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4章【外交編・サハリ国】

41 注目

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「【まぁ……!】」
「【お似合いねぇ……】」

周りからの視線が痛い。なぜこんなに注目を浴びているのかはわからないが、とにかく居た堪れない。

(私こういうの苦手だったわ)

人から注目を浴びることに慣れていなかったと、今更ながら思い出す。そういう役割は姉が一手に引き受けてくださったから、自分はあまりこういう注目を集めるということはほとんどなかったのだ。

(それなのに、姉様ばかり狡いとか思ってた私って本当にバカだ)

こうして注目を集めることがいかに大変かがよくわかる。下手な行動をしてはまずいと、無駄に背筋が伸びて胸を張ってしまうし、緊張で動きが硬くなってしまう。

なんだか息が詰まるが、いかんせんどうしてもここは元王族ゆえか見栄のせいか、人の目が気になってしまうのはどうしようもなかった。

「何だ、緊張してるのか」
「悪かったわね。久々なのよ、こういうの」
「そうか。キミが今までどんな暮らしぶりだったのか、あとで詳しく聞かせてもらうよ」

(何だか楽しそうで余裕ぶってるのがムカつく)

理不尽だろうが、勝手に彼の言動が一々癪に触る。昔を知っているからだろうか、余計にそんなこと言って心の中では私のことを馬鹿にしているのではないかと、穿った見方をしてしまう。

そもそも昔は私に対して反抗的だったし、私にもう来るな!とすら言っていたくせに、先程から優しい眼差しで見つめられるのは何だか気持ちが悪い。

「ステラ様!」
「ケリーさ、……クエリーシェル!無事だったのね」

馴染みのある声に振り返れば、そこにはクエリーシェルやヒューベルト、マーラや船員達などがいた。皆ここの正装をさせられたようだが、……なぜかパリスは女性物を着ているような気がするが気のせいだろうか。

とにかく、みんな無事なようでとりあえずホッとする。正装になっているということはそれなりには歓待されていることが窺い知れて、ブランシェが嘘をついていないことがわかって少しだけ彼のことを見直した。

「って、ちょっと、ブランシェ。私の席はこっちじゃないの?」
「キミは僕の隣だ」
「何で?」

ろくにクエリーシェル達と会話することができずに、そのままブランシェに連れていかれる。てっきり私もコルジールのみんなやマーラと同じ席で食事をするかと思いきや、なぜかブランシェの隣らしい。

明らかに場違いだろう、と眉を顰めると、「僕がそうしたいのだから、それでいいだろう?」とそのまま結局連れていかれる。なんだかんだで離れてしまったみんなに後ろ髪を引かれつつ、案内された席についた。

「ステラだって、上下の区別はつけた方がいい、と確かに言っていただろう?」
「それは、言った気もするけど……」
「だからだよ。彼らは私達よりも身分が伴わないだろう?」
「そう、だけど……」

上手く言い返すことができない。正論であるし、そもそもそれについてはブライエ国のシグバール国王にも言われたことでもある。自分でも言ったこととなると、言い返す術は私には持ち合わせていなかった。

(あ、そういえば……)

「あそこの褐色の1人だけいる女性。あの子はカジェ国の皇女よ。だから彼女もこちらの席に」
「なぜカジェ国の皇女が……?」
「それは……、色々あったのよ。とにかく、身分がどうのこうの言うのなら、彼女をこちらに連れて来てちょうだい」

正論で食い下がれば、渋々と言った様子で侍女や従者の人達に指示を出している。なんとなくマーラだけでも身近にいてくれるだけで、心強いというか少しは落ち着ける気がする。

「とにかく、キミはここの席だ。あぁ、そうそう、この食事のあとはこの国を案内するつもりだからそのつもりで」
「それに関しては、こちらも色々見て回りたいからお願いするわ」
「道中でキミの話を色々と聞こう」
「えぇ、そうして。私も聞きたいことがあるからそのつもりで」

つい何となくつっけんどんな言い方になってしまうが、ブランシェは気にしていないようだ。それも理不尽ではあるとわかってはいるものの、気に食わない。こうして丸くなったことはいいことではあるだろうが。

「初めまして、カジェ国の第8皇女マーラと申します」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。僕はサハリ国王のブランシェ。ステラがキミと一緒がいいと強く希望するので、申し訳ないがこちらで食事をとっていただけるだろうか」
「えぇ、もちろん」

さすがマーラ。外面はよい。特に目上の男性だからか、普段のあのワガママ娘とは思えないほどお淑やかに振る舞っている。

(ていうか、マーラはいっそクエリーシェルを諦めてこっち狙いにならないかしら)

年齢的にもお互いそこまで差があるわけではないから申し分ないだろうし、クエリーシェルには劣るものの見た目はいいし、物腰も丁寧になっていてかつ国王だ。身分もちょうどいいのではないだろうか。

などと勝手なことを考えながら、席につくマーラを見つめる。

だが、彼女の好みにはそぐわないのか、ブランシェの方を見るでもなく、彼女は私の隣につくやいなや私の方を見ると「ちょっとどういうことですの!」と小さく抗議してくる。

「ごめんごめん。とりあえずそこにいて」と同じく小声で返せば、ふんっと多少膨れたあとに大人しくしてくれた。一応他国ということで、その辺の分別はあるようでホッとする。

「では、食事を始めましょうか。今回は我が国の不手際で皆様には多大なるご迷惑をおかけしましたこと、大変申し訳なく思います。ささやかなお詫びではありますが、どうぞこの食事をお楽しみください」

(これってお詫び飯だったのか)

そんなことを思いつつも、目の前に出される食事はとても美味しそうで、思わず空腹を知らせる腹の虫が盛大に鳴き声をあげる。隣にいるマーラはもちろん、ブランシェにも聞こえたようで、顔が熱くなる。

「ステラもぜひ食べてくれ。料理長が腕によりをかけているからな」
「えぇ、色々あってお腹空いてるもの。いただきます」

もう旅の恥は掻き捨てだと、私は目の前の食事に集中するのだった。
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