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2章【告白編】

5 説教

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とりあえずリーシェに話があるから、とぺルルーシュカから離され、別室に連れて行かれると、まさしくお説教というものをされた。

生まれてこの方、クエリーシェルに会うまであまり説教というものをされたことがなかった。元々要領のよい末っ子ということもあるだろうが、生来の気質というかなんというか、自分でいうのもなんだが、私は小狡いところがある。

なので、今までそういうものとは無縁な人生ではあったのだが、彼にはもう最近説教されてばかりな気がする。

(年の差ということもあるけど、なんか父親というか兄というかそういう近さなのよね)

「リーシェ、聞いているのか」
「はい、聞いてます」

とりあえず今回のお説教は主に3つ。なぜ護衛であるバースを伴ってないのか、あれほど無理をするなと言っていたのにそれをなぜ破ったのか、ここの兵はなぜまともに動けなかったのか。

最後のはほぼほぼ八つ当たりであるが、隣にいたガイは私の巻き添えを食ってしまって申し訳ないと思う。今もなお、私の隣で一緒くたにされてお叱りを受けている状態だ。

「明日から対テロ対策を訓練に加えるぞ」
「は!」
「今までの訓練の比じゃないから覚悟しておくよう伝えておけ」

クエリーシェルの目がマジである。明日から彼等には身の毛のよだつほどのつらい仕打ちが待っていると思うと、同情せざるを得ない。そしてガイは退室し、自分だけが残される。

「で、これがスリングか。なぜこのようなものを持ち合わせていたのかはあえて聞かないが、今まで投石したことがあるのか」
「えぇ、まぁ、幼少期やマシュ族にいた頃には相当訓練しましたので、的を外したことはありません」
「……どんな幼少期を過ごしていたのだ」
「え、しませんか?」
「普通はしない」

断言されてちょっとショックを受ける。いや、でも西洋では子供はスリングで的に命中させないと親から食料をもらえないほど鍛えられていたと聞いていたが、それは嘘だったのだろうか。

(いや、そもそもクエリーシェルは侯爵家の息子だからやったことない?え、でもスリングっていにしえより用いられてた武器だし)

「不本意そうな顔をするでない。で、今回は槍でなく物干し竿を振るっていただって?そもそもその辺聞いていなかったが、槍や棍を使うのが得意なのか?」
「そうですね、どちらかというと得意ではありますかね。東洋に拳法や気功術使いの知り合いがいまして、その方から一通り学びました」
「どれだけ引き出しがあるのだ」

呆れた顔をされる。この様子だととりあえず説教タイムは終了したようでホッとする。

「1人対複数人の場合はこのような槍や棍が一番適しているんですよ。逃げ延びるために大いに役立ってくれました。案外長い棒ってその辺にあるので、戦うには便利なんです」
「なるほどな、ってそうじゃない。はぁ、まぁ、とにかく無事で何よりだが、本当に気をつけてくれ。私は先程報せを受けたときは肝が冷えたぞ」
「それは、申し訳ありません」
「傷口はなんともないか?」
「えぇ、大丈夫です」

顎を取られて顔を覗かれる。顔色を窺っているようだが、なんか気恥ずかしい。たまになんていうか、この人はとても色気のある顔をするときがある。その顔を向けられると、なんだか上手く反応できなくてどぎまぎしてしまう。

「あのぅ、そろそろお話は終わりまして?」
「は!はい、たった今、終わりました!」

ぺルルーシュカに戸を開けられ、ガバッとクエリーシェルから身体を離す。不意打ちで驚いたせいか、心臓が痛かった。

「で、リーシェ様を我が家にお招きする話は」
「ダメです。リーシェは私のメイドですので」
「えーーーーー!どうしてもダメなんですの?」
「どうしても、ダメです。私はリーシェがいないと領主としての仕事がまっとうできませんので」
「そこをどうにか……!」
「なりません」

珍しくハッキリとした口調に戸惑う。嬉しいは嬉しいのだが、なんていうか、はたから聞いているとまるで求婚のような言葉に勝手に喜んでいる自分がいる。

(いや、そういうことではなくて。ケリー様はあくまで私を気に入っているだけだし)

なぜか自分で自分に言い訳をしながら、とりあえずぺルルーシュカにはたまに領地に遊びにくるということで納得してもらった。

「あぁ、そういえば、失礼ながらリーシェ様にお聞きしたいのですが、今おいくつですか?」
「17です」
「17!では、私と同い年ですわね!」
「……17?!」

キャッキャ盛り上がっているぺルルーシュカを尻目に、クエリーシェルが動揺している。

「今17と言ったか?」
「えぇ、17です」
「いつ17になったのだ」
「え、あの一件があったときです。寝ていた間に誕生日を迎えました」
「なぁにぃー?!なぜもっと早くに言わぬ!!」
「え、言うタイミングもなかったですし、聞かれもしなかったので」

クエリーシェルが頭を抱えている。ぺルルーシュカは「まぁ!」と手を叩いていた。

「では、お誕生日会をしていないのではなくて?私がぜひともお祝いしたいので、我が邸宅でぜひ!」

ぺルルーシュカが軽く飛び跳ねながらはしゃいでいるのを、すぐさまクエリーシェルが制止する。

「いえ、我が家ですぐに執り行いますので、招待状を送ります。なるべく近日中には開催致しますのでお待ちください。あぁ、ファーミット卿、そのときにぜひとも我が領についてお話しますので、それでよろしいでしょうか?」

いつの間にかファーミット卿もいたようで、ぺルルーシュカの存在感と対照的に父親の存在感のなさにちょっと驚く。

(というか、ぺルルーシュカ様の個性が強すぎる)

口には出さないが、御令嬢の中でもとりわけ個性が強いというか、お嬢様という性質を全て寄せ集めたような感じである。嫌味がないぶん、いい人であるのは間違いなさそうだが。

「あぁ、それで構わないです。本日は大変ゴタゴタしましたしな」
「それに関しては申し訳ありませんでした。今後このようなことがないよう徹底させますので」
「我が領にもこのようなことがないとは限らないので、ぜひともその辺りは今後情報共有ができればと。とりあえず今日のところはおいとまさせていただきます。リーシェさん、ぺルルーシュカをどうもありがとうございました」
「いえ、本当にご無事で何よりですので。本日は帰ったら安静になさってください」
「えぇ、ご心配いただきありがとうございます。ではまた!ご機嫌よう」

ぺルルーシュカは大きく手を振ってくるのをさりげなく振り返す。クエリーシェルを見ると、再び張り付いた笑顔に説教第2弾がくることが想定できて、私は静かに身構えるのだった。
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