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3章【外交編・カジェ国】

13 おじさん

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「(アルル!お久しぶり)」
「(久しぶり、お姉ちゃん!……おじさん、どうしたの?大丈夫?)」

アルルの視線の先にはクエリーシェル。飛び退いたときに強く身体を押したせいか生垣に突っ込んだせいで、葉っぱまみれになっている。

(というか、アルルからしたらおじさんよね)

なんか勝手に切なくなる。本人には聞こえてないというか、聞こえていても理解できないのがまだ救いではあるが。

「(あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと転んじゃっただけだから。アルルは、どうしてここに?)」
「(私は晩餐会まで遊んでなさいって。部屋の中じゃつまらないから、ここに来たの)」

(なるほど、ということはアーシャの差し金ではないということか)

どうせまたアルルを使って密告させて、からかうつもりではないか?との考えがよぎったが、アルルの弁で、勝手に穿った考えをしていた自分を改める。

「(お姉ちゃん綺麗!ママがやったの?)」
「(そうよ、貴女のママに綺麗にしてもらったの)」

くるくると一回転して見せると、アルルの顔がぱああああ、と明るくなる。

「(お姫様みたい!)」
「(ふふふふ、アルルもお姫様でしょう?)」
「(そうだけど……!でも、お姉ちゃんはとても素敵!ママがこんなに綺麗にするなんて滅多にないから凄いことだよ!)」
「(そうなんだー……)」

顔が少し引き攣る。いや、アーシャが私のことを気に入っていることはわかっている。だから目を掛けられているのも理解しているし、わざと愛玩動物のように弄られているというのも理解はしているものの、心境としては複雑だ。

「(そういえば、アマリス皇女からお手紙預かっているわ。晩餐会前に渡すわね)」
「(本当ー?嬉しい!ありがとう!!)」

きゃっきゃとはしゃぐ姿はアーシャとは似ても似つかない。美しさはそっくりだが、アルルの無邪気さを見るとなんだか落ち着く。

「ステラ」
「あぁ、クエリーシェル。こちら覚えているとは思うけど、アルル様。晩餐会まで時間を潰すように言われてここに来たそうよ」
「あぁ、なるほど。そういうことか」

クエリーシェルは恭しくアルルに頭を下げ、「(こんにちは、アルル様)」と多少辿々しいカジェ国語で挨拶をする。

「(こんにちは、おじさま)」

アルルも丁寧に頭を下げる。教育が行き届いてるな、と感心しながら自分が8歳のときを思い出す。そういえば、あの時は随分と捻くれて万能感に浸っていた子供だったなぁと思い出し、頭が痛くなった。

(黒歴史は思い出すものじゃないわ)

再び記憶を奥の方に収納すると、アルルが不思議そうな顔で私を見ているのに気づいた。

「(どうしたの)」
「(そういえば、お母さんがお姉ちゃんが早く結婚すれば、お友達できるわよ、って言ってたけど、お姉ちゃんは結婚しないの?)」
「え、はぁ……!?」

思わず驚きすぎてカジェ国語ではなく、母国語が出てしまう。

「どうした?急に変な声を出して。アルル様に何か言われたのか?」
「いや、その……」
「(お姉ちゃん?)」

純粋な瞳がこちらをジッと見つめてくる。

(とんでもないキラーパス来たな……!)

想定の範囲外どころの話ではない話に、思わず狼狽する。

(変なことを子供に言わないでよ!)

内心アーシャを恨みながら、にっこりとアルルに微笑むと「(まだ、王子様が迎えに来てくれてないのよ)」と当たり障りのない答えをする。

「(そう……。そちらのおじさまはお姉ちゃんのイイヒトじゃないの?)」
「(ぐふっ、ん、んんー、そうだね。好きな人ではあるかな?)」
「(まぁ、やっぱり!さっき仲良くしてたものね!おじさまは王子様ではないのー?)」
「(んーー、王子様というより騎士、かしら。うん、そうね、騎士。私を守ってくれるの)」
「(まぁ、素敵!!)」

さすが女の子。この年でも恋バナは好きらしい。小さい頬を上気させて、目がキラキラと輝かせている。

(この母娘、やっぱり親子だわ)

無駄に精神ダメージを負いながら、早く晩餐会が来るのを待つのだった。
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