129 / 437
2章【告白編】
71 出発
しおりを挟む
「気をつけてね」
「ありがとうございます、マルグリッダ様」
ダリュードがいるということは、もちろんマルグリッダもいた。そして、今回はグリーデル大公までいる。
クエリーシェルが不在の間、ここの管理は大公殿下がやるのだから、当然と言えば当然なのだが、あまりクエリーシェルと会いたがらないと聞いていたから勝手に来ないものだと思っていた。
(まぁ、普通は大人なんだし、来るわよね)
そういう分別はつけているのだろう。好き嫌いだけでは、仕事は勤まらない。最近国王と一緒にいたせいか、彼のワガママぶりを目の当たりにして、そういう分別がある大人の存在を忘れていた。
もちろん国王もきちんとした場面では分別はもちろんつけているのだが、嫌なときは幼児のようにヤダヤダ喚き、執事達に連行されていく姿を見続けていると、ちょっとその辺の理解力が乏しくなっていたのは事実だ。
「この領地のことは、私と息子がきちんと守りますゆえ、ご心配なきように」
「え、えー……っと、はい、よろしくお願いします?」
「シュバルツ!言うならリーシェさんではなく、クエリーシェルに言ってあげて!」
私の内情を知っているのもあるだろうが、あからさまにクエリーシェルと話したくないと言うことが丸わかりだった。
私に恭しく頭を垂れている姿は、内情を知らぬ者からしたら異様な光景であろう。
「だが、身分上はそこの愚弟よりもリーシェ様の方が上だしな」
「様はいりませんから、大公殿下。ただの血筋の問題ですし、今は亡き国。そもそも途絶えるかもしれないものですから」
そう、私がこのまま伴侶を迎えず、子孫を残さなければペンテレアの血は途絶える。それがいいのか悪いのか、今の私に考える余裕などなかった。
「だったらやはりここは年も近い、ダリュードと」
「シュバルツ!まだ諦めてなかったの?!」
「もちろんだ。私としても君が我が大公家に入ってくれるのは大歓迎だからな。ダリュードも気に入っていることだし」
「父さん!!」
「……ありがとうございます、考えておきます」
家族喧嘩が始まりそうな勢いに、思わず苦笑して当たり障りのない言葉で避難する。
マルグリッダもそうだが、グリーデル大公も思いのほか押しが強いようだ。夫婦は似るというが、元来の気質で似た者同士だったのか、その辺りは定かではないが、なかなか困った御仁ではある。
ダリュードを見ると苦笑してるし、背後で固まっている大男はずっと無言を貫いたままだ。グリーデル大公のことを苦手視していたから仕方がないとはいえ、困ったものである。
「あら、いけない。そろそろ出発の時間ね。はい、これ。国王陛下から」
「?ありがとうございます」
手渡されたのはブレスレットだった。国王陛下からの贈り物を、このような形で手渡しでいいのかな、と思いつつ受け取る。
「ごめんなさいね、こんな手渡しで。直接渡せないからって、私が預かったのよ。あの子も前もって渡せばいいものを、困った方よね」
彼の性格上、照れ臭いというか、そう言った類いの感情のために人伝に渡してきたのだろう。なんとなく想像はつく。
もらったブレスレットは煌びやかな宝石などはなく、シンプルな細工だけが施されているようだが、よく見ると色々加工してあるようで、あとで改めてじっくりと見てみようと思った。
右手にはクエリーシェルのブレスレット。左手には国王からのブレスレット。
あまり装飾を身につけない私だが、そこまでかさばるものでもなく、またシンプルなため、どちらも見た目でも実用面でも、邪魔にならずに済んでいる。
「国王陛下には、リーシェが感謝を述べていたと伝えてください」
「えぇ、わかった、伝えるわ。リシェル、命に代えてでもリーシェさんをお守りするのよ」
「わかっているよ、彼女は必ず生きて帰す」
「できれば貴方も、生きて元気に帰って来てちょうだい」
さすが大公の奥方ということだろうか、気丈に振る舞っている姿はとても美しく見える。内心どう思っているかは知らないが、少なくとも唯一無二の大事な肉親だ、つらくないわけがない。
それを悟ってか、グリーデル大公がマルグリッダの肩を抱く。寄り添い合う夫婦、その姿は羨望に値するものだった。
(あぁ、こんな夫婦関係が羨ましい)
私もそういうお互いに支え合う夫婦になりたい、とちらっとクエリーシェルを見ると、彼は私の視線に気づいたようで、コソッと手を握られる。
別にそういうつもりではなかったのだが、あえて振りほどかず指を絡めた。
「いってきます。必ず帰ってきますので!」
そう言って船に乗り込むと、離岸するまで彼らに手を振り続ける。
(いよいよ、航海へ出発だ)
ドンドンドンドン……!!
空砲の音が響く。船内では多少の悲鳴が上がったが、私はその音でさらにやる気が鼓舞された。
(私は、私ができることをする)
久々の航海に胸を躍らせつつ、新たなる未来への一歩を私は踏み出したのだった。
「ありがとうございます、マルグリッダ様」
ダリュードがいるということは、もちろんマルグリッダもいた。そして、今回はグリーデル大公までいる。
クエリーシェルが不在の間、ここの管理は大公殿下がやるのだから、当然と言えば当然なのだが、あまりクエリーシェルと会いたがらないと聞いていたから勝手に来ないものだと思っていた。
(まぁ、普通は大人なんだし、来るわよね)
そういう分別はつけているのだろう。好き嫌いだけでは、仕事は勤まらない。最近国王と一緒にいたせいか、彼のワガママぶりを目の当たりにして、そういう分別がある大人の存在を忘れていた。
もちろん国王もきちんとした場面では分別はもちろんつけているのだが、嫌なときは幼児のようにヤダヤダ喚き、執事達に連行されていく姿を見続けていると、ちょっとその辺の理解力が乏しくなっていたのは事実だ。
「この領地のことは、私と息子がきちんと守りますゆえ、ご心配なきように」
「え、えー……っと、はい、よろしくお願いします?」
「シュバルツ!言うならリーシェさんではなく、クエリーシェルに言ってあげて!」
私の内情を知っているのもあるだろうが、あからさまにクエリーシェルと話したくないと言うことが丸わかりだった。
私に恭しく頭を垂れている姿は、内情を知らぬ者からしたら異様な光景であろう。
「だが、身分上はそこの愚弟よりもリーシェ様の方が上だしな」
「様はいりませんから、大公殿下。ただの血筋の問題ですし、今は亡き国。そもそも途絶えるかもしれないものですから」
そう、私がこのまま伴侶を迎えず、子孫を残さなければペンテレアの血は途絶える。それがいいのか悪いのか、今の私に考える余裕などなかった。
「だったらやはりここは年も近い、ダリュードと」
「シュバルツ!まだ諦めてなかったの?!」
「もちろんだ。私としても君が我が大公家に入ってくれるのは大歓迎だからな。ダリュードも気に入っていることだし」
「父さん!!」
「……ありがとうございます、考えておきます」
家族喧嘩が始まりそうな勢いに、思わず苦笑して当たり障りのない言葉で避難する。
マルグリッダもそうだが、グリーデル大公も思いのほか押しが強いようだ。夫婦は似るというが、元来の気質で似た者同士だったのか、その辺りは定かではないが、なかなか困った御仁ではある。
ダリュードを見ると苦笑してるし、背後で固まっている大男はずっと無言を貫いたままだ。グリーデル大公のことを苦手視していたから仕方がないとはいえ、困ったものである。
「あら、いけない。そろそろ出発の時間ね。はい、これ。国王陛下から」
「?ありがとうございます」
手渡されたのはブレスレットだった。国王陛下からの贈り物を、このような形で手渡しでいいのかな、と思いつつ受け取る。
「ごめんなさいね、こんな手渡しで。直接渡せないからって、私が預かったのよ。あの子も前もって渡せばいいものを、困った方よね」
彼の性格上、照れ臭いというか、そう言った類いの感情のために人伝に渡してきたのだろう。なんとなく想像はつく。
もらったブレスレットは煌びやかな宝石などはなく、シンプルな細工だけが施されているようだが、よく見ると色々加工してあるようで、あとで改めてじっくりと見てみようと思った。
右手にはクエリーシェルのブレスレット。左手には国王からのブレスレット。
あまり装飾を身につけない私だが、そこまでかさばるものでもなく、またシンプルなため、どちらも見た目でも実用面でも、邪魔にならずに済んでいる。
「国王陛下には、リーシェが感謝を述べていたと伝えてください」
「えぇ、わかった、伝えるわ。リシェル、命に代えてでもリーシェさんをお守りするのよ」
「わかっているよ、彼女は必ず生きて帰す」
「できれば貴方も、生きて元気に帰って来てちょうだい」
さすが大公の奥方ということだろうか、気丈に振る舞っている姿はとても美しく見える。内心どう思っているかは知らないが、少なくとも唯一無二の大事な肉親だ、つらくないわけがない。
それを悟ってか、グリーデル大公がマルグリッダの肩を抱く。寄り添い合う夫婦、その姿は羨望に値するものだった。
(あぁ、こんな夫婦関係が羨ましい)
私もそういうお互いに支え合う夫婦になりたい、とちらっとクエリーシェルを見ると、彼は私の視線に気づいたようで、コソッと手を握られる。
別にそういうつもりではなかったのだが、あえて振りほどかず指を絡めた。
「いってきます。必ず帰ってきますので!」
そう言って船に乗り込むと、離岸するまで彼らに手を振り続ける。
(いよいよ、航海へ出発だ)
ドンドンドンドン……!!
空砲の音が響く。船内では多少の悲鳴が上がったが、私はその音でさらにやる気が鼓舞された。
(私は、私ができることをする)
久々の航海に胸を躍らせつつ、新たなる未来への一歩を私は踏み出したのだった。
0
お気に入りに追加
1,921
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる