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2章【告白編】

9 まごつく大男

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「お待たせー!」
「遅い!一体、着替えにどれほど時間をかけているんですか」
「そりゃだって、女性の支度には時間がかかるものでしょう?」
「それにしたってですよ。かけすぎです」
「まぁまぁ、でも、今回は17のお誕生日でしょう?過ぎてしまったとはいえ、せっかくの成人のお祝いですもの。気合い入れないとでしょう?」
「それはそうですけど。それで、リーシェはどこに?」
「もうすぐ来るわよ。もう、本当せっかちな性格ね」

ヴァンデッダ姉弟の会話が聞こえる。彼はもうお待ちかね、と言った様子だが、私としては出たいような出たくないような、複雑な気持ちである。

(どんな反応をされるだろうか)

裾を持ちながら、色々な想定をする。褒められる、そっけない、興味ない、似合わない、などどのような負の言葉がきてもいいように、ある程度受け身が取れるようにしておく。

(でも、やっぱり褒めてくれたら1番いいけど)

「ほら、リーシェ!主催がお待ちかねですって」
「はい、では、参ります……!」

もう、ええいままよ!と意を決してクエリーシェルの前に出る。

反応が恐くて俯き加減で行くが、クエリーシェルからの反応がないことに気づき、顔を上げるとなぜか彼は両手で顔を覆っていた。

「……えっと……何を、なさっているんですか?」
「いや、特に、深い意味はない」

そう言いつつ、未だ顔を覆ったままの手。さすがにこういう反応だと、自分が恥ずかしがっているのがなんとなく馬鹿らしくなってくるというか、どうでもよくなってくる。

(乙女か。32の大男の反応じゃないでしょ、それ)

「ケリー様。どうですか、変ですか?」

言いながら、ちょっとからかってやろうと、彼の前でくるくると回ってみせる。ちらっとこっちを気にしている様子は見えるが、それでも手が離れない。

「いや、滅相もない。似合っているぞ」
「言ってることとやってることが支離滅裂なんですけど」

「ちゃんと見てください」と、無理矢理手を顔から離そうと引っぱるが抵抗される。さすが国軍総司令官なだけはある、というか普通にびくともしない。

普段は自らの衣装に関することをここまで突っ込んで聞くことなどないが、さすがにこの反応はないだろう。せっかく、あんな長時間の着せ替えを耐えて、着替えたというのに。

(そっちがその気なら、私も考えがあるわ。押してもダメなら引いてみないとね)

「ケリー様。そんなに私の姿が見たくないのですか?」
「いや!そうじゃない!!」
「なら、手を外してください」

そう凄むと、長い呻き声が聞こえる。そのあと、ゆっくりと手が外れていき、視線がぶつかった。

「いかがですか」
「とても、よく似合っている。美しいというか、いや、いつも綺麗だし、普段のリーシェもいいが、今のも良いというか」

普段着ないようなデコルテ丸出しのオフショルダーのドレス。胸元はいつものごとくタオルを入れられているが、それでもだいぶ寄せて上げられている。

身体についた脂肪という脂肪は恐らく総て胸元に寄せ集められたのではなかろうか、というくらいのボリュームにはなっている。

髪もがっつりと編み込まれ、後れ毛が少しあるくらいで首元はスースーしているし、化粧もいつもよりも華やかで、鏡を見た瞬間は思わず「誰?」と呟いてしまったほどだった。

「似合ってます?」
「あぁ、もちろん。とてもよく似合っているし、綺麗だというか可愛いだというか、なんていうか、その、なんだな」

なんかこう、まごつかれると、だんだんと羞恥が伝染して自分も恥ずかしさが蘇ってくる。彼の耳や頬が赤くなっているのが、自分にも移ったようだ。

(もう、32なんだからもっとしっかりしてよ)

内心ではそう抗議しつつも口には出せない。だから、あえて心中で思いの丈をぶつける。

「ほぅら、そこの2人!イチャついてないで誕生会始めるんでしょう?」
「イチャついてませんから。ふぅ……、リーシェ、行けるか?」
「私はいつでも行けますよ」

そう答えると腕を差し出される。その太くて逞しい腕に自らの腕を絡めると、途端ぎこちなくなるクエリーシェルに小さく笑う。

(豪胆なんだか、小心者なんだか。本当、不思議な人)

そのままエスコートされ、私は自分の誕生日会の会場、城外にあるホールまでクエリーシェルに寄り添いながら向かうのであった。
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