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3章【外交編・カジェ国】
55 物資の搬入
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「あれとこれとそれと……」
「いや、そんなにいらないから」
「長旅になるのよ、これくらいいるでしょ」
「うちの船、沈没させる気?」
食料に水、武器に衛生用品、日常品に……、とアーシャがいるだろうと用意したものが明らかに多い。目の前へいくつもいくつも運ばれて、さすがに尋常じゃない量の物資にストップをかける。
「でも……」
「でも、じゃない!」
「……わかったわよ、減らすわよ」
「そもそもいるって言った量より明らかに増やしたでしょ。そんなに、いらないから」
「でも、他国で他に補給してくれるとこそんなにないかもよ?特に次はサハリなのだから」
確かに追い返される可能性も考えられるし、そもそも資源が乏しい国なので補給もあまり望めないのはわかっているが、だからと言ってそこに辿り着くまでに沈没しては元も子もない。
世話を焼いてくれる気持ちはありがたいものの、さすがにこの量は行き過ぎである。
「ありがたいけど、こんなに積荷だらけだったら重さもそうだけど、寝る場所も困るわよ」
「見合い参加者の分は空室になるでしょう?」
「そうだけど。いくらなんでも無茶でしょ」
ほぼ積まれた荷物は、木箱や樽に入ったものが主である。さすがに客室が空くとはいえ、置けて日用品や衛生用品くらいだろう。
そもそも船は言うほど大きくはない。一応私とクエリーシェルにはそれぞれ個室を与えられていたものの、客室だって見合い参加者や船員達には複数人で使ってもらっていたくらいだ、そこまで空きはなかった。
「船旅って不便ね」
「まぁね。経験あるからわかるでしょ?」
「わかるけど、言うほどステラほど長旅にはなったことがないからね」
確かに、こんなにいくつも国を経由して旅するなど初めてだ。行っても、こんなタイトなスケジュールではなかったし、そもそも国を長期に開けるわけにもいかなかったので、行っても2カ国がせいぜいだった。
「次会えるのはいつかしらね?」
「さぁ、でもそんなに時間はかからないとは思うわ。一通り回ったら、またここに戻ってくるのだし」
カジェからサハリ、モットー、ブライエ、アガと行って、カジェに一旦戻ってからコルジールに帰る。それが今回の外交のルートである。
カジェ国に戻ってくるのは情報共有もそうだが、ただ単に物資補給の関係が大きい。
一応、見合い参加者のうち、今回見合い不成立者に関してはコルジールに帰すのだが、さすがに私達が戻ってくるまで逗留させるわけにはいかないので、途中でカジェ国から船を出してもらえることになっている。
その辺りは至れり尽くせりで、本当にアーシャには頭が上がらない。
「他国でも無茶しないでちょうだいよ」
「わかってる」
「どうだか。昨日だって演習場で私も参加する!と駄々をこねたのでしょう?」
(さすが情報が回るのが早い)
昨日、演習場に居合わせた部隊長とぜひとも手合わせを!と望んだのだが、どうにも根回しされていたようで「そんなことをしたら私の首が飛びます!」と全力で断られたのだ。
「それは……!だってこの船旅で万が一海賊に会ったらと思って……」
「そこは、会わないようにする方法の最善を考えなさいな」
ごもっともな指摘に黙り込む。
(でも、最悪な想定はしておくに限るし、そのためにも動けたほうがいいのは事実だし)
きっと不服そうな感情が表に出ていたのだろう。恒例の鼻を摘まれ、「ふがっ」と変な声が出る。
「アーシャ!」
「こういうことはメリハリが大事なのだから、あんまり根を詰め過ぎてはダメよ。やるときはやる、休むときは休む。ステラってそういうとこ、若いからって無茶する傾向にあるんだから」
「だって実際に私、若いし」
「お黙り。……何、私に喧嘩売ってるの?」
「い、いいえ。違うわよ」
アーシャからあからさまな殺気が滲み出して、思わず固まる。彼女にこの手の話題は禁句であったと、今更ながら思い出す。
「とにかく、この物資量はいらないからある程度は下げさせてね」
「わかったわよ。……いよいよもう明日で旅立ちだなんて。もう少しいたっていいのに。なんならずっと……」
「アーシャ」
「はいはい、わかってますー」
そうぶつぶつ言いながら、兵達に余分な積荷を下げさせる。
「そういえば、今晩はまた私の両親が晩餐会を行うそうよ」
「そうなの?」
「えぇ、何か渡したいものがあるそうよ。あぁ、あとアルルも。何か一生懸命コソコソとやってたわ」
「それは楽しみね」
積荷を船員達に任せ、それぞれ確認すると、私達は王城へと引き返す。
「(あれ、この積荷随分と重いな)」
「(ん?衛生用品、って書いてあるから薬とかが入ってるんじゃないか?)」
「(だが、いくら薬にしたって……)」
「(こらこら、開けるんじゃねぇ!下手に触って何かなくなったって疑われたら困るぞ)」
「(それもそうだな)」
そんな兵達のやりとりがあったなどとは知らずに。
「いや、そんなにいらないから」
「長旅になるのよ、これくらいいるでしょ」
「うちの船、沈没させる気?」
食料に水、武器に衛生用品、日常品に……、とアーシャがいるだろうと用意したものが明らかに多い。目の前へいくつもいくつも運ばれて、さすがに尋常じゃない量の物資にストップをかける。
「でも……」
「でも、じゃない!」
「……わかったわよ、減らすわよ」
「そもそもいるって言った量より明らかに増やしたでしょ。そんなに、いらないから」
「でも、他国で他に補給してくれるとこそんなにないかもよ?特に次はサハリなのだから」
確かに追い返される可能性も考えられるし、そもそも資源が乏しい国なので補給もあまり望めないのはわかっているが、だからと言ってそこに辿り着くまでに沈没しては元も子もない。
世話を焼いてくれる気持ちはありがたいものの、さすがにこの量は行き過ぎである。
「ありがたいけど、こんなに積荷だらけだったら重さもそうだけど、寝る場所も困るわよ」
「見合い参加者の分は空室になるでしょう?」
「そうだけど。いくらなんでも無茶でしょ」
ほぼ積まれた荷物は、木箱や樽に入ったものが主である。さすがに客室が空くとはいえ、置けて日用品や衛生用品くらいだろう。
そもそも船は言うほど大きくはない。一応私とクエリーシェルにはそれぞれ個室を与えられていたものの、客室だって見合い参加者や船員達には複数人で使ってもらっていたくらいだ、そこまで空きはなかった。
「船旅って不便ね」
「まぁね。経験あるからわかるでしょ?」
「わかるけど、言うほどステラほど長旅にはなったことがないからね」
確かに、こんなにいくつも国を経由して旅するなど初めてだ。行っても、こんなタイトなスケジュールではなかったし、そもそも国を長期に開けるわけにもいかなかったので、行っても2カ国がせいぜいだった。
「次会えるのはいつかしらね?」
「さぁ、でもそんなに時間はかからないとは思うわ。一通り回ったら、またここに戻ってくるのだし」
カジェからサハリ、モットー、ブライエ、アガと行って、カジェに一旦戻ってからコルジールに帰る。それが今回の外交のルートである。
カジェ国に戻ってくるのは情報共有もそうだが、ただ単に物資補給の関係が大きい。
一応、見合い参加者のうち、今回見合い不成立者に関してはコルジールに帰すのだが、さすがに私達が戻ってくるまで逗留させるわけにはいかないので、途中でカジェ国から船を出してもらえることになっている。
その辺りは至れり尽くせりで、本当にアーシャには頭が上がらない。
「他国でも無茶しないでちょうだいよ」
「わかってる」
「どうだか。昨日だって演習場で私も参加する!と駄々をこねたのでしょう?」
(さすが情報が回るのが早い)
昨日、演習場に居合わせた部隊長とぜひとも手合わせを!と望んだのだが、どうにも根回しされていたようで「そんなことをしたら私の首が飛びます!」と全力で断られたのだ。
「それは……!だってこの船旅で万が一海賊に会ったらと思って……」
「そこは、会わないようにする方法の最善を考えなさいな」
ごもっともな指摘に黙り込む。
(でも、最悪な想定はしておくに限るし、そのためにも動けたほうがいいのは事実だし)
きっと不服そうな感情が表に出ていたのだろう。恒例の鼻を摘まれ、「ふがっ」と変な声が出る。
「アーシャ!」
「こういうことはメリハリが大事なのだから、あんまり根を詰め過ぎてはダメよ。やるときはやる、休むときは休む。ステラってそういうとこ、若いからって無茶する傾向にあるんだから」
「だって実際に私、若いし」
「お黙り。……何、私に喧嘩売ってるの?」
「い、いいえ。違うわよ」
アーシャからあからさまな殺気が滲み出して、思わず固まる。彼女にこの手の話題は禁句であったと、今更ながら思い出す。
「とにかく、この物資量はいらないからある程度は下げさせてね」
「わかったわよ。……いよいよもう明日で旅立ちだなんて。もう少しいたっていいのに。なんならずっと……」
「アーシャ」
「はいはい、わかってますー」
そうぶつぶつ言いながら、兵達に余分な積荷を下げさせる。
「そういえば、今晩はまた私の両親が晩餐会を行うそうよ」
「そうなの?」
「えぇ、何か渡したいものがあるそうよ。あぁ、あとアルルも。何か一生懸命コソコソとやってたわ」
「それは楽しみね」
積荷を船員達に任せ、それぞれ確認すると、私達は王城へと引き返す。
「(あれ、この積荷随分と重いな)」
「(ん?衛生用品、って書いてあるから薬とかが入ってるんじゃないか?)」
「(だが、いくら薬にしたって……)」
「(こらこら、開けるんじゃねぇ!下手に触って何かなくなったって疑われたら困るぞ)」
「(それもそうだな)」
そんな兵達のやりとりがあったなどとは知らずに。
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