上 下
186 / 437
3章【外交編・カジェ国】

49 対策について

しおりを挟む
「ルートはこの沖合をぐるっと回って、一度この海域に出てから」
「それ遠回りじゃないの?」
「この辺りは潮の流れが速いのよ。だから、あまり近道はオススメしないわ」
「なるほど」

地図とにらめっこしながら、船での進行ルートを考える。幼い頃はただ船に乗っていれば良かったのだが、今回はそうはいかないため、色々と頭に叩き込む。

「ここの海域に海賊が出没するところがあるわ。多分、この辺りに隠れ島でもあるのでしょうね」
「なるべく近づかないように心掛けるわ」
「そうしてちょうだい」

(海賊かぁ)

結構船旅に関してよくする方だったとは自負しているが、実は海賊に関してはあまり遭遇したことはなかった。

以前幼少期に会ったときはほぼ遠方からの攻撃でどうにか撃退できたから、乗り込まれたことはなかったのだが、それはあくまでペンテレアの船の性能や乗組員の操舵の腕前などが良かったからだ。

ペンテレアは多くの諸外国から国の先行きを占うためによく出向くことが多かったのだが、そのおかげで船は最新式の装備であった。

各国も自ら出向くよりかは来てもらう方が都合が良かったので、船の装備に関してはそれぞれの国の最新技術を提供してもらえていた。

だが、今回は違う。元々不慣れな船旅などあまりしないコルジールの船だ、ペンテレアのようにはいかない。そのため、細心の注意を払わねばならなかった。

(一応火薬や弓やらは積んではいるけど、問題は乗り込まれてきたときよね)

乗組員達はわかってはいるだろうが、船での戦闘は難しい。何より船を維持しなければならないし、船に気を配りすぎて自分達がやられてしまっては元も子もない。

それに船での戦闘は相手の方がどう考えても上手うわてであろう。しかも相手は積荷や金品、船を強奪できればいいのだし、取れなきゃ取れないで撤退すればいい。

守るものがないもののほうが無鉄砲である、つまりどんな攻撃をどんな犠牲をも厭わないということだ。それは非常に大きな脅威であった。

(海賊対策が目下の課題、ってとこかしら)

となると、複数相手にする技をしっかりと身につけなくてはならない。私の棍は1人1人で戦うからこそ発揮するものだ。なので、複数人相手となると威力は半減する。

いくらどうにも鍛えようとも、力では男性に勝てない。そうなると、別の部分、頭を使うことといかに自分の身軽さを武器にするかに焦点を当てて考えなければならない。

(大剣持つよりかは短剣よね、私が扱うには)

剣術は教わったものの、複数人相手で大剣を振り回すことなど恐らく不可能だろう。とくに船上という限られた範囲で戦わねばならない場合は。

(下手なことをして身内を切っても大惨事だ)

そうなると、必然的に使用するのは短剣一択だ。特に間合いを詰めて相手の懐に入りながら適度に距離感を調整するにはもってこいであるし、短剣だけでなく格闘術も合わせればそれなりにはなることだろう。

(師匠がまだご存命であれば、ご教示いただきたいが)

のらりくらりと生きていたあの師匠のことだ、生きてても死んでても、どちらでもおかしくはない。気功を教わったのだって、そもそもただの彼の気まぐれだ。というか、しきりに私がせがんだのだったっけ。

過去の記憶を思い起こす。

当時私はまだ年齢が6つとかで、生意気盛りであったことを思い出す。そして、生意気なことを言ってとてもしごかれていたような……。

(ヤバい。ここのところ黒歴史の発掘三昧だ)

思い出してしまったことを後悔するような愚行の数々に、つい頭を抱えたくなる。

(会ったら謝ろう。うん、会えたらいいな)

「痛っ……っ!」

思いきり頭を叩かれて、回顧から我に還れば、非常に憤った顔をしたアーシャが私の顔を覗き込んでいた。

「こら、ぼんやりしてない!全く、すぐどっかにトリップするんだから」
「人を危ないやつみたいに言わないでよ」

頭を摩りながら抗議すれば、再びキッと睨まれる。

「十分ヤバいやつよ。大事な話、しかもこんな美しくて聡明な王妃の私の話を聞かないだなんて、あんたくらいよ」
「……自分で言うか、普通」
「聞こえてるわよ!」

またしても脱線しながら、その日はどうにか船の新たな積荷についてや日程などを話し合うのだった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

お嬢様は、今日も戦ってます~武闘派ですから狙った獲物は逃がしません~

高瀬 八鳳
恋愛
強い女性が書いてみたくて、初めて連載?的なものに挑戦しています。 お読み頂けると大変嬉しく存じます。宜しくお願いいたします。 他サイトにも重複投稿しております。 この作品にはもしかしたら一部、15歳未満の方に不適切な描写が含まれる、かもしれません。ご注意下さいませ。表紙画のみAIで生成したものを使っています。 【あらすじ】 武闘系アラフォーが、気づくと中世ヨーロッパのような時代の公爵令嬢になっていた。 どうやら、異世界転生というやつらしい。 わがままな悪役令嬢予備軍といわれていても、10歳ならまだまだ未来はこれからだ!!と勉強と武道修行に励んだ令嬢は、過去に例をみない心身共に逞しい頼れる女性へと成長する。 王国、公国内の様々な事件・トラブル解決に尽力していくうちに、いつも傍で助けてくれる従者へ恋心が芽生え……。「憧れのラブラブ生活を体験したい! 絶対ハッピーエンドに持ちこんでみせますわ!」 すいません、恋愛事は後半になりそうです。ビジネスウンチクをちょいちょいはさんでます。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

処理中です...