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2章【告白編】
3 悪漢退治
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(うん、ここでロケーションはバッチリね)
上から状況を察するに、悪漢は1人のようだ。
誰か他に仲間らしき者もいるのかも、と辺りを一通り見回して探したが見つからず、恐らく計画的にではなく突発的に起こしたのだろうことが想像できる。
(ということは、凶器もあれだけの可能性が高い)
であれば、あの悪漢から彼女を引き剥がせば、一気にカタはつくはずだ。
(万が一に備えて“乙女の嗜み”を持ってきて良かった)
胸元をごそごそと漁り、お目当てのものを取り出す。出てきたのはお手製の投石紐、所謂スリングである。
(久しくやってなかったから、ちゃんと当たるといいんだけど)
的は悪漢の凶器を持つ手か、凶器そのものである。いかに人質に当てずに、目標である的に命中させられるかが焦点だ。
時間はなるべくかけられない、一刻を争う。となれば、ここで練習するわけにもいかない。
(ペンテレアにいたときはほぼ百発百中だったし、マシュ族にいたときの狩りだってやってたからきっと大丈夫、なはず!)
そう自分で自分を信じて、小石を入れて勢いよく振り回す。
ぶん、ぶんぶんぶんぶんぶんぶん……っ
そしてある程度回転させたとき、ちょうど野次馬か兵達の声掛けか何かで興奮したのか、悪漢が人質に突きつけてた刃物を頭上にあげたときだった。
(よし、ここ!)
狙いを凶器に定めて小石をぶん投げる。
「っくぁ!!」
小石は見事に刃物に当たり、相当な勢いで刃物は吹っ飛び、反動で手がやられたのだろう、男は苦痛に喘ぐのが見てとれた。
(よし、今!)
そこで建物から勢いをつけて走り出すと、棒高跳びの要領で物干し竿を使って飛び降り、その勢いのままに物干し竿を悪漢の肩に振り下ろす。
「ぐぁぁ!!」
人質が彼から離れたことを確認する。
(よし……っ!)
そのまま勢いを殺さずに振りかぶった物干し竿でよろけた悪漢の胴体を薙ぎ払って転ばせると、肩を踏みつけ動けなくし、ダンっ!と物干し竿を彼の顔面ギリギリに勢いよく叩きつける。
すると、彼は恐怖に慄いたのか弛緩し、そのまま動けなくなった。
「リ、リーシェ様!すみません、助かりました。ですが、一体どこから……っ!」
そう声をかけてきたのは、最早顔馴染みとなっている新兵のガイだ。彼が声を掛けてきたのを皮切りに、兵はドッと集まり悪漢は早々に連行されていった。
「いえ、出過ぎた真似を致しました」
あえてどこから来たのかはスルーする。下手にクエリーシェルにこのことがバレてしまうと大変だということは学習済みである。
とはいえ、ここまで多くの野次馬がいる中で派手にやらかしたとなると後の祭りだが、そこは気にしないことにした。
「とんでもない!本当に助かりました!!さすが領主様のメイドですね。見たこともない動きで驚きました。俺も、あれくらい動けるようになれればいいのですが」
「あれは、東洋武術なのでこちらではなかなか触れ合う機会が少ないというか、戦争で役立つものではあんまりないので」
「へぇ、そうなんですね!相変わらずリーシェ様は物知りですね!!」
単純で真っ直ぐな瞳。ガイは何というか悪い人ではないが、思考がとてもシンプルなので、はぐらかすにはとても良い人材ではあった。
「空を華麗に舞い、しなやかな身のこなしで悪漢を薙ぎ払う。なんと、なんとまぁ、素敵なんでしょう……っ!」
先程まで人質であった少女が、近くでぶつぶつと何やら呟いている。そちらに顔を向け、「お怪我はありませんでしたか?」と尋ねると、大袈裟ではないかと言うほど反り返って額を押さえている。
(恐怖でおかしくなっちゃったのかしら)
「あの」
「お名前、確かリーシェ様と仰るのですね?」
「えぇ、はい。そうですが」
ガイとのやりとりを聞いていたのだろう。名前を尋ねられて素直に答える。
「リーシェ様、どうか私の騎士となってくださいませ……!!」
「はぁ?」
少女の目は、まるで宝石を散りばめたようにキラキラと輝いていた。
上から状況を察するに、悪漢は1人のようだ。
誰か他に仲間らしき者もいるのかも、と辺りを一通り見回して探したが見つからず、恐らく計画的にではなく突発的に起こしたのだろうことが想像できる。
(ということは、凶器もあれだけの可能性が高い)
であれば、あの悪漢から彼女を引き剥がせば、一気にカタはつくはずだ。
(万が一に備えて“乙女の嗜み”を持ってきて良かった)
胸元をごそごそと漁り、お目当てのものを取り出す。出てきたのはお手製の投石紐、所謂スリングである。
(久しくやってなかったから、ちゃんと当たるといいんだけど)
的は悪漢の凶器を持つ手か、凶器そのものである。いかに人質に当てずに、目標である的に命中させられるかが焦点だ。
時間はなるべくかけられない、一刻を争う。となれば、ここで練習するわけにもいかない。
(ペンテレアにいたときはほぼ百発百中だったし、マシュ族にいたときの狩りだってやってたからきっと大丈夫、なはず!)
そう自分で自分を信じて、小石を入れて勢いよく振り回す。
ぶん、ぶんぶんぶんぶんぶんぶん……っ
そしてある程度回転させたとき、ちょうど野次馬か兵達の声掛けか何かで興奮したのか、悪漢が人質に突きつけてた刃物を頭上にあげたときだった。
(よし、ここ!)
狙いを凶器に定めて小石をぶん投げる。
「っくぁ!!」
小石は見事に刃物に当たり、相当な勢いで刃物は吹っ飛び、反動で手がやられたのだろう、男は苦痛に喘ぐのが見てとれた。
(よし、今!)
そこで建物から勢いをつけて走り出すと、棒高跳びの要領で物干し竿を使って飛び降り、その勢いのままに物干し竿を悪漢の肩に振り下ろす。
「ぐぁぁ!!」
人質が彼から離れたことを確認する。
(よし……っ!)
そのまま勢いを殺さずに振りかぶった物干し竿でよろけた悪漢の胴体を薙ぎ払って転ばせると、肩を踏みつけ動けなくし、ダンっ!と物干し竿を彼の顔面ギリギリに勢いよく叩きつける。
すると、彼は恐怖に慄いたのか弛緩し、そのまま動けなくなった。
「リ、リーシェ様!すみません、助かりました。ですが、一体どこから……っ!」
そう声をかけてきたのは、最早顔馴染みとなっている新兵のガイだ。彼が声を掛けてきたのを皮切りに、兵はドッと集まり悪漢は早々に連行されていった。
「いえ、出過ぎた真似を致しました」
あえてどこから来たのかはスルーする。下手にクエリーシェルにこのことがバレてしまうと大変だということは学習済みである。
とはいえ、ここまで多くの野次馬がいる中で派手にやらかしたとなると後の祭りだが、そこは気にしないことにした。
「とんでもない!本当に助かりました!!さすが領主様のメイドですね。見たこともない動きで驚きました。俺も、あれくらい動けるようになれればいいのですが」
「あれは、東洋武術なのでこちらではなかなか触れ合う機会が少ないというか、戦争で役立つものではあんまりないので」
「へぇ、そうなんですね!相変わらずリーシェ様は物知りですね!!」
単純で真っ直ぐな瞳。ガイは何というか悪い人ではないが、思考がとてもシンプルなので、はぐらかすにはとても良い人材ではあった。
「空を華麗に舞い、しなやかな身のこなしで悪漢を薙ぎ払う。なんと、なんとまぁ、素敵なんでしょう……っ!」
先程まで人質であった少女が、近くでぶつぶつと何やら呟いている。そちらに顔を向け、「お怪我はありませんでしたか?」と尋ねると、大袈裟ではないかと言うほど反り返って額を押さえている。
(恐怖でおかしくなっちゃったのかしら)
「あの」
「お名前、確かリーシェ様と仰るのですね?」
「えぇ、はい。そうですが」
ガイとのやりとりを聞いていたのだろう。名前を尋ねられて素直に答える。
「リーシェ様、どうか私の騎士となってくださいませ……!!」
「はぁ?」
少女の目は、まるで宝石を散りばめたようにキラキラと輝いていた。
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