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2章【告白編】

19 肖像画

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「先日は誕生日だったようで、おめでとう」
「ありがとうございます、国王陛下」

まるで普段の挨拶かのように軽く済ませる2人。なんだか、この2人は合っているようで合っていない。はたから見ても、ビジネスパートナー以上でも以下でもないことがよくわかる。

「で、調査結果は」
「随分と単刀直入だな。せめて茶くらい飲ませろ」

クイードがベルを鳴らすと、メイドがティーセットの用意を始める。リーシェは自然に席につくと、用意されたお茶を飲む。なんなんだこの意気投合感は。とはいえ、そこに甘い空気など何もないのだが。

メイドが退室し、執事に人払いを済ませると、クイードも席につく。

「ほら、そこの大男。お前も座れ」
「いつもそうだが、もう少し呼び方はないのか」
「名前が長いのが悪い。あとはそうだな、そのような見た目になった自己責任というやつか?」

(全く、好き勝手に言いたい放題だな)

幼馴染の気安さからか、クイードは私に対しての扱いはぞんざいである。まぁ、別に嫌ではないが、はたから見たらどう思われるのか、そもそも賢王として名高いこいつの本性がこうだと知られてはまずいのではなかろうか。

そういう失敗をする男ではないこともわかってはいるが、なんとなく心配になってしまうのは自分が心配性だからだろうとある程度は自覚がある。

「そういえば、以前の細身のときのお姿ってどんな感じだったのですか?」
「ん、興味あるのか?確か、以前描いてもらった肖像画がどこかに……」
「おい、クイード。話し合いをするのではなかったのか?」
「お前達、随分と短気だな。心の余裕は大事だぞ」

リーシェが意外にも自分の幼少期を気にすることに、ちょっとどきりとした。なんとなく見られるのが恥ずかしくて、クイードを牽制したものの、やつがそんなことくらいで諦めることなどないこともわかっている。

これはある意味嫌がらせだろう。それとも、恋のキューピッドにでもなっているつもりなのだろうか。

「ほら、これだこれ」
「いつのだ、これ」
「寄宿舎入ってすぐじゃないか?」

ということは、6、7才といったところか。昔は実母によく似ている、と言われたが、確かに今見てみると父の顔の面影はなく、服さえ違っていれば女性と間違えられてもおかしくないような顔をしている。

そして、やはり甥のダリュードにも似ていると改めて実感し、なんとなく複雑な心境である。まぁ、この絵を見る限り、彼よりももっと柔和な顔をしているが。

「リーシェ?」

食い入るようにジッと見つめる彼女。そこまで見るものでもなかろうに、と「もういいだろ」と止めようとすると、「この絵、いただけませんか?」とリーシェがクイードにおねだりして、思わずポカンとしてしまった。

「いいぞ。じゃあこれが私からの誕生日プレゼントということにしようか」
「ありがとうございます」
「いや、待て待て。なぜそうなる。リーシェも、こんなものもらってどうするのだ?」
「え、部屋に飾ります」
「なぜ?!」
「え、置きたいからですけど……」

視界の端で、隣の男がニヤニヤしているのがわかる。

(なんなんだっていうんだ)

リーシェの真意がわからぬまま、彼女はもらった自画像をくるくると丸め、嬉しそうに口元を緩めながら大事そうに抱えると、荷物と一緒に端に寄せていた。

「額縁ってまだありましたっけ?」
「いや、あの大きさはないんじゃないか?」
「では今度買いに行かないとですね。馬車を出していいですか?」
「あぁ、先日の分も買わなくてはいけないしな。では、今度一緒に買いに行こうか」
「はい」

先程クイードと話しているときとは打って変わって、ニコニコと嬉しそうに話す彼女に胸が高鳴る。自分のものをもらって嬉しそうにする彼女が愛しくて、沸々と彼女への想いが募る。

(な、なんだってこんなに可愛いんだ……!)

叫びたい衝動に駆られながら、視線にちょこちょこ映り込んでくる男がだんだん小馬鹿にするような表情になってきたことを悟り、「ん、んん」と咳払いすると「本題に入るぞ」と私は席に着くのだった。
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