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3章【外交編・カジェ国】
48 縁
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「そういえば、アーシャ王妃とは何を話していたんだ?」
「んーー昔話、ですかね?あとは私が今こうしているまでの経緯などを話してました」
ベッドでゴロゴロと、2人で寝転びながら話す。
先程泣いたせいで目元が腫れているため、できれば温めたい。だが、先程からクエリーシェルに抱きしめられて一向に離してくれる様子はないし、離れがたいのもあってされるがままになっている。
「アーシャ王妃は、よっぽどリーシェが大事なんだな」
「私が生まれた頃よりの付き合いですからね、腐れ縁というかなんというか。私を妹だと思ってる部分はあるかもしれないですね」
「なるほど、確かに接し方が姉のそれに近い」
何となしに口に出したことだが、実際よく考えてみると、幼馴染というより家族という感覚に近いかもしれない。
別段、国としてカジェ国とペンテレアが距離が近いわけでもなかったのに、こうして幼馴染としてよく会っていたのは、恐らく文化の近さが影響しているのだろう。
カジェにも占術関連の信仰が存在してるし、こういう信仰や導きなどの相互理解を深めるのには、他国に比べてお互いにちょうどいい相手だったのだと思う。
(そう思うと、縁ってつくづく大事ね)
蔑ろにしていたつもりはないが、自分の縁によってゴードジューズ帝国に反旗を翻すことができるというのは不思議な感覚だ。
無駄に家族で一緒に船で他国に行っていたことも、無意味ではなかったのだと改めて実感する。
(こういうのを見越して連れて行ってくれてたのなら凄いけど)
姉ならその可能性があるから、恐ろしい。本当に彼女は、一体どこまで視えていたのか。今は知る由もないが、とても気になる。
私には全く引き継がれなかった才能だから、逆に未練というか嫉妬するようなことはなかった。だが、姉の存在自体には嫉妬していた。
誰からも好かれる姉。何でも見通せる千里眼を持ちながらも、驕ることなく優しくて慈愛に満ちた人であったが、私には両親からの愛情は全部姉に行っている気がして、正直複雑な想いは抱いていた。
姉のことは嫌いではない、むしろ好きだ。
……誰よりも私を理解してくれた人。だからこそ、この感情を秘匿するためにひたすら姉とは違う分野にのめり込んだのだが。
(それすらも計算だったのかしら)
こうして、その学んだことが役立っている。知識に不要なものはないと思っているが、それでもここまで活用するとなると、謀られてたのでは、とも思ってしまう。……決して悪いことではないのだが。
私の心の声も聞けてたということだし、可能性はないわけではないだろう。私の複雑な気持ちに気づいていながら、こうも私を導いてくれたことには感服せざるを得ない。
(本当に、姉様には敵わないなぁ……)
「それにしても昔からお転婆だったのだな」
クエリーシェルがくつくつと笑う。私の幼少期を妄想しているのだろうか、どこかその瞳は優しかった。
「お転婆ってわけでは。ちょっと知的好奇心に導かれるまま、行動していただけです」
「それをお転婆というんだが」
珍しくクエリーシェルに突っ込まれて、口を噤む。何となくクエリーシェルの前ではそれなりに淑女としてのイメージを保っていたかったのだが、先程の会談での会話によってその望みは脆くも崩れてしまったのが少し痛かった。
さらに過去には、どこまで人体は耐えられるかと木から何度も落ちたり、食べられるかどうかとキノコを片っ端から食べようとしたりしていたことがバレたら、私の今まで培ってきたイメージは地に堕ちるだろう。
(アーシャさえ言わなければバレないけど……!)
「そういえば、アーシャ王妃の前では年相応の振る舞いなのだな」
「え?あぁ、今更取り繕うような間柄でもないですから」
「私にもそのように年相応に振る舞ってもらいたいが……ダメか?」
いつの間にか、押し倒されてるかのようにクエリーシェルが覆い被さってくる。少し伸びた髪が私の頬をくすぐり、気恥ずかしさを覚える。
「別にダメじゃないですけど」
「けど?」
「私のイメージが……」
「イメージ?」
「今まで培ってきたイメージが崩れるのはちょっと」
顔を覆いながら言えば、ははは、と笑い声が落ちてくる。そっと指の隙間から覗けば、クエリーシェルが面白おかしく笑っていた。
「そういうところを気にするところがまだまだ子供だな」
「そうですよ。まだ17なんですから」
笑われたことが解せなくて思わず膨れれば、その顔にもまた笑われる。
「そうだな。今後もそういう感じでよろしく頼む」
「もう、ロリコンですか?」
「……っ!べ、別にそういうわけじゃ……、た、ただ、リーシェには自然体でいてもらいたいだけでな……ってまた、私をからかっているのだろう……!」
そのままキッと目を釣り上げられると、大きな手の平が私の身体を這っていく。
「ちょ、何するんですか……っ」
「悪い娘にはお仕置きだ」
「あは、……ふふふ、はははは……っちょ、やめ……やだ……っはははは……!」
思い切り擽られて身をよじる。前回擽られたときに私の弱点を発見されてたようで、執拗にそこを攻められると、私は息も絶え絶えに笑い転げるしかなかった。
「んーー昔話、ですかね?あとは私が今こうしているまでの経緯などを話してました」
ベッドでゴロゴロと、2人で寝転びながら話す。
先程泣いたせいで目元が腫れているため、できれば温めたい。だが、先程からクエリーシェルに抱きしめられて一向に離してくれる様子はないし、離れがたいのもあってされるがままになっている。
「アーシャ王妃は、よっぽどリーシェが大事なんだな」
「私が生まれた頃よりの付き合いですからね、腐れ縁というかなんというか。私を妹だと思ってる部分はあるかもしれないですね」
「なるほど、確かに接し方が姉のそれに近い」
何となしに口に出したことだが、実際よく考えてみると、幼馴染というより家族という感覚に近いかもしれない。
別段、国としてカジェ国とペンテレアが距離が近いわけでもなかったのに、こうして幼馴染としてよく会っていたのは、恐らく文化の近さが影響しているのだろう。
カジェにも占術関連の信仰が存在してるし、こういう信仰や導きなどの相互理解を深めるのには、他国に比べてお互いにちょうどいい相手だったのだと思う。
(そう思うと、縁ってつくづく大事ね)
蔑ろにしていたつもりはないが、自分の縁によってゴードジューズ帝国に反旗を翻すことができるというのは不思議な感覚だ。
無駄に家族で一緒に船で他国に行っていたことも、無意味ではなかったのだと改めて実感する。
(こういうのを見越して連れて行ってくれてたのなら凄いけど)
姉ならその可能性があるから、恐ろしい。本当に彼女は、一体どこまで視えていたのか。今は知る由もないが、とても気になる。
私には全く引き継がれなかった才能だから、逆に未練というか嫉妬するようなことはなかった。だが、姉の存在自体には嫉妬していた。
誰からも好かれる姉。何でも見通せる千里眼を持ちながらも、驕ることなく優しくて慈愛に満ちた人であったが、私には両親からの愛情は全部姉に行っている気がして、正直複雑な想いは抱いていた。
姉のことは嫌いではない、むしろ好きだ。
……誰よりも私を理解してくれた人。だからこそ、この感情を秘匿するためにひたすら姉とは違う分野にのめり込んだのだが。
(それすらも計算だったのかしら)
こうして、その学んだことが役立っている。知識に不要なものはないと思っているが、それでもここまで活用するとなると、謀られてたのでは、とも思ってしまう。……決して悪いことではないのだが。
私の心の声も聞けてたということだし、可能性はないわけではないだろう。私の複雑な気持ちに気づいていながら、こうも私を導いてくれたことには感服せざるを得ない。
(本当に、姉様には敵わないなぁ……)
「それにしても昔からお転婆だったのだな」
クエリーシェルがくつくつと笑う。私の幼少期を妄想しているのだろうか、どこかその瞳は優しかった。
「お転婆ってわけでは。ちょっと知的好奇心に導かれるまま、行動していただけです」
「それをお転婆というんだが」
珍しくクエリーシェルに突っ込まれて、口を噤む。何となくクエリーシェルの前ではそれなりに淑女としてのイメージを保っていたかったのだが、先程の会談での会話によってその望みは脆くも崩れてしまったのが少し痛かった。
さらに過去には、どこまで人体は耐えられるかと木から何度も落ちたり、食べられるかどうかとキノコを片っ端から食べようとしたりしていたことがバレたら、私の今まで培ってきたイメージは地に堕ちるだろう。
(アーシャさえ言わなければバレないけど……!)
「そういえば、アーシャ王妃の前では年相応の振る舞いなのだな」
「え?あぁ、今更取り繕うような間柄でもないですから」
「私にもそのように年相応に振る舞ってもらいたいが……ダメか?」
いつの間にか、押し倒されてるかのようにクエリーシェルが覆い被さってくる。少し伸びた髪が私の頬をくすぐり、気恥ずかしさを覚える。
「別にダメじゃないですけど」
「けど?」
「私のイメージが……」
「イメージ?」
「今まで培ってきたイメージが崩れるのはちょっと」
顔を覆いながら言えば、ははは、と笑い声が落ちてくる。そっと指の隙間から覗けば、クエリーシェルが面白おかしく笑っていた。
「そういうところを気にするところがまだまだ子供だな」
「そうですよ。まだ17なんですから」
笑われたことが解せなくて思わず膨れれば、その顔にもまた笑われる。
「そうだな。今後もそういう感じでよろしく頼む」
「もう、ロリコンですか?」
「……っ!べ、別にそういうわけじゃ……、た、ただ、リーシェには自然体でいてもらいたいだけでな……ってまた、私をからかっているのだろう……!」
そのままキッと目を釣り上げられると、大きな手の平が私の身体を這っていく。
「ちょ、何するんですか……っ」
「悪い娘にはお仕置きだ」
「あは、……ふふふ、はははは……っちょ、やめ……やだ……っはははは……!」
思い切り擽られて身をよじる。前回擽られたときに私の弱点を発見されてたようで、執拗にそこを攻められると、私は息も絶え絶えに笑い転げるしかなかった。
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