190 / 437
3章【外交編・カジェ国】
53 演習場
しおりを挟む
「うぉおおお!」
「ぐ……っ」
「はぁあああ!!」
男の野太い声や金属が擦れる音が至る所で響いている。まさに喧騒そのもので、耳を塞ぎたくなるほどの騒音をBGMにしながら、私達はカジェ国の軍演習場を見て回っていた。
「何だ、これは」
「ウルミという剣です」
「これが、剣、だと……?」
クエリーシェルは目の前に鎮座している武器を見て絶句する。同様に、ヒューベルトも言葉をなくしていた。
ウルミ、というのはここカジェ国古来から存在する剣である。だが、剣とは言うものの、その見た目や形状は一般的に認知されている剣とは程遠いものだった。
というのもウルミはどちらかというと一見すると鞭と錯覚するような剣であった。
「これ、使い方にコツがあるのですが、使いこなせば結構殺傷能力は高いんですよ」
「使いこなせば、って下手したら自分も傷つける可能性もあるのでは?」
「否定はしません」
「誰がこんな武器を考えたんだ……」
ぽつりと呟くクエリーシェル。実際古来からあるとはいえ、確かにどうしてこのような形態になったのだろう、と疑問に思うのは無理もないだろう。
(私も使おうとして、さすがにアーシャにも止められたしね)
あのときは「あんた、何考えてんの!?」と今まで見たことないほど目をクワッとかっ開きながら迫られて、あまりの迫力に私も大人しく引き下がったのだ。
今回も、過去のことを思い出したのだろう、軍の演習場に行きたいと言えば「わかってると思うけど、ウルミは絶対ダメだからね」と釘を刺され済みである。
(本当、無駄に記憶力いいんだから)
「他にもマドゥやハラディーとかもありますよ」
「いやな予感しかしない」
「まぁまぁ、そう言わずに」
明らかに引き気味のクエリーシェルとヒューベルト。いくら軍に所属してるとはいえ、見たこともない武器や戦い方に驚きよりも呆気の方が優っているようだった。
(異文化の武器って面白いは面白いけど、カジェ国のは明らかに異様な形態してるのよね)
マドゥも盾に矛が付いているという、まさに矛盾した武器であるし、ハラディーに関しては諸刃の剣という持ち手以外は刃になっている武器である。
(防げて切れて、どこでも切れて、お得っちゃお得?)
昔の人が考えることはよくわからない、と思いながら、見て回る。
「ヒューベルト様もせっかくですし、許可は取ってあるんですから色々と見せていただきましょう?」
「え、えぇ、はい、拝見致します……!」
なぜか、私とクエリーシェルから半歩下がっているヒューベルトに声をかける。
(相変わらず、気にしてるのかしら……?)
何かどことなく距離感を感じる。先日まではそこまでなかった壁が目の前にあるようだ。
(何かしたかなぁ、やっぱり身分差のこと?全く、ケリー様も余計なことを)
別に同じ人間だし、さして気にするようなことでもないと思う。だが、そのように考えたところで、ふとそれは私が特権階級だったからこその驕りかもしれないとも思った。
(そりゃ、普通は気にするものか)
自分だってクエリーシェルの邸宅に行った際には主従とは、と言ったことを考えてたなぁと思い出し、自己矛盾に気づいて自嘲する。
そもそも、特権階級には特権階級の意義がある。皆を導き、責を負う。だからこそ、敬われる存在でなければならない。
ーー主従のルールはきちんと守らねばならない。そうしないと身を滅ぼすことになる。
そういえば、この言葉はブライエ国王シグバールのものだったか。確か彼は主従関係が近すぎたゆえに謀反を起こされ、それを返り討ちにし、一掃したという。
(哀しいことね)
信頼していたからこそ、主従関係など関係なく接していたのだろう。それなのに、謀反を起こされ、自らが手にかけてなかったとしても、命を奪ったと言う事実は、きっと彼に重くのしかかっているはずだ。
それもあって、彼は今も老齢でありながらも前線で戦い続けるのかもしれない。
ーーステラ、何事も見誤るな。そのためにしっかりと見極めよ。
シグバールが王城の最も高い塔から見下ろしながら言った言葉は、力強くも寂しげであったと今更気付く。
(私は王ではないけれど、国を背負うということは多少なりともわかる)
好き嫌いの問題ではない。この身分相応の役割を果たすことが義務であるならば、そうしようではないか。……私が王であるならば。
「ヒューベルトさん」
「な、何でしょう?」
「やっぱり私はそのように距離を置かれると、いざという時に守れません」
「は、……え?ま、守る……?俺がリーシェ様を守るのでは……?」
「そういう細かいことは気にしないで。それに、ほら、私のほうがきっと強いですし?ですから、以前のように振舞っていただければと。それに、こうしてケリー様も私に対してこんな感じですしね」
「こ、こんな感じとは何だ……!私はちゃんとリーシェを想ってだな……っ」
ふふふ、と笑えば、少しだけ肩の力が抜けたのか表情が柔らかくなるヒューベルト。
(私は私。見極めれば、問題ない)
そして、一通り武器を眺め、兵団長に稽古をつけてもらったあと、帰城するのだった。
「ぐ……っ」
「はぁあああ!!」
男の野太い声や金属が擦れる音が至る所で響いている。まさに喧騒そのもので、耳を塞ぎたくなるほどの騒音をBGMにしながら、私達はカジェ国の軍演習場を見て回っていた。
「何だ、これは」
「ウルミという剣です」
「これが、剣、だと……?」
クエリーシェルは目の前に鎮座している武器を見て絶句する。同様に、ヒューベルトも言葉をなくしていた。
ウルミ、というのはここカジェ国古来から存在する剣である。だが、剣とは言うものの、その見た目や形状は一般的に認知されている剣とは程遠いものだった。
というのもウルミはどちらかというと一見すると鞭と錯覚するような剣であった。
「これ、使い方にコツがあるのですが、使いこなせば結構殺傷能力は高いんですよ」
「使いこなせば、って下手したら自分も傷つける可能性もあるのでは?」
「否定はしません」
「誰がこんな武器を考えたんだ……」
ぽつりと呟くクエリーシェル。実際古来からあるとはいえ、確かにどうしてこのような形態になったのだろう、と疑問に思うのは無理もないだろう。
(私も使おうとして、さすがにアーシャにも止められたしね)
あのときは「あんた、何考えてんの!?」と今まで見たことないほど目をクワッとかっ開きながら迫られて、あまりの迫力に私も大人しく引き下がったのだ。
今回も、過去のことを思い出したのだろう、軍の演習場に行きたいと言えば「わかってると思うけど、ウルミは絶対ダメだからね」と釘を刺され済みである。
(本当、無駄に記憶力いいんだから)
「他にもマドゥやハラディーとかもありますよ」
「いやな予感しかしない」
「まぁまぁ、そう言わずに」
明らかに引き気味のクエリーシェルとヒューベルト。いくら軍に所属してるとはいえ、見たこともない武器や戦い方に驚きよりも呆気の方が優っているようだった。
(異文化の武器って面白いは面白いけど、カジェ国のは明らかに異様な形態してるのよね)
マドゥも盾に矛が付いているという、まさに矛盾した武器であるし、ハラディーに関しては諸刃の剣という持ち手以外は刃になっている武器である。
(防げて切れて、どこでも切れて、お得っちゃお得?)
昔の人が考えることはよくわからない、と思いながら、見て回る。
「ヒューベルト様もせっかくですし、許可は取ってあるんですから色々と見せていただきましょう?」
「え、えぇ、はい、拝見致します……!」
なぜか、私とクエリーシェルから半歩下がっているヒューベルトに声をかける。
(相変わらず、気にしてるのかしら……?)
何かどことなく距離感を感じる。先日まではそこまでなかった壁が目の前にあるようだ。
(何かしたかなぁ、やっぱり身分差のこと?全く、ケリー様も余計なことを)
別に同じ人間だし、さして気にするようなことでもないと思う。だが、そのように考えたところで、ふとそれは私が特権階級だったからこその驕りかもしれないとも思った。
(そりゃ、普通は気にするものか)
自分だってクエリーシェルの邸宅に行った際には主従とは、と言ったことを考えてたなぁと思い出し、自己矛盾に気づいて自嘲する。
そもそも、特権階級には特権階級の意義がある。皆を導き、責を負う。だからこそ、敬われる存在でなければならない。
ーー主従のルールはきちんと守らねばならない。そうしないと身を滅ぼすことになる。
そういえば、この言葉はブライエ国王シグバールのものだったか。確か彼は主従関係が近すぎたゆえに謀反を起こされ、それを返り討ちにし、一掃したという。
(哀しいことね)
信頼していたからこそ、主従関係など関係なく接していたのだろう。それなのに、謀反を起こされ、自らが手にかけてなかったとしても、命を奪ったと言う事実は、きっと彼に重くのしかかっているはずだ。
それもあって、彼は今も老齢でありながらも前線で戦い続けるのかもしれない。
ーーステラ、何事も見誤るな。そのためにしっかりと見極めよ。
シグバールが王城の最も高い塔から見下ろしながら言った言葉は、力強くも寂しげであったと今更気付く。
(私は王ではないけれど、国を背負うということは多少なりともわかる)
好き嫌いの問題ではない。この身分相応の役割を果たすことが義務であるならば、そうしようではないか。……私が王であるならば。
「ヒューベルトさん」
「な、何でしょう?」
「やっぱり私はそのように距離を置かれると、いざという時に守れません」
「は、……え?ま、守る……?俺がリーシェ様を守るのでは……?」
「そういう細かいことは気にしないで。それに、ほら、私のほうがきっと強いですし?ですから、以前のように振舞っていただければと。それに、こうしてケリー様も私に対してこんな感じですしね」
「こ、こんな感じとは何だ……!私はちゃんとリーシェを想ってだな……っ」
ふふふ、と笑えば、少しだけ肩の力が抜けたのか表情が柔らかくなるヒューベルト。
(私は私。見極めれば、問題ない)
そして、一通り武器を眺め、兵団長に稽古をつけてもらったあと、帰城するのだった。
0
お気に入りに追加
1,921
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる