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2章【告白編】
1 進捗状況
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「ほんっとーにお前はヘタレだな」
「煩い、黙れ」
「おい、これでも一応国王なのだから口は慎めよ」
「もうそんな余裕すら俺にはない」
先日の天体観測では意気込んで挑んだものの、見事に躱されてしまった。
最後にどうにか頬にキスすることはできた。だが、そのときに意識をしたような素ぶりはあったにも関わらず、なぜか翌日にはいつもの調子に戻っていた。なかなかに手強い相手である。
「そもそも、その年で頬に口付けって、子供か!」
「いや、突然唇にしたらリーシェも戸惑うと思ってだな。まだ16で経験もないだろうし」
「そうかぁ?一国の姫だったなら縁談くらいあったんじゃないか?となるともしかしたら、キスくらいは済ませているかもしれんぞ」
(婚・約・者)
言われてみれば確かにである。
目の前のクイードも現王妃との縁談は早いもので17の時には成立していたはずだ。女性の方が年下と考えると、可能性はなくはない。キスの1つや2つしていてもおかしくない、と続けざまに言われて、勝手に脳内でその場面を想像してしまう。
「いや、まさか。だが、え、いや、確かに、でも、そんな」
「そこ、取り乱すでない」
32にもなって、と呆れているようだが、今までそういう事柄を忌避していた意識はあるので言うなれば初恋なのだ。そんな急にキスしろだなどと姉もクイードも言うだけは簡単だが、実際目の前にいるとなるとどうしても二の足を踏んでしまうのは致し方ないのではなかろうか。
「もういい、とりあえずこの話を引っ張ったところで今は実りあるとは思えんから、とりあえず善処はしろ。あと絶対に手放すでないぞ」
「そ、それはわかっている。リーシェもそう言ってくれてるしな」
だったら尚更ことは簡単だろうに、とは思いつつもクイードはあえて言及せずに目の前の大男があたふたするのをヤキモキしつつも楽しんでいた。
「あぁ、ところでだが、リーシェについては一応他国の貴族の来賓ってことで話をつけている。それをヴァンデッダ家預かりとしていることになっているから、今後はそれで押し通すように」
「はぁ、そんなふわっとした設定でいいのか?」
「何、私がそう決めたのだ。老害達には私の権限で押し黙らせる。そもそも何かしらの権限を与えておかないと、一介の領主付のメイドが王城をウロウロしている方が問題あるだろう」
「確かに」
一応、建前として何かしら箔をつけておかないと面倒だというのは、この世界ならではだ。堅苦しいとはいえ、身分不相応のものがいたらいたで弊害が起きるのも理解できるので、ここは甘んじて受け入れるしかない。
「それにあの娘は有能だからな。こちらとしても大いに役立ってもらっている。いや、本当によい拾い物をした」
「リーシェを物のように言うんでない。そもそも私のものだ」
「それだけの強気を、ぜひとも本人の前で見せれば良いのにな」
「それとこれとは話は別だ」
リーシェが王城に行くようになってからというもの、新たな武器の製造やら防衛線の配備やら急ピッチで政策が進んでいる。
そしてなぜか彼女は、今まで見たことのない火槍やクロスボウ、大砲に投石器など、他国のありとあらゆる機密級の武器などに詳しかった。
本人曰く情報収集方法は秘密だそうだが、よくもまぁここまで頭の中に入っていると思う。また兵法についても詳しく、軍師並みの戦術を知っており、実際に東洋では使われているものらしい。
ここまで知っているのにどうして一昼夜で滅ぼされてしまったのかとも思ったが、その疑問を察したリーシェに「姫1人がそのような知識を持っていたところで活用できなければ意味ないのですよ」と一蹴されてしまった。
確かにその通りである。そういうところは現実的というか年齢のわりのは冷めた思考をしているように思う。なので、たまに年相応の反応するときについ慈しんでしまう。
「そこ、何妄想してニヤついている」
「いや、特に他意はない」
「どうせろくでもない内容だろう。そういえば今日リーシェは何をしているのだ?」
「今日は買い出しに出ている。港町に行くと言っていたが」
確か食材やら何やらを買いに行くと言ってたかな、と今朝の会話を思い出す。
「港町って、……大丈夫なのか?」
「あぁ、先日の騒乱があった港町アブロでなく、俺の領地の港町ブランカだから問題ないだろう。護衛もつけているしな」
「だといいがな。なんだかんだ、実際あの娘はトラブル気質ではあるからな」
はは、いくら何でも、と笑っていたのを後悔するのにそんなに時間はかからなかった。
「煩い、黙れ」
「おい、これでも一応国王なのだから口は慎めよ」
「もうそんな余裕すら俺にはない」
先日の天体観測では意気込んで挑んだものの、見事に躱されてしまった。
最後にどうにか頬にキスすることはできた。だが、そのときに意識をしたような素ぶりはあったにも関わらず、なぜか翌日にはいつもの調子に戻っていた。なかなかに手強い相手である。
「そもそも、その年で頬に口付けって、子供か!」
「いや、突然唇にしたらリーシェも戸惑うと思ってだな。まだ16で経験もないだろうし」
「そうかぁ?一国の姫だったなら縁談くらいあったんじゃないか?となるともしかしたら、キスくらいは済ませているかもしれんぞ」
(婚・約・者)
言われてみれば確かにである。
目の前のクイードも現王妃との縁談は早いもので17の時には成立していたはずだ。女性の方が年下と考えると、可能性はなくはない。キスの1つや2つしていてもおかしくない、と続けざまに言われて、勝手に脳内でその場面を想像してしまう。
「いや、まさか。だが、え、いや、確かに、でも、そんな」
「そこ、取り乱すでない」
32にもなって、と呆れているようだが、今までそういう事柄を忌避していた意識はあるので言うなれば初恋なのだ。そんな急にキスしろだなどと姉もクイードも言うだけは簡単だが、実際目の前にいるとなるとどうしても二の足を踏んでしまうのは致し方ないのではなかろうか。
「もういい、とりあえずこの話を引っ張ったところで今は実りあるとは思えんから、とりあえず善処はしろ。あと絶対に手放すでないぞ」
「そ、それはわかっている。リーシェもそう言ってくれてるしな」
だったら尚更ことは簡単だろうに、とは思いつつもクイードはあえて言及せずに目の前の大男があたふたするのをヤキモキしつつも楽しんでいた。
「あぁ、ところでだが、リーシェについては一応他国の貴族の来賓ってことで話をつけている。それをヴァンデッダ家預かりとしていることになっているから、今後はそれで押し通すように」
「はぁ、そんなふわっとした設定でいいのか?」
「何、私がそう決めたのだ。老害達には私の権限で押し黙らせる。そもそも何かしらの権限を与えておかないと、一介の領主付のメイドが王城をウロウロしている方が問題あるだろう」
「確かに」
一応、建前として何かしら箔をつけておかないと面倒だというのは、この世界ならではだ。堅苦しいとはいえ、身分不相応のものがいたらいたで弊害が起きるのも理解できるので、ここは甘んじて受け入れるしかない。
「それにあの娘は有能だからな。こちらとしても大いに役立ってもらっている。いや、本当によい拾い物をした」
「リーシェを物のように言うんでない。そもそも私のものだ」
「それだけの強気を、ぜひとも本人の前で見せれば良いのにな」
「それとこれとは話は別だ」
リーシェが王城に行くようになってからというもの、新たな武器の製造やら防衛線の配備やら急ピッチで政策が進んでいる。
そしてなぜか彼女は、今まで見たことのない火槍やクロスボウ、大砲に投石器など、他国のありとあらゆる機密級の武器などに詳しかった。
本人曰く情報収集方法は秘密だそうだが、よくもまぁここまで頭の中に入っていると思う。また兵法についても詳しく、軍師並みの戦術を知っており、実際に東洋では使われているものらしい。
ここまで知っているのにどうして一昼夜で滅ぼされてしまったのかとも思ったが、その疑問を察したリーシェに「姫1人がそのような知識を持っていたところで活用できなければ意味ないのですよ」と一蹴されてしまった。
確かにその通りである。そういうところは現実的というか年齢のわりのは冷めた思考をしているように思う。なので、たまに年相応の反応するときについ慈しんでしまう。
「そこ、何妄想してニヤついている」
「いや、特に他意はない」
「どうせろくでもない内容だろう。そういえば今日リーシェは何をしているのだ?」
「今日は買い出しに出ている。港町に行くと言っていたが」
確か食材やら何やらを買いに行くと言ってたかな、と今朝の会話を思い出す。
「港町って、……大丈夫なのか?」
「あぁ、先日の騒乱があった港町アブロでなく、俺の領地の港町ブランカだから問題ないだろう。護衛もつけているしな」
「だといいがな。なんだかんだ、実際あの娘はトラブル気質ではあるからな」
はは、いくら何でも、と笑っていたのを後悔するのにそんなに時間はかからなかった。
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