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1章【出会い編】
43 男の意地
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(な!)
リーシェの声が聞こえたと思うと、先の口上である。
(ペンテレア、ペンテレア……って、確かゴードジューズ帝国によって一昼夜で亡国にされたというあの国のことか!まさかあの国の生き残りだと?しかも王女と言ったか?!)
思考を巡らせながらも、手も足も休めることなく向かってくる傭兵をバッタバッタと薙ぎ倒していく。
傭兵といえども、さすがに現役で戦地に赴いているクエリーシェルとは場数の差があった。それなりの図体と力があるようだが、技に関しては全くの素人であり、体幹も剣の振り方もどれもこれもなっていなかった。
(その辺のゴロツキを傭兵に仕立てた、と言ったところだな)
粗方片付けたものの、それでもさすが国を転覆させようとしただけはある。恐らく、事前に綿密に仕込まれていたのであろう、キリがないほど湧いて出てくる。
さすがにいくら戦闘素人が相手と言えども、数の多さや体力を鑑みると、長期戦になればなるほど疲弊するため、こちらが不利になるのは必然である。
(……せめて、応援がいれば)
ニールには私達が港町に行くことを舞踏会にいた騎士に追って伝えるよう頼んだが、王城から港町まではそれなりに距離はある。そして、今はそれなりの夜更け、すぐに動かせる兵がどれほどいるかが問題だ。
(くそっ!)
リーシェの方を見ると、さすが啖呵を切っただけはある。自分の身の丈以上の槍を振り回して応戦というか善戦している。小さいながらも舞うような槍さばきは、まるで神話に出てくる戦乙女のようだった。
あの娘はどこまで有能なのだ、と思いつつも、コルジール国の軍総司令官として彼女に頼ってばかりいられないと、剣を強く握り締める。そして、大地を強く踏みしめると、その勢いで相手方の懐に入る。そして一気に薙ぎ払い、幾人の傭兵を吹っ飛ばした。
(やれる限りやる。まだまだ私はやれる)
切って、蹴って、薙ぎ払って、倒す。自らを鼓舞しながら戦闘不能者を増やしていく。
「こ、これは一体どうなっている!!」
聞いたことのある声に顔を上げれば、今更到着したらしいバルドルがそこにいた。本来ならそのまま船で出立するはずだっただろうが、まさか先回りされて、さらにはたった2人のみで、この混乱を起こしているとは予想もつかなかったことだろう。
「ええい!何をしている!!たった2人じゃないか!しかも、片方はただの小娘だろう!!!とっとと殺してしまえ!」
「で、ですが、かたや軍神と言わしめた国軍の総司令官ヴァンデッダ卿、かたやペンテレア国の王女ですよ!」
「やはりあの小娘、ペンテレアの生き残りか!あの時すぐに拘束していれば……!まぁよい!バレス皇帝は生け捕りをご所望であったが、首だけでも文句は言われまい!!さっさと殺せ!!」
(くそっ、まずい!このままだと攻撃がリーシェに集中してしまう)
クエリーシェルは近くにあった握りこぶしほどの石を手にすると、勢いよくバルドルに投げつける。
ヒュン……っ、ガツっ!
石は彼のこめかみを掠っただけだったが、負傷させることぬは成功させたようで、パッと鮮血が散ったのが見えた。それなりの痛みはあったのだろう、蹲る彼は出血したこめかみを手で押さえ、私のことを睨むように凝視してくるのを確認する。
「……っく!ヴァンデッダめ……!やはり、小娘はいくらでもどうにでもなる!!先にヴァンデッダをどうにかしろ!!!」
とりあえず、こちらの注意を引くことには成功したようだ。そして、続けざまに再び石を投げようとすると、慌てて背を向け逃げていく。
(よし、上手くいった。これであやつはここを離脱しようとするだろう)
「リーシェ!ここは私に任せろ!!リーシェはバルドルを追え!!!」
「1人で防げますか?!」
「私を誰だと思っている!私はコルジールの軍神と呼ばれている男だぞ!リーシェに心配されるほどヤワではないわ!とにかく追え!逃げられてからじゃ遅い!!」
「はい!……死なないでくださいよ!」
「そちらこそな!帰ってきたら色々と聞かせてもらうからな!!」
なぜ、今まで王女だと黙っていたのか、なぜメイドとして過ごしていたのか、なぜそこまで知識があるのか、なぜ戦うのか……、聞きたいことはいっぱいある。そして、言わなければならないこともある。
(死ぬわけにはいかない)
クエリーシェルはリーシェを追おうとする傭兵の背を掴むと、そのまま振り回して海に投げ込む。無駄にでかい身体をしているわけではない。
「私が相手だ!リーシェには指一本たりとも触れさせない!!」
リーシェの声が聞こえたと思うと、先の口上である。
(ペンテレア、ペンテレア……って、確かゴードジューズ帝国によって一昼夜で亡国にされたというあの国のことか!まさかあの国の生き残りだと?しかも王女と言ったか?!)
思考を巡らせながらも、手も足も休めることなく向かってくる傭兵をバッタバッタと薙ぎ倒していく。
傭兵といえども、さすがに現役で戦地に赴いているクエリーシェルとは場数の差があった。それなりの図体と力があるようだが、技に関しては全くの素人であり、体幹も剣の振り方もどれもこれもなっていなかった。
(その辺のゴロツキを傭兵に仕立てた、と言ったところだな)
粗方片付けたものの、それでもさすが国を転覆させようとしただけはある。恐らく、事前に綿密に仕込まれていたのであろう、キリがないほど湧いて出てくる。
さすがにいくら戦闘素人が相手と言えども、数の多さや体力を鑑みると、長期戦になればなるほど疲弊するため、こちらが不利になるのは必然である。
(……せめて、応援がいれば)
ニールには私達が港町に行くことを舞踏会にいた騎士に追って伝えるよう頼んだが、王城から港町まではそれなりに距離はある。そして、今はそれなりの夜更け、すぐに動かせる兵がどれほどいるかが問題だ。
(くそっ!)
リーシェの方を見ると、さすが啖呵を切っただけはある。自分の身の丈以上の槍を振り回して応戦というか善戦している。小さいながらも舞うような槍さばきは、まるで神話に出てくる戦乙女のようだった。
あの娘はどこまで有能なのだ、と思いつつも、コルジール国の軍総司令官として彼女に頼ってばかりいられないと、剣を強く握り締める。そして、大地を強く踏みしめると、その勢いで相手方の懐に入る。そして一気に薙ぎ払い、幾人の傭兵を吹っ飛ばした。
(やれる限りやる。まだまだ私はやれる)
切って、蹴って、薙ぎ払って、倒す。自らを鼓舞しながら戦闘不能者を増やしていく。
「こ、これは一体どうなっている!!」
聞いたことのある声に顔を上げれば、今更到着したらしいバルドルがそこにいた。本来ならそのまま船で出立するはずだっただろうが、まさか先回りされて、さらにはたった2人のみで、この混乱を起こしているとは予想もつかなかったことだろう。
「ええい!何をしている!!たった2人じゃないか!しかも、片方はただの小娘だろう!!!とっとと殺してしまえ!」
「で、ですが、かたや軍神と言わしめた国軍の総司令官ヴァンデッダ卿、かたやペンテレア国の王女ですよ!」
「やはりあの小娘、ペンテレアの生き残りか!あの時すぐに拘束していれば……!まぁよい!バレス皇帝は生け捕りをご所望であったが、首だけでも文句は言われまい!!さっさと殺せ!!」
(くそっ、まずい!このままだと攻撃がリーシェに集中してしまう)
クエリーシェルは近くにあった握りこぶしほどの石を手にすると、勢いよくバルドルに投げつける。
ヒュン……っ、ガツっ!
石は彼のこめかみを掠っただけだったが、負傷させることぬは成功させたようで、パッと鮮血が散ったのが見えた。それなりの痛みはあったのだろう、蹲る彼は出血したこめかみを手で押さえ、私のことを睨むように凝視してくるのを確認する。
「……っく!ヴァンデッダめ……!やはり、小娘はいくらでもどうにでもなる!!先にヴァンデッダをどうにかしろ!!!」
とりあえず、こちらの注意を引くことには成功したようだ。そして、続けざまに再び石を投げようとすると、慌てて背を向け逃げていく。
(よし、上手くいった。これであやつはここを離脱しようとするだろう)
「リーシェ!ここは私に任せろ!!リーシェはバルドルを追え!!!」
「1人で防げますか?!」
「私を誰だと思っている!私はコルジールの軍神と呼ばれている男だぞ!リーシェに心配されるほどヤワではないわ!とにかく追え!逃げられてからじゃ遅い!!」
「はい!……死なないでくださいよ!」
「そちらこそな!帰ってきたら色々と聞かせてもらうからな!!」
なぜ、今まで王女だと黙っていたのか、なぜメイドとして過ごしていたのか、なぜそこまで知識があるのか、なぜ戦うのか……、聞きたいことはいっぱいある。そして、言わなければならないこともある。
(死ぬわけにはいかない)
クエリーシェルはリーシェを追おうとする傭兵の背を掴むと、そのまま振り回して海に投げ込む。無駄にでかい身体をしているわけではない。
「私が相手だ!リーシェには指一本たりとも触れさせない!!」
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