174 / 437
3章【外交編・カジェ国】
37 サーカス
しおりを挟む
「(うわぁ!すごい、すごいわ……!!)」
「(確かに、……これは圧倒されるわね)」
目の前で繰り広げられる大技の数々に、目を奪われる。くるくると目にも留まらぬ速さで回転して宙を舞い、次々と輪っかをくぐったり大きなハシゴを越えていったりする。
スピード感がとてもあり、観客が目をそらす隙など与えさせないほど惹きつける構成で、観る者を飽きさせない内容となっていた。
隣にいるクエリーシェルも、ジッと舞台に釘付けになっていて、観客席は暗くてよく見えないものの、心なしか顔が上気しているようにも思える。
確かに、普段自分ができないものをしているものを見ると変な高揚感が生まれるが、恐らくそういった類いの感覚だろう。自分にも身に覚えがあるからわかる。
私もある程度の技はできるとはいえ、ここまではどうにも高みを目指せてないと思う。マルダスにここまでの手練れがいるということはある意味恐ろしいと思いながらも、ここまで極めているのは敵ながら天晴れだとも思った。
(負けると思うと、悔しいわね)
つい、私の負けず嫌いの部分がむくむくと疼く。そもそも、こうしてクエリーシェルを魅了していることさえ、ちょっと癪である。
隣のクエリーシェルを見れば、未だ視線は釘付けのままだ。何となしに繋いだ手はそのままであるものの、技のときに緊張と共に不意に握られるくらいでムードも何もあったものではない。
「……どう思います?」
「ん?あぁ、凄いな」
「んもう、感想を聞いてるんじゃないんですけど……!」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒ってみせるものの、クエリーシェルの視線は未だ舞台に向けられたまま、心ここにあらずだ。
ここで聞いたところで実のある答えは望めなさそうで、大人しく私も彼女達の舞台に再び視線を向ける。
女性だけの集団だけあって、迫力は少々欠けるものの、音楽の優美さに合わせてしなやかな動きや妖艶で緩慢な動きなどが調和していて、端的に言うならばメリハリがあると言える。
特に大人の女性という色気を前面に出したポールダンスは、曲線美と優美さの融合であり、隣でごくりと生唾を飲むのが聞こえるほど、男性は釘付けだった。
私としては実に面白くないが、そのことについてはあとで詳しく言及するとして、なるほど、腕や太腿の筋肉などを巧く使っているなと観察する。
柔軟も特に優れていて、少々身体が固い私からしたら想像もつかないような位置に足やら腕やらがあって、ある意味グロテスクな程である。
女性でここまでこのような動きができるというのは、相当鍛えているのだろう。観察して鑑みるに、このサーカスはそれぞれ専任がいるわけではなく、皆大体同じ技をやっている。
ということは、得意不得意はあるにせよ、皆同じレベルまで鍛えているということである。
そう考えたとき、ふと思い出す。
(あれ。そういえば、先日の賊も女性だったけど、動きが似ているかも)
出港前の夜、クエリーシェルの城の中で争ったときに見えた彼女もまた、思い出してみたらこのようなサーカス団のような動きをしていたことを思い出す。
(となると、あの密偵はマルダスの刺客?でも、なぜあのタイミングで……?)
謎が謎を呼び、段々と混乱してくる。
そもそももしかしたら、マルダスの刺客ではないかも。いやいや、逆にマルダスでなければ一体誰が。
(でも、アガにいる人達とも動きが違うのよね)
過去に会った暗殺や戦闘専門の集団を思い出す。
彼らもまた、戦闘に長けていたが、どちらかと言うと殺気が前面に出ていて、その場にいるだけでピリピリと肌が粟立つくらいだった。
だが、賊はどちらかと言うとしなやかな猫のような動きだった。戦闘中はもちろん殺気はあったものの、そもそものオーラが違った気がする。
(となると、やはり以前クエリーシェルの邸宅に忍び込んだのはマルダスの刺客ということで間違いなさそうね)
ある程度の思考が終着し終えたところで、演目もクライマックスへ。人がどんどんと人の上へと登っていき、さながら人間ツリーとでも言うべきものへと姿を変えていく。
最後の1人が登り終えると、辺りはスタンディングオベーションで、拍手喝采だった。私も他の人に紛れるように立ち上がると、大きな拍手をするのだった。
「(確かに、……これは圧倒されるわね)」
目の前で繰り広げられる大技の数々に、目を奪われる。くるくると目にも留まらぬ速さで回転して宙を舞い、次々と輪っかをくぐったり大きなハシゴを越えていったりする。
スピード感がとてもあり、観客が目をそらす隙など与えさせないほど惹きつける構成で、観る者を飽きさせない内容となっていた。
隣にいるクエリーシェルも、ジッと舞台に釘付けになっていて、観客席は暗くてよく見えないものの、心なしか顔が上気しているようにも思える。
確かに、普段自分ができないものをしているものを見ると変な高揚感が生まれるが、恐らくそういった類いの感覚だろう。自分にも身に覚えがあるからわかる。
私もある程度の技はできるとはいえ、ここまではどうにも高みを目指せてないと思う。マルダスにここまでの手練れがいるということはある意味恐ろしいと思いながらも、ここまで極めているのは敵ながら天晴れだとも思った。
(負けると思うと、悔しいわね)
つい、私の負けず嫌いの部分がむくむくと疼く。そもそも、こうしてクエリーシェルを魅了していることさえ、ちょっと癪である。
隣のクエリーシェルを見れば、未だ視線は釘付けのままだ。何となしに繋いだ手はそのままであるものの、技のときに緊張と共に不意に握られるくらいでムードも何もあったものではない。
「……どう思います?」
「ん?あぁ、凄いな」
「んもう、感想を聞いてるんじゃないんですけど……!」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒ってみせるものの、クエリーシェルの視線は未だ舞台に向けられたまま、心ここにあらずだ。
ここで聞いたところで実のある答えは望めなさそうで、大人しく私も彼女達の舞台に再び視線を向ける。
女性だけの集団だけあって、迫力は少々欠けるものの、音楽の優美さに合わせてしなやかな動きや妖艶で緩慢な動きなどが調和していて、端的に言うならばメリハリがあると言える。
特に大人の女性という色気を前面に出したポールダンスは、曲線美と優美さの融合であり、隣でごくりと生唾を飲むのが聞こえるほど、男性は釘付けだった。
私としては実に面白くないが、そのことについてはあとで詳しく言及するとして、なるほど、腕や太腿の筋肉などを巧く使っているなと観察する。
柔軟も特に優れていて、少々身体が固い私からしたら想像もつかないような位置に足やら腕やらがあって、ある意味グロテスクな程である。
女性でここまでこのような動きができるというのは、相当鍛えているのだろう。観察して鑑みるに、このサーカスはそれぞれ専任がいるわけではなく、皆大体同じ技をやっている。
ということは、得意不得意はあるにせよ、皆同じレベルまで鍛えているということである。
そう考えたとき、ふと思い出す。
(あれ。そういえば、先日の賊も女性だったけど、動きが似ているかも)
出港前の夜、クエリーシェルの城の中で争ったときに見えた彼女もまた、思い出してみたらこのようなサーカス団のような動きをしていたことを思い出す。
(となると、あの密偵はマルダスの刺客?でも、なぜあのタイミングで……?)
謎が謎を呼び、段々と混乱してくる。
そもそももしかしたら、マルダスの刺客ではないかも。いやいや、逆にマルダスでなければ一体誰が。
(でも、アガにいる人達とも動きが違うのよね)
過去に会った暗殺や戦闘専門の集団を思い出す。
彼らもまた、戦闘に長けていたが、どちらかと言うと殺気が前面に出ていて、その場にいるだけでピリピリと肌が粟立つくらいだった。
だが、賊はどちらかと言うとしなやかな猫のような動きだった。戦闘中はもちろん殺気はあったものの、そもそものオーラが違った気がする。
(となると、やはり以前クエリーシェルの邸宅に忍び込んだのはマルダスの刺客ということで間違いなさそうね)
ある程度の思考が終着し終えたところで、演目もクライマックスへ。人がどんどんと人の上へと登っていき、さながら人間ツリーとでも言うべきものへと姿を変えていく。
最後の1人が登り終えると、辺りはスタンディングオベーションで、拍手喝采だった。私も他の人に紛れるように立ち上がると、大きな拍手をするのだった。
0
お気に入りに追加
1,922
あなたにおすすめの小説
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~
深園 彩月
ファンタジー
最強の賢者として名を馳せていた男がいた。
魔法、魔道具などの研究を第一に生活していたその男はある日間抜けにも死んでしまう。
死んだ者は皆等しく転生する権利が与えられる。
その方法は転生ガチャ。
生まれてくる種族も転生先の世界も全てが運任せ。その転生ガチャを回した最強賢者。
転生先は見知らぬ世界。しかも種族がまさかの……
だがしかし、研究馬鹿な最強賢者は見知らぬ世界だろうと人間じゃなかろうとお構い無しに、常識をぶち壊す。
差別の荒波に揉まれたり陰謀に巻き込まれたりしてなかなか研究が進まないけれど、ブラコン拗らせながらも愉快な仲間に囲まれて成長していくお話。
※拙い作品ですが、誹謗中傷はご勘弁を……
只今加筆修正中。
他サイトでも投稿してます。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
悪役令嬢は安眠したい。
カギカッコ「」
恋愛
番外編が一個短編集に入ってます。時系列的に66話辺りの話になってます。
読んで下さる皆様ありがとうごぜえまーす!! V(>▽<)V
恋人に振られた夜、何の因果か異世界の悪役令嬢アイリスに転生してしまった美琴。
目覚めて早々裸のイケメンから媚薬を盛ったと凄まれ、自分が妹ニコルの婚約者ウィリアムを寝取った後だと知る。
これはまさに悪役令嬢の鑑いやいや横取りの手口!でも自分的には全く身に覚えはない!
記憶にございませんとなかったことにしようとしたものの、初めは怒っていたウィリアムは彼なりの事情があるようで、婚約者をアイリスに変更すると言ってきた。
更には美琴のこの世界でのNPCなる奴も登場し、そいつによればどうやら自分には死亡フラグが用意されているという。
右も左もわからない転生ライフはのっけから瀬戸際に。
果たして美琴は生き残れるのか!?……なちょっとある意味サバイバル~な悪役令嬢ラブコメをどうぞ。
第1部は62話「ああ、寝ても覚めても~」までです。
第2部は130話「新たな因縁の始まり」までとなります。
他サイト様にも掲載してます。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる