上 下
101 / 437
2章【告白編】

43 模索

しおりを挟む
「ここにもない」

空いてる時間、ほぼ図書館に通い詰めてそれらしい本を探しているが、なかなか見つからない。

自国から連れてきた信用のおけるメイドにもお願いして、そういう『転生』についての噂があるかさりげなく聞いてもらってはいるが、そう言った話は聞いたことがないそうだ。

(やはり手掛かりとなるものはないか)

正直、お手上げと言ってもいい状態だった。時間がないというのに、手掛かりがなければどうすることもできない。

しかもここのところ、このことを考えすぎて何事も上の空なせいか、バラムスカに心配されてしまっている始末だ。

だが、下手にバラムスカに言ってもいいのだろうか、という心配もある。味方だと思っているが、やはり彼はこの帝国の人間であり、いくら妻からの訴えとは言え、血の繋がっている父親側につく可能性は大いにあり得る。

考えれば考えるほど、ドツボにハマっていく。

ステラと違ってこういうことに関してあまり得意でない私は、ただただ1人で悩む。だが、いくら悩んだところで、正解を出すのは至難の業だった。

「はぁ、どうしたものかしら」
「また考えごとかい?」
「バラムスカ様!」

急にニュッと視界に現れて、思わず小さく飛び上がる。ずっと考えていたせいか、気配に少しも気づかなかったので、集中していたぶん驚きは大きく、心臓がバクバクと今までにないほど速く動いていた。

「最近、いつも考えごとをしているようだが、どうしたんだい?マーシャルらしくないよ」
「いえ、ちょっと色々ありまして。お気遣いいただき、ありがとうございます」

目も合わせずに、それとなく躱して図書館に行こうとした時、手首を掴まれる。珍しい行動に、思わずバラムスカの顔を見れば、なんとも複雑そうな表情でこちらを見ていた。

「バラムスカ様?」
「私はそんなに信用なりませんか?」

ーーあぁ、私はなんて不甲斐ないのだろう、妻にこんな表情をさせてしまうなんて。

あからさまにしょんぼりとする彼に、動揺する。そうだ、この人は人一倍優しい人なのだ、と思い出す。

(もし、このまま手遅れだったとするより、打ち明けて何か変わる方がずっといい。例え、彼が敵に回ったとしても、それはそれ、どっちみち私には変えられなかった運命として受け入れよう)

覚悟が決まると、先程までの悩みが嘘のようにスッと心が静寂になる。

「マーシャル?」

ーーどうしたのだろうか?あぁ、私が強引に腕を引いたせいか?それで嫌われてしまったらどうしよう。幻滅されたか?それとも、私がこのようにしょっちゅう構うから呆れられて……

なんだか彼の思考が斜め上で、どんどん違った方向に行くのが面白くて、思わずクスクスと笑みを漏らす。

「ま、マーシャル?大丈夫かい?」

ーーまさか、悩みすぎて気が触れてしまったのだろうか?!

「ふふ、大丈夫ですよ。ごめんなさい、私はバラムスカ、貴方に隠しごとをしていました。これから正直に打ち明けますが、それでも貴方は私を愛してくれるでしょうか?」

バラムスカに手を差し出す。覚悟を決めたとは言え、この手を拒絶されたらと思うと少し怖かった。でも、この国へ嫁ぐと決めたのだから、私はバラムスカと運命を共にする覚悟は最初からできていた。

「もちろんだとも。良かった、やっと話してくれるようになったのだね」

すんなりと手を取り、握られる。それだけで、私はもうこの身がどうなろうとも、彼のために生きようと決めた。

「ご心配いただきありがとうございます。ここだと廊下に近いですから、寝室でお話よろしいでしょうか?」
「もちろん、構わないよ。秘密の話、ということだね。では、声はなるべく小さくするように心掛けよう」
「そうしていただけると助かります。ふふふ、本当に真面目な人ですね」
「マーシャルと一緒のときは常に真面目に振舞っているよ」
「では、私がいないときは?」
「……たまに息抜きすることもあるさ」
「では、これからは私の前でも真面目でない姿を見せてください」
「善処しよう」

今までのようなやりとりに、婚前を思い出すと、心が段々と軽くなってくる。そして私はお互い向かい合って寝室のベッドに座ると、ぽつりぽつりと読心術のこと、転生計画のことを話し始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~

深園 彩月
ファンタジー
最強の賢者として名を馳せていた男がいた。 魔法、魔道具などの研究を第一に生活していたその男はある日間抜けにも死んでしまう。 死んだ者は皆等しく転生する権利が与えられる。 その方法は転生ガチャ。 生まれてくる種族も転生先の世界も全てが運任せ。その転生ガチャを回した最強賢者。 転生先は見知らぬ世界。しかも種族がまさかの…… だがしかし、研究馬鹿な最強賢者は見知らぬ世界だろうと人間じゃなかろうとお構い無しに、常識をぶち壊す。 差別の荒波に揉まれたり陰謀に巻き込まれたりしてなかなか研究が進まないけれど、ブラコン拗らせながらも愉快な仲間に囲まれて成長していくお話。 ※拙い作品ですが、誹謗中傷はご勘弁を…… 只今加筆修正中。 他サイトでも投稿してます。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

悪役令嬢は安眠したい。

カギカッコ「」
恋愛
番外編が一個短編集に入ってます。時系列的に66話辺りの話になってます。 読んで下さる皆様ありがとうごぜえまーす!! V(>▽<)V 恋人に振られた夜、何の因果か異世界の悪役令嬢アイリスに転生してしまった美琴。 目覚めて早々裸のイケメンから媚薬を盛ったと凄まれ、自分が妹ニコルの婚約者ウィリアムを寝取った後だと知る。 これはまさに悪役令嬢の鑑いやいや横取りの手口!でも自分的には全く身に覚えはない! 記憶にございませんとなかったことにしようとしたものの、初めは怒っていたウィリアムは彼なりの事情があるようで、婚約者をアイリスに変更すると言ってきた。 更には美琴のこの世界でのNPCなる奴も登場し、そいつによればどうやら自分には死亡フラグが用意されているという。 右も左もわからない転生ライフはのっけから瀬戸際に。 果たして美琴は生き残れるのか!?……なちょっとある意味サバイバル~な悪役令嬢ラブコメをどうぞ。 第1部は62話「ああ、寝ても覚めても~」までです。 第2部は130話「新たな因縁の始まり」までとなります。 他サイト様にも掲載してます。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...