぐで前向きなステラが好きだ。口が悪くても、お転婆だとしても僕はキミを愛そう。だからどうか、僕と結婚してくれないだろうか?」
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