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2章【告白編】

8 着替え

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「ああん、これもいいわねー。いや、でもあれも捨て難いわねー!困っちゃうわ、もう!!」

一体いくつのドレスに着替えただろうか。正直そろそろうんざりしているが、さすがにそれを顔に出さないほどにはわきまえているつもりだ。

(苦しい……)

とはいえ、さすがにこれ以上着替えるのもつらい。久しくこんな何度も着替えさせられ、毎回ギュウギュウにコルセットを締められて、そろそろ骨がぼっきりいきそうである。

「母さん、いつまでなさっているおつもりですか!叔父貴が遅いと御冠ですよー!」

外から声が聞こえる。恐らく話の内容的にダリュードだろう。彼の性格的にきっとノックをしたのだろうが、マルグリッダがはしゃぎすぎていて音が聞こえず、外から大声で話掛けてきたと言ったところか。

時計を見れば、もうかれこれ着替え始めてから2時間半は経過しようとしている。さすがのクエリーシェルも姉の性格を把握しているはずなので大目に時間は見繕っていただろうが、ここまで長丁場になるとは想定外だったのだろう。

(ちなみに、私もここまで時間がかかるとは想定外だ)

「あら!もうそんな時間なのね。つい私ったら夢中になってしまったわ。リーシェもごめんなさいね」
「いえ、……ですが、そろそろ見繕っていただけると」
「そうね!あー、どうしましょう!!あ、アリッサ、ダリュードにもうすぐ、いえ、うーん、あと30分で終えるわ、と伝えてきてちょうだい」

メイドが小走りにドアに向かって行くのを尻目に、小さく溜息をつく。

(あと30分辛抱すれば解放される)

もう何でもいいんですけど、と思ってもこの場で言う勇気はない。だが、この場にいる誰もが早く決めてくれることを願っていることだろう。

(メイドもくたくたなのが見てわかる)

そりゃさすがに、クローゼットからドレスを出して着替えさせて髪を結わえてまた脱がして片付けて、を延々やってたら疲れるに決まっている。

ここにいるマルグリッダ以外の疲労はありありと顔に出ていた。各々それなりに取り繕ってはいるが、どうしても滲み出てしまうものはある。

「ではもう時間もないことだし、今着ているドレスにしましょうか。このコバルトブルーもいい色合いだし、生地もいいものね。髪はどうしましょう?せっかくですもの、今流行りの編み込みに大きなお花を飾るのがいいかしら?」
「最近の流行りに関して私は不勉強ですので、マルグリッダ様にお任せ致します」
「そう?では、アリッサ、メーニャ、髪結いをお願い。ベローナはメイクをしてちょうだい。色はそうね、リーシェは色が薄いから、ちょっと頬紅に華やかなオレンジとかの色を入れましょうか。ニアはお花を持ってきて。そうね、白のダリアがいいかしら。会場の装花にあるはずだから、いくつかもらってきてね」

最早注文が呪文のように聞こえる。動きたくてうずうずするが、髪結いにメイク中など動けるはずもなく、マルグリッダのメイド達にされるがまま、全てが仕上がるのを待ち続けた。

「まぁ!完璧だわ!私ったらさすがだと思わない?」
「えぇ、マルグリッダ様」

どうにか終わったらしい。支度後に立つように促される。今まで長く座っていたせいか、身体がギシギシと軋む。

そしてマルグリッダは私の全身を見るやいなや、大満足で感嘆の声を上げた。それに追従するように同調するメイド達。

(ちょっと仕上がりを見るのが恐い)

ここまでガッツリ髪結いもメイクもされたことなど久々で、今まで着替えからメイクから一切鏡を見ていなかったため、正直気持ちとしては期待よりも不安の方が優っていた。

色味も今までに挑戦したことのないものばかりである。というか、ペンテレアにいたころは、なるべく汚れないことを意識して地味目な色のチョイスだったというのもあるが。

「ほらほら、リーシェも姿見で見てちょうだい」

手を差し出されてその上におずおずと手を乗せる。そしてマルグリッダに誘導され、促されるまま姿見の前まで移動するのだった。
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