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3章【外交編・カジェ国】

44 いい情報

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「まぁ、ここまで悪い情報ばかりだったけど、いい情報もあるわ」
「ここまで悪い情報ばかりだとあまり期待できないけど……」

ここまで聞いてきた内容は、どれもこれもあまりよくないものばかりだ。特に自分が最重要人物として狙われているというのが最も痛手ではあるが。

「まぁまぁ、聞きなさいな。まず、ブライエに関しては相変わらずステラが知ってるシグバール国王が統治しているわ」
「シグバール国王ってもう60近いんじゃ……」
「えぇ、まだ現役で前線にも出てるそうよ」

会ったのはだいぶ前だが、長い白髪が特徴的で背丈が物凄く高かったことを思い出す。血の気は多い人だったが、快活で、豪胆で、私のことを気に入ってくださって、そういえば国内をあちこちに馬で案内してもらった気がする。

大きくなったらワシの息子の嫁に来い、と言われてた気もするが、あの時は確か既にバーミリオン国の皇子との婚約後で断ったような気もするが、正直定かではない。

「確か皇子もいたはずなのに、現役って凄いわね」

しみじみと呟けば、アーシャがそれすらも通訳したのか、今まで黙っていたアジャ国王が話し出す。

「(まだ誰も自分を超えられないから、おちおち引退もできないと笑ってたそうだよ)」
「(そうなんですね。あの方、確かにお強いですからね……)」
「(あぁ、以前私も手合わせさせていただいたことはあるが、とてもじゃないが敵わなかったよ)」

ははは、とアジャ国王は笑ってみせるが、クエリーシェルと負けずとも劣らない体躯の持ち主で、30近くは若いはずのアジャ国王が太刀打ちできないというのは、確かにある意味凄い。

シグバール国王も大きかったとはいえ、どちらかというと細身でやけに身長が高いイメージだった。

当時の私は確か6つとか7つとかだし、そのときの身長のイメージはあまりあてにはできないため、アジャ国王やクエリーシェルとさほど身長が変わらないのかもしれない。

だが、あの細身で、このがっしりしたアジャ国王に勝つのはただただ感心してしまう。

「そういえば、ステラは剣術などをシグバール国王に教わっただとか」
「本当、よくまぁ人のこと覚えてるわね」
「そういうのを覚えるのが大切な役割だからね、当然のことよ」

確かに剣術や武術などはシグバール国王から教わったことが多い。彼は剣術使いだったが、比較的何でも使いこなせたため、私には槍や棍など得物の方が戦いやすいと指南したのも彼だった。

「さらにお転婆度が増したと、よくマーシャルが嘆いてたわ」
「煩い。そういう情報はいらないから」

ちらっとクエリーシェルを見れば、なぜかクエリーシェルも居た堪れない顔をしているのを見て、私のこういう昔話を聞かせるために在籍させてるわけではないのよー!と、とりあえず心の中で訴えておく。

(……きっとその想いは届かないだろうけど)

「あとは、アガも比較的に今は安定してるわ」
「え!あそこはずっと戦乱中ではなかったかしら」

あの東洋の島国はいつもどこかしらで内戦が起きていたと思っていたが、まさかそれが落ち着いたというのは確かに吉報である。

だが、私の知り合いである暗部の里の人達は商売あがったりだろうなぁ、と少し気の毒に思った。

「ステラが迷い込んだときはね。今は、国も変わって国王も変わってだいぶ落ち着いたのよ」
「えぇ!国も国王も変わったの!!?」
「まぁ、統治された、というのが正確でしょうね。あのそれぞれ王がいたという時代から、各地を治める領主、という形になったそうよ」

私が知らぬ間にそんなことが、と俄かに信じられない気持ちになる。常にどこかしらで戦が起きてたあの当時を思い出すと、それはもうびっくりするほどのことである。

「ちなみに国王はステラが知っている人物よ」
「えぇ!?だ、誰!??私が知ってるってことは、もしかして……クジュウリの里の人達……?!」

アガ国で私が知っている人物と言えばクジュウリの里の人達しかいない。しかもあそこは暗殺や戦闘に特化した人間の集まりだったはずだが、そこからまさか国王が誕生するだなんて。

「えぇ、っと……お話が盛り上がっているところ、申し訳ありませんが、ステラ様が『アガ国に迷い込んだ』ってどういうことでしょうか?」

突然クエリーシェルの声が聞こえ、そちらを向く。その顔はにっこりと笑ってはいるものの、明らかに怒っているオーラが見て取れた。

「しかも、先程の話を聞くと年中争っていた危険な地だとのことですが……」
「……私はそこにいたわけではないし、マーシャルから聞いただけだから。あとで本人から聞いてちょうだい」
「ちょ、逃げるのズルい!そこ掘り返したのはアーシャでしょ!!」

あからさまに空気を察して逃げの一手を打つアーシャに、私が必死で縋り付くものの、「ではステラ様、あとでゆっくりと詳細を……」と逃げ道を塞がれ、ただただ「はい」と従うしかできなかった。
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