172 / 437
3章【外交編・カジェ国】
35 幼馴染
しおりを挟む
朝食も終え、ふらふらと商店街などを散策する。普段来慣れてるとのことで、お気に入りのお店がいくつかあるらしく、それをそれぞれ説明しながら紹介してくれる。
「(アリーは宝石が好きなの?)」
「(えぇ、サファイアやトルコ石、アメジストに……あ、お姉ちゃんの瞳のような翡翠も好きよ)」
この店には様々な宝石を取り扱っているようで、目に毒なほどキラキラと鉱石特有の光が目につく。
好きな人にとってはとてもたまらないのだろう。現にアルルも目を輝かせて宝石を眺めていた。
「(でも、ママが貴女にはまだ早いってあんまり買ってはくれないの)」
「(まぁ、アーシャはそういうところ厳しいからね)」
「(そういえば、ステラお姉ちゃんってママと幼馴染なのよね?ママの昔ってどんな感じだったの?)」
言われて昔のアーシャを思い出す。初対面というか物心ついてから会ったときは、とにかくただただ美しい人だと思っていた。
紹介されたときは、こんなに美しい作り物のような人がこの世に存在するのか!と驚くほどだった。
(まぁ、化けの皮が剥がれるのは早かったけど)
元々あの意地の悪い性格は、処世術だということはわかった。
人から意味もなく、ただ美しいからだというだけで妬まれ、嫉まれる。また、無駄に頭がいいのもあって、反感を買われたり生意気だと不興を買われたりしていた。
その結果、虐めや無視、意味のない嘲笑などをされ、本人曰く強くならなくてはならなくて、あのような気の強い人になってしまった。
きっと本来はもう少し優しい人物だったはずだ。今もこうして私に対して気遣ってくれているのは、その側面があるからだろう。
(今回のアルルとの同行だって、恐らく彼女なりの優しさだろう。素直でないところはお互いさまだが)
「(アリーのお母様は昔から美しい人で、知的で、何事にも長けている人だったわ)」
「(まぁ!それでそれで?)」
普段なかなか聞く機会のない母親の話に、アルルは興味津々と言った様子だ。普段なかなか彼女の過去を語る人物など身近にいないのだろう。
そもそも、アーシャ自体が過去を掘り返されるのが好きではない。あまり多く語らないのも、きっと過去に色々と酷い目にあっていたからに違いない。
王族と言えど、誰も彼もが庇護対象ではない。
王になるためには強くならねばならない、と教育される者も多く、そのため突き放されるように育てられる者がいたが、アーシャはどちらかというとそのような弱肉強食の世界で生きていた。
「(そうね、うーん……人の見る目がある方ね。観察眼が凄いの。私の姉もそういう人を見る目はとても優れていたけど、お母様はお母様で本質を見れる人だったわ。だから、アリーもお母様の言うことにはちゃんと従ってね。彼女には彼女の考えがあるのだから)」
「(はーい、わかったわ)」
「(とにかく、貴女のお母様は素晴らしい人よ)」
(私に対しては、弄んでる感は否めないが)
アーシャのことは嫌いではないが、苦手だというのはここから来ている。
それはきっと、お互いに距離感が上手く作用してないのだろう。わかってはいるけど、どうにもできないもどかしさはある。だが、私は私でこの距離感は嫌いではなかった。
「(そういえば、お姉ちゃんがどこか行きたいところある?)」
「(そうね、ちょっと他にも色々見ていきたいわ。例えば、普段はなかなか目にしないもの)」
今回、アーシャが私とクエリーシェルに外出を許可したのには恐らく訳がある。
(さすがの私も、ただ観光を満喫するほど腐っちゃいないわ)
いくら気を遣っているとは言えど、さすがの王妃だ、そこまで生温い扱いはしないはずだ。先程マルダスのことを言ったということは、即ちここにマルダスの人達がいるということだろう。
百聞は一見にしかず、つまり自分の目で確かめてみろ、ということを暗に示唆していた。
実際に私はまだマルダスのことをよく知らない。
本や伝聞などの知識として言語や大体の身体的特徴などの情報は備わってはいるものの、実際に国はもちろん、彼らを目にしたことがなかった。
コルジールでは謎に包まれた敵国、としての認識ではあるが、ここでは友好国とのこと。見方によって、また接し方によって、印象が異なることは十分承知しているからこそ、実際に生きた情報を得たかった。
「(そういえば、その先の空き地にサーカスが来ているそうよ)」
「(サーカス?)」
「(えぇ、曲芸とかをするそうよ。せっかくだし、見に行きましょうよ!)」
サーカス、と言われてアクロバティックな技をする人々を思い出す。私も見るのは幼少期ぶりだが、そもそもカジェ国でそう言ったことをやる団体などいただろうかと脳内の引き出しを漁っていく。
「(ほら、早く行きましょうよ!)」
「(ちょ、待っ!わかったから、引っ張らないで!)」
思い出す間もなく、アルルに手を引かれるがまま後をついていく。クエリーシェルにも道中で軽く説明すると、素直に頷いてついてきてくれるのだった。
「(アリーは宝石が好きなの?)」
「(えぇ、サファイアやトルコ石、アメジストに……あ、お姉ちゃんの瞳のような翡翠も好きよ)」
この店には様々な宝石を取り扱っているようで、目に毒なほどキラキラと鉱石特有の光が目につく。
好きな人にとってはとてもたまらないのだろう。現にアルルも目を輝かせて宝石を眺めていた。
「(でも、ママが貴女にはまだ早いってあんまり買ってはくれないの)」
「(まぁ、アーシャはそういうところ厳しいからね)」
「(そういえば、ステラお姉ちゃんってママと幼馴染なのよね?ママの昔ってどんな感じだったの?)」
言われて昔のアーシャを思い出す。初対面というか物心ついてから会ったときは、とにかくただただ美しい人だと思っていた。
紹介されたときは、こんなに美しい作り物のような人がこの世に存在するのか!と驚くほどだった。
(まぁ、化けの皮が剥がれるのは早かったけど)
元々あの意地の悪い性格は、処世術だということはわかった。
人から意味もなく、ただ美しいからだというだけで妬まれ、嫉まれる。また、無駄に頭がいいのもあって、反感を買われたり生意気だと不興を買われたりしていた。
その結果、虐めや無視、意味のない嘲笑などをされ、本人曰く強くならなくてはならなくて、あのような気の強い人になってしまった。
きっと本来はもう少し優しい人物だったはずだ。今もこうして私に対して気遣ってくれているのは、その側面があるからだろう。
(今回のアルルとの同行だって、恐らく彼女なりの優しさだろう。素直でないところはお互いさまだが)
「(アリーのお母様は昔から美しい人で、知的で、何事にも長けている人だったわ)」
「(まぁ!それでそれで?)」
普段なかなか聞く機会のない母親の話に、アルルは興味津々と言った様子だ。普段なかなか彼女の過去を語る人物など身近にいないのだろう。
そもそも、アーシャ自体が過去を掘り返されるのが好きではない。あまり多く語らないのも、きっと過去に色々と酷い目にあっていたからに違いない。
王族と言えど、誰も彼もが庇護対象ではない。
王になるためには強くならねばならない、と教育される者も多く、そのため突き放されるように育てられる者がいたが、アーシャはどちらかというとそのような弱肉強食の世界で生きていた。
「(そうね、うーん……人の見る目がある方ね。観察眼が凄いの。私の姉もそういう人を見る目はとても優れていたけど、お母様はお母様で本質を見れる人だったわ。だから、アリーもお母様の言うことにはちゃんと従ってね。彼女には彼女の考えがあるのだから)」
「(はーい、わかったわ)」
「(とにかく、貴女のお母様は素晴らしい人よ)」
(私に対しては、弄んでる感は否めないが)
アーシャのことは嫌いではないが、苦手だというのはここから来ている。
それはきっと、お互いに距離感が上手く作用してないのだろう。わかってはいるけど、どうにもできないもどかしさはある。だが、私は私でこの距離感は嫌いではなかった。
「(そういえば、お姉ちゃんがどこか行きたいところある?)」
「(そうね、ちょっと他にも色々見ていきたいわ。例えば、普段はなかなか目にしないもの)」
今回、アーシャが私とクエリーシェルに外出を許可したのには恐らく訳がある。
(さすがの私も、ただ観光を満喫するほど腐っちゃいないわ)
いくら気を遣っているとは言えど、さすがの王妃だ、そこまで生温い扱いはしないはずだ。先程マルダスのことを言ったということは、即ちここにマルダスの人達がいるということだろう。
百聞は一見にしかず、つまり自分の目で確かめてみろ、ということを暗に示唆していた。
実際に私はまだマルダスのことをよく知らない。
本や伝聞などの知識として言語や大体の身体的特徴などの情報は備わってはいるものの、実際に国はもちろん、彼らを目にしたことがなかった。
コルジールでは謎に包まれた敵国、としての認識ではあるが、ここでは友好国とのこと。見方によって、また接し方によって、印象が異なることは十分承知しているからこそ、実際に生きた情報を得たかった。
「(そういえば、その先の空き地にサーカスが来ているそうよ)」
「(サーカス?)」
「(えぇ、曲芸とかをするそうよ。せっかくだし、見に行きましょうよ!)」
サーカス、と言われてアクロバティックな技をする人々を思い出す。私も見るのは幼少期ぶりだが、そもそもカジェ国でそう言ったことをやる団体などいただろうかと脳内の引き出しを漁っていく。
「(ほら、早く行きましょうよ!)」
「(ちょ、待っ!わかったから、引っ張らないで!)」
思い出す間もなく、アルルに手を引かれるがまま後をついていく。クエリーシェルにも道中で軽く説明すると、素直に頷いてついてきてくれるのだった。
0
お気に入りに追加
1,922
あなたにおすすめの小説
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~
深園 彩月
ファンタジー
最強の賢者として名を馳せていた男がいた。
魔法、魔道具などの研究を第一に生活していたその男はある日間抜けにも死んでしまう。
死んだ者は皆等しく転生する権利が与えられる。
その方法は転生ガチャ。
生まれてくる種族も転生先の世界も全てが運任せ。その転生ガチャを回した最強賢者。
転生先は見知らぬ世界。しかも種族がまさかの……
だがしかし、研究馬鹿な最強賢者は見知らぬ世界だろうと人間じゃなかろうとお構い無しに、常識をぶち壊す。
差別の荒波に揉まれたり陰謀に巻き込まれたりしてなかなか研究が進まないけれど、ブラコン拗らせながらも愉快な仲間に囲まれて成長していくお話。
※拙い作品ですが、誹謗中傷はご勘弁を……
只今加筆修正中。
他サイトでも投稿してます。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
悪役令嬢は安眠したい。
カギカッコ「」
恋愛
番外編が一個短編集に入ってます。時系列的に66話辺りの話になってます。
読んで下さる皆様ありがとうごぜえまーす!! V(>▽<)V
恋人に振られた夜、何の因果か異世界の悪役令嬢アイリスに転生してしまった美琴。
目覚めて早々裸のイケメンから媚薬を盛ったと凄まれ、自分が妹ニコルの婚約者ウィリアムを寝取った後だと知る。
これはまさに悪役令嬢の鑑いやいや横取りの手口!でも自分的には全く身に覚えはない!
記憶にございませんとなかったことにしようとしたものの、初めは怒っていたウィリアムは彼なりの事情があるようで、婚約者をアイリスに変更すると言ってきた。
更には美琴のこの世界でのNPCなる奴も登場し、そいつによればどうやら自分には死亡フラグが用意されているという。
右も左もわからない転生ライフはのっけから瀬戸際に。
果たして美琴は生き残れるのか!?……なちょっとある意味サバイバル~な悪役令嬢ラブコメをどうぞ。
第1部は62話「ああ、寝ても覚めても~」までです。
第2部は130話「新たな因縁の始まり」までとなります。
他サイト様にも掲載してます。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる