上 下
192 / 437
3章【外交編・カジェ国】

55 物資の搬入

しおりを挟む
「あれとこれとそれと……」
「いや、そんなにいらないから」
「長旅になるのよ、これくらいいるでしょ」
「うちの船、沈没させる気?」

食料に水、武器に衛生用品、日常品に……、とアーシャがいるだろうと用意したものが明らかに多い。目の前へいくつもいくつも運ばれて、さすがに尋常じゃない量の物資にストップをかける。

「でも……」
「でも、じゃない!」
「……わかったわよ、減らすわよ」
「そもそもいるって言った量より明らかに増やしたでしょ。そんなに、いらないから」
「でも、他国で他に補給してくれるとこそんなにないかもよ?特に次はサハリなのだから」

確かに追い返される可能性も考えられるし、そもそも資源が乏しい国なので補給もあまり望めないのはわかっているが、だからと言ってそこに辿り着くまでに沈没しては元も子もない。

世話を焼いてくれる気持ちはありがたいものの、さすがにこの量は行き過ぎである。

「ありがたいけど、こんなに積荷だらけだったら重さもそうだけど、寝る場所も困るわよ」
「見合い参加者の分は空室になるでしょう?」
「そうだけど。いくらなんでも無茶でしょ」

ほぼ積まれた荷物は、木箱や樽に入ったものが主である。さすがに客室が空くとはいえ、置けて日用品や衛生用品くらいだろう。

そもそも船は言うほど大きくはない。一応私とクエリーシェルにはそれぞれ個室を与えられていたものの、客室だって見合い参加者や船員達には複数人で使ってもらっていたくらいだ、そこまで空きはなかった。

「船旅って不便ね」
「まぁね。経験あるからわかるでしょ?」
「わかるけど、言うほどステラほど長旅にはなったことがないからね」

確かに、こんなにいくつも国を経由して旅するなど初めてだ。行っても、こんなタイトなスケジュールではなかったし、そもそも国を長期に開けるわけにもいかなかったので、行っても2カ国がせいぜいだった。

「次会えるのはいつかしらね?」
「さぁ、でもそんなに時間はかからないとは思うわ。一通り回ったら、またここに戻ってくるのだし」

カジェからサハリ、モットー、ブライエ、アガと行って、カジェに一旦戻ってからコルジールに帰る。それが今回の外交のルートである。

カジェ国に戻ってくるのは情報共有もそうだが、ただ単に物資補給の関係が大きい。

一応、見合い参加者のうち、今回見合い不成立者に関してはコルジールに帰すのだが、さすがに私達が戻ってくるまで逗留させるわけにはいかないので、途中でカジェ国から船を出してもらえることになっている。

その辺りは至れり尽くせりで、本当にアーシャには頭が上がらない。

「他国でも無茶しないでちょうだいよ」
「わかってる」
「どうだか。昨日だって演習場で私も参加する!と駄々をこねたのでしょう?」

(さすが情報が回るのが早い)

昨日、演習場に居合わせた部隊長とぜひとも手合わせを!と望んだのだが、どうにも根回しされていたようで「そんなことをしたら私の首が飛びます!」と全力で断られたのだ。

「それは……!だってこの船旅で万が一海賊に会ったらと思って……」
「そこは、会わないようにする方法の最善を考えなさいな」

ごもっともな指摘に黙り込む。

(でも、最悪な想定はしておくに限るし、そのためにも動けたほうがいいのは事実だし)

きっと不服そうな感情が表に出ていたのだろう。恒例の鼻を摘まれ、「ふがっ」と変な声が出る。

「アーシャ!」
「こういうことはメリハリが大事なのだから、あんまり根を詰め過ぎてはダメよ。やるときはやる、休むときは休む。ステラってそういうとこ、若いからって無茶する傾向にあるんだから」
「だって実際に私、若いし」
「お黙り。……何、私に喧嘩売ってるの?」
「い、いいえ。違うわよ」

アーシャからあからさまな殺気が滲み出して、思わず固まる。彼女にこの手の話題は禁句であったと、今更ながら思い出す。

「とにかく、この物資量はいらないからある程度は下げさせてね」
「わかったわよ。……いよいよもう明日で旅立ちだなんて。もう少しいたっていいのに。なんならずっと……」
「アーシャ」
「はいはい、わかってますー」

そうぶつぶつ言いながら、兵達に余分な積荷を下げさせる。

「そういえば、今晩はまた私の両親が晩餐会を行うそうよ」
「そうなの?」
「えぇ、何か渡したいものがあるそうよ。あぁ、あとアルルも。何か一生懸命コソコソとやってたわ」
「それは楽しみね」

積荷を船員達に任せ、それぞれ確認すると、私達は王城へと引き返す。

「(あれ、この積荷随分と重いな)」
「(ん?衛生用品、って書いてあるから薬とかが入ってるんじゃないか?)」
「(だが、いくら薬にしたって……)」
「(こらこら、開けるんじゃねぇ!下手に触って何かなくなったって疑われたら困るぞ)」
「(それもそうだな)」

そんな兵達のやりとりがあったなどとは知らずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月
ファンタジー
最強の賢者として名を馳せていた男がいた。 魔法、魔道具などの研究を第一に生活していたその男はある日間抜けにも死んでしまう。 死んだ者は皆等しく転生する権利が与えられる。 その方法は転生ガチャ。 生まれてくる種族も転生先の世界も全てが運任せ。その転生ガチャを回した最強賢者。 転生先は見知らぬ世界。しかも種族がまさかの…… だがしかし、研究馬鹿な最強賢者は見知らぬ世界だろうと人間じゃなかろうとお構い無しに、常識をぶち壊す。 差別の荒波に揉まれたり陰謀に巻き込まれたりしてなかなか研究が進まないけれど、ブラコン拗らせながらも愉快な仲間に囲まれて成長していくお話。 ※拙い作品ですが、誹謗中傷はご勘弁を…… 只今加筆修正中。 他サイトでも投稿してます。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪役令嬢は安眠したい。

カギカッコ「」
恋愛
番外編が一個短編集に入ってます。時系列的に66話辺りの話になってます。 読んで下さる皆様ありがとうごぜえまーす!! V(>▽<)V 恋人に振られた夜、何の因果か異世界の悪役令嬢アイリスに転生してしまった美琴。 目覚めて早々裸のイケメンから媚薬を盛ったと凄まれ、自分が妹ニコルの婚約者ウィリアムを寝取った後だと知る。 これはまさに悪役令嬢の鑑いやいや横取りの手口!でも自分的には全く身に覚えはない! 記憶にございませんとなかったことにしようとしたものの、初めは怒っていたウィリアムは彼なりの事情があるようで、婚約者をアイリスに変更すると言ってきた。 更には美琴のこの世界でのNPCなる奴も登場し、そいつによればどうやら自分には死亡フラグが用意されているという。 右も左もわからない転生ライフはのっけから瀬戸際に。 果たして美琴は生き残れるのか!?……なちょっとある意味サバイバル~な悪役令嬢ラブコメをどうぞ。 第1部は62話「ああ、寝ても覚めても~」までです。 第2部は130話「新たな因縁の始まり」までとなります。 他サイト様にも掲載してます。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...