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3章【外交編・カジェ国】

27 救急

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「(で、状況は?)」
「(それが、急にうめいてお倒れになられたとしか……!)」

(うめいて倒れた……?まさか毒……?いや、でも何で)

「承知しました。ちなみに数は?」

もし今回も人数が多ければ、テロの可能性も出てくる。昨今の情勢を鑑みて、アーシャは抜かりなく手回しをしているとは思うが、それが掻い潜られているとも限らない。

「(たったお1人だそうです。確か、ヒューベルト様だったと)」

(たった1人で、しかもヒューベルト?食事会のあとは私も一緒にいたし、特に何ともなかったはずだけど……?この短時間で病気にかかるとも考えにくいし。なら一体、どうして?)

「(ヒューベルトさんですか、わかりました。ちなみに、このことは……)」
「(ヒューベルト様はジューク様とご一緒のお部屋でしたので、ジューク様のみご存知です)」
「(わかりました。念のため、他の方々に悟られぬようにご配慮願います)」
「(もちろんです。よろしくお願いします)」

下手に広まってパニックが起これば、それこそ大変である。だが、その辺はやはり教育が行き届いているようで、既に口止めは済んでいるようだ。

王宮にいる私達と、見合いメンバーの宿舎は多少遠いので馬車を出してもらい、道中に侍女に確認して状況を整理する。

倒れたのはヒューベルトたった1人。

倒れたのは部屋の中、ジュークと一緒にいて、ジュークが侍女に助けを求めたらしい。それまでに何かに触れたり別行動したりと変わったことはなく、急に呻いて倒れたとのこと。

一応こちらの医師が早々に駆けつけ診たものの、原因不明とのこと。色々と可能性を考えて処置はしたようだが、それ以上どうすることもできなかったそうだ。

そして、最終的に責任者であることと、通訳できること、多少の医学を齧っているということで、私を頼ってきたというわけだった。

ジュークや侍女はもし流行り病だった場合にうつっては危険だと、別室に移ってヒューベルトのみ隔離している状態だという。

クエリーシェルも私と同行しようとしたものの、下手に人数が増えたところで、できることも限られているので王宮に留まってもらっている。

(命に別状がないといいけど)

何か未知の病原菌を持ってる可能性も考慮して、気休めにだが口元を布で覆っておく。そして、宿舎につくと、私はヒューベルトがいるという部屋まで走った。

「(お待たせ致しました!ヒューベルトさんの容体は?!)」

慌てて駆け込むと医師らしき人が1人彼に付き添っていた。気道の確保のためか、横になって寝ているようだが、確かにぐったりしているように見える。

「(お待ちしておりました!先程嘔吐されてから、多少は呼吸ができるようになったようですが、まだ予断を許さない状況です)」
「(そんなにですか!)」

見れば高熱を出してるのか、顔が真っ赤である。ところどころ発疹が出ているのも見て取れた。意識はあるようだが、譫言うわごとのようなものを言うのみで意味はあるように思えない。

息は絶え絶えと言った様子で、ヒューヒューゼェゼェ、とちょっと異音を感じるのが気にはなるが。

「(この方に持病は何かありますか?)」
「(持病、ですか……私は聞いたことはありませんが)」
「(そうですか。何か流行り病などではなさそうですが、とにかく見たことない症例なので……)」

何かしら、心当たりを思い出す。そのため、今日の出来事を思い出していく。

今日は見合いをして、彼は女性に囲まれていたがそのときは特に何か仕込まれるようなことはなかった。体調も悪かったようには思えない。

その後、食事会をして一緒に席について、それから食事の作法を教えて……と言ったところであることに気づく。

そういえば、彼はずっと手袋をし続けたままだと。

現時点でも手袋は外さずに、身につけたままだ。この時間、さすがに風呂に入って寝てもいいくらいの時間だというのに、頑なに手袋を嵌めているというのは違和感でしかなかった。

「手!!ちょっと、ヒューベルトさん、不本意でしょうがお手を拝見させていただきます」
「……っ!……ふぅ、あ……っぅう」

なけなしの力で抵抗されるが、さすがにいくら男性と言えど死にかけている人に劣るほどヤワではない。側にいる医師に「(身体を押さえておいてください!)」と頼むと、手袋を剥いで行った。

(やっぱり……)

そこにあったのは、掻き壊して血だらけになったボロボロの手。皮膚は剥がれ、発疹でぶくぶくと隆起し、見るも無残な状態になっていた。

この症状はまさしくアトピー性皮膚炎だった。

アトピーは人によって出る部位が違うが、きっと彼は手に出るタイプだったのだろう。なるべく掻かないように手袋をしてるのか、それとも見られたくないから手袋をしてるのか。

その辺りは私はよくわからないものの、アトピー性皮膚炎の患者はアレルギーも併発することが多いので、きっと彼は何かしらのアレルギーを持っているのだろう。

「(わかりました、アレルギーです)」
「(アレルギー?)」
「(特定の花粉や食物に反応して異常が起きる症状です。流行り病などではありません。申し訳ありませんが、白湯などをご用意いただいても?)」
「(え、あぁ、すぐに用意します)」

医師が出て行ったのを確認したあとに、ヒューベルトに向き直る。意識はまだ朦朧としているであろうに、必死で手を隠そうとしている姿に、知られたくなかったことを察する。

「すみません、私の配慮が足らず。とにかくまずは水分を取って安静にしましょう。大丈夫です、良くなりますから」
「……っ、……は……っ、」

ヒューベルトの背を摩りながら、アレルギーの対処方を思い出しつつ、白湯が届くのを待つのだった。
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