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3章【外交編・カジェ国】

19 意地の悪い王妃

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「あれ、ここって、というか、私……」

いつの間にやら知らない部屋にいる自分に気づいて、一気に覚醒する。そもそもいつ私は寝ていたのか、それすらも思い出せない。

(確か晩餐会のあと移動して、ダンスなどを見て、それから……)

持っている記憶を手繰り寄せる。最後の記憶が歓迎のダンスの途中まではあるが、いつ終わったのかなどの記憶が全くないことに気づく。

「起きたか」
「あれ、ケリー様が運んでくださったんですか?え?でも、私、何で……」
「きっと、疲れていたのだろう?」
「はぁ、まぁ、確かに疲れてはいましたが……」

(疲労については自覚があった。でも、かと言ってそんな場所も構わず寝入ってしまうほど疲労困憊ではなかったはずなのに)

おかしい、と思いつつも寝てしまった自分を恥じる。しかもここまでどれほど距離があったかわからないが、部屋まで運んでもらったことを思うと顔から火が出そうなくらいだった。

(あまり誰にも見られてないといいけど……!)

「あぁ、そういえば王妃が先程、バニラとナツメグとコリアンダーがどうとか言っていたが、何か関係があるのか?」
「バニラにナツメグ、コリアンダー……?」

言われて、まだ寝起きの鈍い頭で考える。確かそれはここのカジェ国の香辛料で、確か効能は……。

「あんの、馬鹿アーシャ……!!!」
「リ、リーシェ……?急にどうしたんだ……?」
「どうしたも、こうしたも……っ!あ、いや、何でもないです」

口走りかけて、押し黙る。

(ダメダメ。下手なこと言っても墓穴を掘るだけだわ)

バニラ、ナツメグ、コリアンダー。

これらは所謂、催淫効果があると言われている香辛料だ。バニラとナツメグは心を落ち着かせ、恋愛感情を呼び起こす媚薬効果を、コリアンダーは消化促進と利尿効果以外に強精剤としての効果がある。

恐らく私にはバニラやナツメグを、コリアンダーはクエリーシェルの食事に混ぜたのだろう。

(何てことをしてくれたんだ……!)

内心でアーシャに毒づく。本当、こういうところが意地が悪い。

「ケリー様は大丈夫でした?」
「あぁ、私は特に何も。先程王妃にも聞かれたのだが、何かあるのか?」
「いえ、何もないなら大丈夫です。お気になさらず」

きっとクエリーシェルに効果が現れなかったのは、効きづらい体質か単に量が少ないかのどちらかであろう。この場合、恐らく後者の可能性が高い。

薬もそうだが、適量摂取しなければ意味をなさないものは多い。今回も彼の大きな体躯の分、量もそれなりに増やさないと効果は現れないはずだ。そして、薬と違って食材自体の摂取であれば薬よりも作用しないのは当然である。

(そして私は、疲労とストレスと媚薬効果で寝てしまったと……)

ある意味、今回は下手に何かせずにただ寝ただけなのは良かった。だが、これはこれで困りものだ。他国でも同様のことが起きて、もし私だけ拉致なんかされたら目も当てられない。

(バレス皇帝の目的は領地と私)

私というか私の身体、そして私が子を成すことだろうが。生娘とは言え、知識はそれなりにはある。だから余計にゾッとする。

(ダメダメ、考えてもいいことはない)

「そういえば、風呂に入るだろう?この部屋についているらしい。今日は疲れただろうから早く入るといい。明日も早いらしいからな」
「ありがとうございます。なんだか慣れないことばかりで顔も身体も疲れているようです。お言葉に甘えて、そうさせていただきます」

実際に普段化粧をしないぶん、顔が野暮ったいというか重たく感じる。服も全体的に服を巻き付けられていたせいか、変な部分に汗をかいて、少し不快感を伴っていた。

(できれば、早く風呂に入ってちゃんと寝てしまいたい)

「で、私の部屋はどうしたらいいだろうか?そういえば、王妃から案内されたのはここだけだったのだが……」
「……、まさか」
「どうした?」

思わず再び頭を抱える。そうか、あの性根の悪いアーシャがこういうことをしないという方がおかしい。早々に気づくべきであった。

「恐らく、別の部屋はありません」
「は?」
「つまり、私とケリー様は同室です」
「…………はぁ!?」

途方に暮れているクエリーシェル。私は風呂や着替えなど、2人で生活するにはどうすれば良いかに頭を悩ませるのであった。
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