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2章【告白編】

23 ファーミット家

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「えーーーーー!お国にお帰りになられるのですか!?」
「えぇ、そうなんです。と言っても、そこまで長居せずにすぐ戻ってくるのですが」
「そうなんですね。でも、寂しくなりますわ」

ペルルーシュカが不満そうに口を尖らせる。それに対し、苦笑しながらいただいた紅茶を飲む。

今日はペルルーシュカに呼ばれて、彼女の邸宅でお茶会だ。色々と船旅の準備で忙しくはあるのだが、変に思われて噂されては本末転倒なのと、元々こちらの領地は気になっていたので視察も兼ねてやってきていた。

「そういえば、メイドというのも嘘だったのですね」
「嘘というか、方便というか。一応留学でこちらに来ているのですが、居候の身なのでメイドのように振舞っているんです」
「そうなんですね。ご実家はどちらのお国なんですの?」
「ヴァーミリオンです。コルジールからもう少し西北の北国なのですが、ご存知ですか?」
「ごめんなさい、私ちょっと存じあげなくて」
「いえいえ。辺境の地ですし、寒くてほぼ何もない国なので、お気になさらないでください」

心の中でヴァーミリオン国を勝手に悪しき様に言ってしまったことを詫びながら、ヴァーミリオンの国出身のように振る舞う。

持っている知識は少々古いが、ここからヴァーミリオンは遠方なので恐らくバレる可能性は極めて低いだろうと、ペラペラと知っている情報を話す。

「クマが出るんですか」
「えぇ、食糧を求めて市街地へと降りてくることもありますよ」
「まぁ、恐い」
「ですが、肉や毛皮、油なども取れるので悪いことばかりではないんですよ」

会話しながら、ちらちらと周りを見る。新たに建造された建物ではなく、どこからか買い取ったというこの建物は、以前のクォーツ家からそう遠くない場所だった。

現在も、クォーツ家の邸宅は立ち入り禁止である。そのため、前侯爵家の邸宅に住むことは難しいとはいえ、ここまで近くに住む必要はあるのか、と変な勘繰りはしてしまう。

(まぁ、この立地が良いと言われてしまえばそれまでなのだが)

元々彼女達ファーミット家は別の港町の領主であり、ロゼット曰く「子供同士は仲良くなかったが母親が幼馴染でそれなりの交流があった」とのこと。

以前、国王の話でクォーツ家との繋がりがある家の名前にファーミット家が出なかったが、それはそれでなんとなく不自然である。

微かな繋がりも漏れることはないとは思うが、ということはファーミット家は問題なしという判断をされたのだろうか。

確かに、見る限りでは不審なものは見当たらないし、庭園もごく普通のものである。よくよく見ないと詳細はわからないが。

とはいえ、そもそも人の良さそうなファーミット家が何か起こすとも考えにくい。でも、そう言った人物こそ裏切っている可能性も否めない……。思い込みや先入観はあまりよくないことなのは経験上承知済みだ。

(あーー、無駄に考え込み過ぎて頭が痛い)

つい全てを疑いの眼差しで勘繰ってしまう癖に気づいて、再びお茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。最近頭の使い過ぎだからか、頭痛が酷い。帰ったら頭痛用の薬草でも煎じて飲まないと。

「そういえば、ヴァンデッダ卿もご一緒に里帰りされるのですか?」
「えぇ、そうしてくれるようです」
「まぁ、ということはご婚約なさったんですか?」

ぶふー!!!と勢いよく含んでた紅茶を噴き出してしまった。慌てて持ち合わせのハンカチを取り出すが、どうにも拭ききれず、結局メイドさん方に片付けさせることになってしまった。

(汚いし、何より恥ずかしい)

「申し訳ありません、お手を煩わせてしまって」
「いいんですのよ。お気になさらないで」
「あの、勘違いされては困りますが、私はクエリーシェル様とそういう関係では」
「まぁ、そうですの?てっきり私、ご婚約されてご挨拶に里帰りされるのかと」
「いえいえ、ただ両親から久々に顔を見せに帰って来なさいと言われただけですよ」

現実ではありえないことをペラペラ喋りながら、自分自身の発言にも関わらず、勝手に傷つく。

もう帰る家も、帰ってこいという家族もいないという事実に、少しだけ感傷に浸りつつ、わざと面倒そうな表情を作って自身の顔に貼り付けた。

「そうなんですの。では、私がヴァンデッダ卿とご婚約しても良いのですね」
「は?」

また今度は急に話が別方向に吹っ飛んで、思考が追いつかない。

(何でいきなりそういう話になる?)

「え、と……クエリーシェル様のことがお好きなんですか?」
「いいえ!でも、私、思いましたの。ヴァンデッダ卿とご一緒になったらリーシェ様とも一緒になれるって」
「えーっと、それはそれで話は混迷するというかなんというか。いや、ビジネスライクに行くというなら別ですが、そういう理由でご婚約というのは」
「えーーー、ダメですの?」
「ダメというかなんというか」
「リーシェ様はヴァンデッダ卿がお好きなんですか?」
「それは、一緒にいる上で嫌なタイプではないですけど」

(って、私は何を言っているんだ)

今まで会ったことないタイプのペルルーシュカに振り回されながら、リーシェはとりあえずとっ散らかった会話を収束させるように努めるのだった。
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