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2章【告白編】

61 自然を利用する

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「自然を利用した策とは?」
「そのままの意味です。この地の動植物を利用するのです」

私は椅子から立ち上がると、地図を指差しながら説明する。

「水路から来るとなると、どうしてもこの滝と激流が邪魔になりますので、そこから来ようとしても大荷物や大人数では転覆する可能性が高く、失敗するかもしれません。さすがにマルダスはそのような悪手は取らないでしょう」
「うむ、そうだな。一か八かでやるような相手ではなさそうだしな。今までの経験上、下地を作ってしっかりと準備を整えてから実行しているように思う」

先日の一件から推測するに、マルダスは石橋は叩いて渡るタイプなのだろう。統率も取れているし、帝国とは違った意味で厄介な相手ではありそうだった。

「恐らく、マルダスからの侵入経路となるのはここの山の辺りかと。橋を渡せば通ることは難しくはありません。その代わりに大きな重量級の武器の搬入はできませんので、通れて人間だけです」
「なるほど。確かにその手はあるな」

指の先には山々が描かれているが、場所によっては橋を渡せるところなどいくつかあるだろう。このあと実際に見てみて、候補地を確認していくつか絞っておかなくては。

恐らく、こちらから持ってこれる武具となると、軽装武具だけになると予想される。となると、槍か剣か弓辺りだろうか。

さすがに食糧を狙っているのであれば、この辺一帯を焼くようなことはしないだろうとは思うが。

「であれば、侵入経路となりそうなところに動植物を増やします」
「んん?どういうことだ」
「人間に危害を加える蜂や熊などを集中的に配置するのです」
「配置?」
「マルダスの軍が来るのは、恐らく春先から秋にかけてと想定されます。冬は補給もできませんし、耐久するとなるとどう考えても冬は消耗戦になってしまうので、アウェーのマルダスが不利と考えられます。となると、季節は春先から秋にかけて、その間はちょうど動植物も活発に動き始めます。ですから、侵入経路沿いになるべく蜂の巣を配置して、さらにそれを狙う熊などを増やせば味方として機能してくれます」
「なるほど、自然を味方につける、か」
「はい。意外に有効な手段なんですよ、これ」

熊は春先には冬眠から目覚め、食糧を欲する。春から夏にかけては繁殖期に入り、夏から秋にかけては冬眠の準備をする。

そのため、冬以外には基本的には出会う可能性が高く、時期にもよるが、合うと大抵厄介な存在だ。基本軍での進行は人数が多いが、今回この経路だとそこまで大人数で行くのは困難であろう。

熊も身の危険を感じれば攻撃を仕掛けてくるし、ある程度人数がいたところで興奮した熊と対峙するのは厳しいはずだ。

子熊などいれば尚更危うい。近くに母熊がいることは必然で、子を守るため、母熊は身を呈してでも子を守るために奮闘することだろう。そうなったときは人間など無力に等しい。

「ちなみに蜂でもミツバチは1度刺したらその個体は死んでしまいますが、スズメバチに関しては攻撃的で、何度も刺しても死にません。夏から秋にかけて巣が非常に大きくなって最も攻撃性が高いです」
「ほう、そうなのか。というか、リーシェはそんなことも知っているのか」
「一時期、山で暮らしてましたからね。それぞれの動植物の生態については国王との謁見のときにでも詳しくお話しますよ。ということで、まずは橋を渡せそうな場所の確認して、ついでに巣作りできそうな場所を探しましょうか」

やることが決まったなら行動あるのみだ。火を消し、小屋の中を片付けたあと、荷物をまとめておく。

「歩いたほうが早いですか?」
「いや、馬で行こう。実際に熊が出る可能性があるからな」
「わかりました。では、荷物はこのままこちらに置いたままにしておきましょうか」
「そうだな。どうせここには戻ってくる」

荷物を小屋の中に戻し、最後にぐるっと確認したあと、施錠をする。そして馬を撫でたあと、ゆっくりと跨るとクエリーシェルに並走するように彼の速度に合わせた。
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