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2章【告白編】

17 プレゼント

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「涙は止まったか?」
「えぇ、はい」

タオルを外すと視界いっぱいにクエリーシェルの顔があって、思わず赤面する。

「近いです」
「あ、あぁ、そうだな、悪い」

お互いにまごつき、なんだか自分だけがこんなにメソメソしているのがおかしくなってきた。

ぐぎゅるるるるるるぅぅ……!!

気を抜いたからだろうか、空腹を知らせる腹の虫。静寂の中に響くそれは、最早弁明もできぬほどの音量だった。

(そういえば、朝から何も食べてなかった)

「食事を用意しよう」
「でも、時間が……」
「空腹じゃ寝られんだろう?」

ごもっともです、と思いながら、クエリーシェルは再び私を置いて部屋を出る。

(メイドがこんなんでよいのか)

いや、もう正確にはメイドではないのだが、気質的には人を使うよりも使われるほうが慣れているので、できれば動きたいところではある。だが、この顔でこの空腹のヘロヘロでは、使い物にはならないのも事実である。

「食べられそうなものをできるだけ掻き集めてきたが、食べられそうか?」
「えぇ、ありがとうございます。十分です。……いただきます」

彼の自室のテーブルに並べられた、既に冷えてしまっている料理達。だが、どれもこれも美味しそうだ。

まずはサラダ、次に魚、そして肉。どれもこれも趣向が凝らしてあって、馴染みない味ながらも絶品の品々に舌鼓を打つ。

「はぁ、胃が満たされていく」
「はは、それは良かった」
「独り言なので聞かないでください」
「理不尽だな」

冷えているとはいえ、さすがクエリーシェルが手配しただけはある。侯爵家として恥じないレベルの料理の数々で、どれもこれも美味しく、あっという間に完食してしまった。

「ご馳走様でした」
「随分と食べたな」
「今日は結構動いたので。あと私、結構食べる方です」
「そのなりでか?」
「それ、セクハラですよ」

(私だって気にしているんだから)

食べても食べても太らない体質。つまり、食べた栄養が出ていってしまっているということだ。そして結果、胸も尻も貧相であるということに繋がる。

「わ、悪かった。そういう意図はなかったんだが」
「でしょうね。ケリー様はそういう方だってわかっています」
「どういう意味だ」
「そういう意味です」

ははは、とお互いに笑い合う。こういうやり取りができるのは、後にも先にも彼くらいしかいないのではなかろうか。こう言った軽口を言い合える仲が心地よい。

「そういえば、食事に夢中で忘れてましたが、私に用事があったんですか?」
「あぁ、そうだ。……リーシェ」
「はい」

なんだろうか、改まって。クエリーシェルの表情が凛々しくなり、急に跪くように、私の前に身を屈めるクエリーシェル。まるでそれはプロポーズするときの仕草のようで、身体も思考も固まる。

「大したものは用意できなかったのだが」

彼の手にある小さすぎるそれは、ブレスレットだった。細工がとても綺麗にあしらわれていて、銀でできているのか、光を反射して光輝いている。

「いいんですか?」
「誕生日プレゼントだ。厄除けや魔除けの効果があるらしい」
「へぇ、知りませんでした」
「今後、リーシェの身を守ってくれることだろう」

右手を優しく取られる。そして、手首を軽く握られると、そこにそっと通され、嵌めてもらった。

なんだかちょっとその様子が、結婚式のときの指輪を嵌める儀式と錯覚しそうになり、思わずどこか違うところに視線をやって、気を紛らわす。

彼の手が離れ、自分の手首に嵌ったブレスレットをじっくりと眺める。重すぎず、派手過ぎず、自分の手に馴染むブレスレット。少々手入れは大変であろうが、シンプルな作りなので普段使いもできそうである。

「ありがとうございます。大事に致します」
「あぁ、そうしてくれ。あぁ、あと今更だが、誕生日おめでとうリーシェ」

そう言って、クエリーシェルは優しく笑うのだった。
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