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2章【告白編】

36 独占欲

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「まぁ、普通にいるよな。婚約者」

リーシェが行ってしまったあと、1人ごちる。覚悟というかなんというか、そうだろうな、とは薄々思ってはいたが、いざ実際に本人の口から聞くと、結構な衝撃があることに我ながら驚く。

本当は誰と婚約したのか、どんな人物だったのかなど色々聞きたかったが、それを聞いて自分にどれほど衝撃があるか、平静を保てるかわからなくて、あえて言葉を飲み込んだ。

以前クイードに、「動くなら早く動かないと知らんぞ」と釘を刺されていたが、確かに今更ながら危機感が募る。

先日成年もしたことだし、こうなることはわかりきっていたというのに、ただ日を無駄にしていたのは自分だ。

(我ながら情けない)

遅い初恋を迎え、身近にその恋い慕う相手がいるというのに、このなんとも言えないもどかしさ。こんなに年が倍の大男に求婚されたところで、とも思うが、かと言って誰かに取られたくないとも思うのも事実だ。

リーシェには苦労したぶん幸せになってもらいたい。だが、できればその幸せは自分がしてあげたい。

(いや、そうは言っても、私なんかよりももっといい人がいるんじゃないか)

でも、それでも、私はリーシェと共に生きたい。

頭の中が葛藤でぐちゃぐちゃになる。

こんな感情に陥ったのは初めてかもしれない。恋を知らぬ頃は、我が姉に恋をしていたクイードを茶化すことはあったが、そのときにはこんな気持ちになるなど微塵も思いつかなかった。

彼も結局諦めて現王妃であるメリンダと結婚したが、それはそれで幸せそうである。

(なら私は?……リーシェを諦めて、他の女と結婚するか?それとも独り身を貫くか?)

彼女が自分の近くからいなくなってしまうことを考えて、ゾッとする。いることが当たり前になってしまっていて気づかなかったが、リーシェがいなくなったとき、私は一体どうしてしまうのだろうか。

そこで初めて、リーシェのことを自分がどれほど恋しく思っているかに気づいた。彼女が自分にとってかけがえのない存在であるか、を今更ながら気づいたのだ。

このモヤモヤしたのは独占欲だ。私はリーシェが好きで愛しくてどうしようもない。できればいっそ、私だけの存在であって欲しいと思うほどに。

自分にもこんなに強い執着心があったということに驚く。だが、リーシェに会ってから、自分の知らない部分に気づかされることは多々あった。

(リーシェは、私のことをどう思ってくれているのだろうか)

同じように想ってくれていたらいい、なんて思うが、そうでなくても構わないとも思う。なぜなら、そう思ってもらえるように努めればいいのだから。

(少女が王子様を待つでもなし、行動を起こさねば。……リーシェがしたように)

いつまでも待っているだけではダメだ、と自分を叱咤する。恋という感情を知らなかったからと言って、初心なままではどうしようもない。せめて、この中途半端な状態から脱しなければ。

(まずはどうするべきか)

とりあえず牽制は必要だろう。だからと言って、あからさまにアプローチするのはどうか、いや、かと言って二の足を踏まずにガンガン攻めていったほうがいいのではないか?

頭の中であーでもないこーでもない、と議論を始める。実際のところ、ある程度恋の自覚はあったのに、さして行動しなかったせいでこのような危機的状況になっていることを鑑みるに、あまり悠長にするのは得策ではないと考える。

(しのごの言わずに攻めてみるか)

できれば、船旅前にはある程度牽制しておきたい。船旅までもつれ込むと船という閉鎖空間で何が起きるともわからない。

そうと決まればある程度作戦会議をせねならないな、とバースに頼んで王城にアポイントを取る。こういう場合の相談相手がクイードしかいないというのはどうなのだろうか、とも思うが、そんなこと今更言っても仕方ない。

「少々王城に行ってくる」
「あれ?またご用事ですか?」
「あぁ、ちょっと忘れ物をしてな。夕飯までには帰ってくる。支度は頼んだぞ」

リーシェが訝しげな顔をしているが、「いってらっしゃいませ、お気をつけて」と見送られると、さて、クイードには何から話そうか、と馬車の中で再び脳内会議をするのだった。
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