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4章【外交編・サハリ国】
38 万事休す
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(やはり堂々としていれば案外誰も気づかないものね)
見張り兵とすれ違うことはままあるものの、誰からも咎められることはなく、むしろ、「【こんなに遅くまで大変だな】」と労ってもらうことすらあるくらいだ。
そんなこんなで難なく最上階へと進め、あとちょっとでブランシェの部屋へと到着しそうな時だった。
「【そこのメイド、何をしている?ここから先はこの時間は立ち入り禁止だぞ】」
ぎくり、と身体が強張るが、それをおくびにも見せないようにゆっくりと声がする方に振り返る。そこにいたのは強面の大柄な兵士。さながら兵長辺りだろうか。というか、この人……
(港で会った人……?)
拘束されたときに相対した人物に似ている。というか本人ではなかろうか。であれば、ちょっとマズい。
(暗闇ではっきり目は見えてないものの、こちらに勘づかれたら面倒だ)
「【陛下から薬を頼まれまして】」
「【薬?何の薬だ】」
「【胃薬と聞いておりますが】」
「【胃薬?珍しいな。この時間帯にお食事をとられないはずなのに。何か別のものにでも当たったか……】」
ふむふむ、と1人でぶつくさ言うのはいいが、早く通してもらいたい。そう思いながらも兵は先を通してくれる気配はない。
「【あのぅ】」
「【というか、貴様、見かけない顔だな。新入りか?】」
「【えぇ、最近雇用されまして】」
「【であれば、あまり夜中にうろつくのではないぞ。皆が皆、善人ではないからな】」
「【はぁ、……ありがとうございます?】」
どうやら私の心配をしてくれているらしい。案外、悪い人ではないのかもしれない。と思いつつ、一刻も早くこの状況を脱したいのだが、話好きなのか離してくれそうにもなかった。
「【最近、例のあの方の偽物が現れたのもあるし、今陛下は疑心暗鬼になっていることもあるからな】」
「【例のあの方?】」
「【あぁ、そうか。新入りだから知らんのか。この国の救世主であるお方だ】」
「【そんな方がいらっしゃるのですねぇ】」
(初耳だ。救世主、ということはこの国の危機を救ったのか)
アーシャからも特に聞いたことはないし、最近の話なのだろうか。というか、偽物というのに敏感になっていたのはこれのせいか。
(それで色々と厳しくなってたのね)
こちらとしてはいい迷惑だが、文句を言えるわけもなく適当に相槌を打つ。
「【あぁ、陛下は心労で胃を悪くされたのかもしれんな。とにかく早く薬を届けてきてくれ】」
「【えぇ、かしこまりました】」
誰のせいで足止めをくらったのか、と言いたくなったものの、変に突っかかっても仕方ないのでニコニコとその場を辞すると、目的のブランシェの部屋へと向かう。
「やっとついた」
周りには誰もいない。好都合である。私は小さくノックをして、反応がないことを確かめつつ部屋の中にするりと入っていった。
「寝てる……」
私室を抜け、奥の寝室へと向かうが、部屋の中は暗くて月光に照らされた光だけが頼りだ。ベッドでは大きな布団の塊が、呼吸に合わせて膨らんだり萎んだりしている。
さすがにこの時間に寝るのは早すぎないだろうか?と思いつつも、寝ているなら好都合とばかりに彼のベッドにそっと近づく。
そしてベッドに上がり、彼の首根っこを捕まえようとしたときだった。
ずだーん!!!
「……っかは!」
一瞬、何が起きているか理解できなかった。先程までベッドの上にいたはずの自分の身体は反転し、ベッド下で背中を強打して天井を見上げ、何者かに首を押さえつけられながら跨がれている状態だ。
「【……何者だ?】」
ジッと見つめてくるのは、凛々しく精悍な顔つきをしている青年。がっしりとしていて私よりもかなり大きな体躯の男は、クエリーシェルよりも小さそうではあるものの、かなり威圧感があった。
(……というか、こいつ誰だ?)
「【ブランシェ陛下!何事ですか!!】」
物音を聞きつけ、数人の兵が雪崩れ込むように部屋へと入ってくる。部屋に明かりが灯され、一気に明るくなる室内。
「【いや、賊が侵入したようでな】」
「【賊……?ってさっきのメイド!貴様、先日ステラ様を名乗ったあの小娘じゃないか!!】」
(最悪だ……)
慢心してたのもあるだろう。まさかここで再び囚われるとは。万事休すだ……。
「【ステラ……?】」
頭上から訝しげな声が降ってきて、そちらを見る。先程の青年が未だ身体を押さえ込みつつ、こちらを眉を顰めながら見ていた。
「【えぇ、ステラ・ルーナ・ペンテレアですけど。そちらどなた?さっきブランシェ陛下って聞こえたけど……。あいつなわけがないわよね?】」
「【……本物だ】」
「は?」
急にじーっと私を隅々まで見始めたと思ったら、突然ぽつりと呟く青年に、今度は私が眉を顰める。
「【陛下!今すぐそいつは牢屋に戻します!!】」
「【いや、いい。というか、この娘は本物のステラ・ルーナ・ペンテレアだ】」
「【は?陛下、今何と……?】」
兵が動揺してるのがわかる。というか、こいつってもしかして、もしかしなくても……。
「【えっと、もしかして……ブランシェ……?】」
「【あぁ、その通りだ。相変わらず太々しい態度だな、キミは】」
覚えのある顔とはガラッと変わった青年が、こちらを見てにっこりと笑った。
見張り兵とすれ違うことはままあるものの、誰からも咎められることはなく、むしろ、「【こんなに遅くまで大変だな】」と労ってもらうことすらあるくらいだ。
そんなこんなで難なく最上階へと進め、あとちょっとでブランシェの部屋へと到着しそうな時だった。
「【そこのメイド、何をしている?ここから先はこの時間は立ち入り禁止だぞ】」
ぎくり、と身体が強張るが、それをおくびにも見せないようにゆっくりと声がする方に振り返る。そこにいたのは強面の大柄な兵士。さながら兵長辺りだろうか。というか、この人……
(港で会った人……?)
拘束されたときに相対した人物に似ている。というか本人ではなかろうか。であれば、ちょっとマズい。
(暗闇ではっきり目は見えてないものの、こちらに勘づかれたら面倒だ)
「【陛下から薬を頼まれまして】」
「【薬?何の薬だ】」
「【胃薬と聞いておりますが】」
「【胃薬?珍しいな。この時間帯にお食事をとられないはずなのに。何か別のものにでも当たったか……】」
ふむふむ、と1人でぶつくさ言うのはいいが、早く通してもらいたい。そう思いながらも兵は先を通してくれる気配はない。
「【あのぅ】」
「【というか、貴様、見かけない顔だな。新入りか?】」
「【えぇ、最近雇用されまして】」
「【であれば、あまり夜中にうろつくのではないぞ。皆が皆、善人ではないからな】」
「【はぁ、……ありがとうございます?】」
どうやら私の心配をしてくれているらしい。案外、悪い人ではないのかもしれない。と思いつつ、一刻も早くこの状況を脱したいのだが、話好きなのか離してくれそうにもなかった。
「【最近、例のあの方の偽物が現れたのもあるし、今陛下は疑心暗鬼になっていることもあるからな】」
「【例のあの方?】」
「【あぁ、そうか。新入りだから知らんのか。この国の救世主であるお方だ】」
「【そんな方がいらっしゃるのですねぇ】」
(初耳だ。救世主、ということはこの国の危機を救ったのか)
アーシャからも特に聞いたことはないし、最近の話なのだろうか。というか、偽物というのに敏感になっていたのはこれのせいか。
(それで色々と厳しくなってたのね)
こちらとしてはいい迷惑だが、文句を言えるわけもなく適当に相槌を打つ。
「【あぁ、陛下は心労で胃を悪くされたのかもしれんな。とにかく早く薬を届けてきてくれ】」
「【えぇ、かしこまりました】」
誰のせいで足止めをくらったのか、と言いたくなったものの、変に突っかかっても仕方ないのでニコニコとその場を辞すると、目的のブランシェの部屋へと向かう。
「やっとついた」
周りには誰もいない。好都合である。私は小さくノックをして、反応がないことを確かめつつ部屋の中にするりと入っていった。
「寝てる……」
私室を抜け、奥の寝室へと向かうが、部屋の中は暗くて月光に照らされた光だけが頼りだ。ベッドでは大きな布団の塊が、呼吸に合わせて膨らんだり萎んだりしている。
さすがにこの時間に寝るのは早すぎないだろうか?と思いつつも、寝ているなら好都合とばかりに彼のベッドにそっと近づく。
そしてベッドに上がり、彼の首根っこを捕まえようとしたときだった。
ずだーん!!!
「……っかは!」
一瞬、何が起きているか理解できなかった。先程までベッドの上にいたはずの自分の身体は反転し、ベッド下で背中を強打して天井を見上げ、何者かに首を押さえつけられながら跨がれている状態だ。
「【……何者だ?】」
ジッと見つめてくるのは、凛々しく精悍な顔つきをしている青年。がっしりとしていて私よりもかなり大きな体躯の男は、クエリーシェルよりも小さそうではあるものの、かなり威圧感があった。
(……というか、こいつ誰だ?)
「【ブランシェ陛下!何事ですか!!】」
物音を聞きつけ、数人の兵が雪崩れ込むように部屋へと入ってくる。部屋に明かりが灯され、一気に明るくなる室内。
「【いや、賊が侵入したようでな】」
「【賊……?ってさっきのメイド!貴様、先日ステラ様を名乗ったあの小娘じゃないか!!】」
(最悪だ……)
慢心してたのもあるだろう。まさかここで再び囚われるとは。万事休すだ……。
「【ステラ……?】」
頭上から訝しげな声が降ってきて、そちらを見る。先程の青年が未だ身体を押さえ込みつつ、こちらを眉を顰めながら見ていた。
「【えぇ、ステラ・ルーナ・ペンテレアですけど。そちらどなた?さっきブランシェ陛下って聞こえたけど……。あいつなわけがないわよね?】」
「【……本物だ】」
「は?」
急にじーっと私を隅々まで見始めたと思ったら、突然ぽつりと呟く青年に、今度は私が眉を顰める。
「【陛下!今すぐそいつは牢屋に戻します!!】」
「【いや、いい。というか、この娘は本物のステラ・ルーナ・ペンテレアだ】」
「【は?陛下、今何と……?】」
兵が動揺してるのがわかる。というか、こいつってもしかして、もしかしなくても……。
「【えっと、もしかして……ブランシェ……?】」
「【あぁ、その通りだ。相変わらず太々しい態度だな、キミは】」
覚えのある顔とはガラッと変わった青年が、こちらを見てにっこりと笑った。
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