42 / 437
1章【出会い編】
41 混乱
しおりを挟む
「リーシェ!!」
聞き慣れた声が聞こえる。
顔を上げれば、空からクエリーシェルが降ってくる。そして、あっという間にバルドルから引き剥がされ、気づけば領主の胸の中にいた。
「私のリーシェに何をしているのですか、クォーツ卿!」
「くっ、私にそんなことをしても良いと思っているのか?」
「私が何か罰せられる罪があるのならば、罰せられましょう。ですが、この非はどなたが見ても明らかだと思いますよ」
上を見上げると、テラスに多くの見物客がいるのがわかる。わざわざ大勢に見せるためにテラスから飛び降りたのであろうが、テラスから地上までは結構な高さがあるというのに、それを難なくやりとげた目の前の男に驚く。
「っ……くっ!さすが、親殺しはやることは違うな」
「どうとでもおっしゃってください」
「……ちっ」
バルドルは舌打ちをすると、足早に去って行く。リーシェは震える足がどうにも制御できなくて、足から崩れるようにへたりこみそうになるのを、クエリーシェルに支えられる。しっかりと抱きとめられているからか、彼の胸の鼓動がとても安心できた。
「大丈夫か?」
「ケリー様のおかげで助かりました」
「無事で何よりだ」
抱きしめられて抱きしめ返す。彼の体温、匂いが心地良かった。不快だった感情が一気に和らぐ。
……そんなときだった。
「キャアアアアアア!!!!!」
「うわぁぁぁ!!」
悲鳴が響く。何事かと慌てて彼から離れ走り出そうとしたが、上手く足が回らず、再びへたり込みそうになるのをクエリーシェルに支えられたかと思えば、ひょいっと横抱きされる。
所謂、お姫様抱っこである。
「ちょ、ケリー様!」
「今はそれどころではないから許せ!!」
慌てて悲鳴の上がる舞踏会会場に向かうと、それはそれは悲惨な状況だった。誰も彼もが嘔吐したり痙攣したりと、危うい状態なのが見て取れた。症状が軽症な人も、パニックを起こしている。
(これはまずい。毒だわ)
恐らく、飲食物に混ぜていたのだろう。これだけの人が被害に遭っていることを考えると、今日ここでテロをする目的で舞踏会を開催したに違いない。
(ここで今、毒草の知識があるのは恐らく私だけだ)
庭にあったものを思い出す。そして、食用として出されて違和感がないものを思い出す。
(あそこにあったもので違和感なく入れられるものと言えば、イヌサフランだ!)
「落ち着いてください!まずは症状が軽い方、症状がない方は速やかに重症な方の介抱をお願いします!!意識がある方にはなるべく大量の水を飲ませたあとに嘔吐させてください。意識がない人は無理に揺すったり起こしたりはしないでください!また、感染症ではないので移る心配はないので安心してください!!!」
クエリーシェルに抱かれながら、指示を出す。随分と厄介なものを仕込まれた。これは、下手しなくても死ぬ可能性がある。
「ケリー様、これはテロです。早急にバルドルを捕まえないと」
「あぁ、国王にも至急伝えせねば」
「ニール様!生きてます?!ダリュード様、マルグリッダ様!」
大きな声で叫ぶ。この状態で探し出すのは困難なため、自分に注目してもらうため、自分が出せる最大音量で声をかけた。
「あぁ、生きているぞ!俺は何も食べてないからな」
「では、ニール様は王城へと向かい、国王陛下に至急お伝えください!」
「お前に言われんでもわかっている……!」
ニールはすぐさま飛び出していく。
その様子を見たあとにぐるりと見渡すと、マルグリッダが手を挙げてこちらを見ているのがわかって、そちらの方に向かった。
ダリュードは少し食事を取ってしまったのか、顔色が悪く、マルグリッダが真っ青な顔で介抱していた。クエリーシェルの腕から降り、自分の足で立てることを確認すると、マルグリッダにピッチャーを持って近づく。
「お水を。飲めるだけ飲ませたあと吐かせてください。それで、きっとどうにかなりますから」
「えぇ、えぇ、わかったわ。ダリュード、お願いだから、飲んでちょうだい」
「吐けるだけ吐けたら安静に。大丈夫です。治ったら後遺症など出ませんから。お辛いでしょうが、気をしっかり」
伝えられることだけ伝えて、周りを見回す。
クォーツ家の使用人達の様子を見てこの状況を察するに、これを指揮または実行した人間は恐らくここにはいない。
リーシェは使用人達に水を飲ませて嘔吐させた後に安静にさせろ、さもなくば貴方達も罪に問われるぞ、と脅せば皆一様にバタバタと忙しなく水を取りに行き始めた。
「リーシェ!!!」
ニールの声が聞こえてそちらを向くと、彼がなぜかこちらに向かって走っていた。
「どうなさいました?!」
「ダメだ、馬もやられている」
「!紫陽花!!」
(くそ、もっと早く気付くべきだった……!先程の刈り取られていた紫陽花は、馬用の毒だったか!!)
今更気づいても遅いが、この様子だと馬車の馬もほぼほぼダメだろう。
「これだけ大量の招待客がいるんです、大丈夫そうな馬を見つけて行ってください。」
「あぁ、わかった」
ニールに再び指示を出す。その後、たくさんの人を介抱しているクエリーシェルの元へ駆け寄った。
「ケリー様!」
「何だ?」
「私達はバルドルを追いましょう。逃げる場所について、ある程度目処はついてます」
「なっ……!だが、リーシェは行く必要はないだろう?私が追いかけるから、リーシェはここにいろ」
「いえ、もうここはこれ以上何も手を尽くすことができません。ですから、これ以上の被害を増やさないためにも、早く捕まえないと。あいつを逃すと、国が滅びます!」
「……しょうがない、わかった。すぐに行くぞ」
クエリーシェルは邸宅内に飾られていた剣を腰に巻くと、すぐさまリーシェと共に玄関を飛び出した。
聞き慣れた声が聞こえる。
顔を上げれば、空からクエリーシェルが降ってくる。そして、あっという間にバルドルから引き剥がされ、気づけば領主の胸の中にいた。
「私のリーシェに何をしているのですか、クォーツ卿!」
「くっ、私にそんなことをしても良いと思っているのか?」
「私が何か罰せられる罪があるのならば、罰せられましょう。ですが、この非はどなたが見ても明らかだと思いますよ」
上を見上げると、テラスに多くの見物客がいるのがわかる。わざわざ大勢に見せるためにテラスから飛び降りたのであろうが、テラスから地上までは結構な高さがあるというのに、それを難なくやりとげた目の前の男に驚く。
「っ……くっ!さすが、親殺しはやることは違うな」
「どうとでもおっしゃってください」
「……ちっ」
バルドルは舌打ちをすると、足早に去って行く。リーシェは震える足がどうにも制御できなくて、足から崩れるようにへたりこみそうになるのを、クエリーシェルに支えられる。しっかりと抱きとめられているからか、彼の胸の鼓動がとても安心できた。
「大丈夫か?」
「ケリー様のおかげで助かりました」
「無事で何よりだ」
抱きしめられて抱きしめ返す。彼の体温、匂いが心地良かった。不快だった感情が一気に和らぐ。
……そんなときだった。
「キャアアアアアア!!!!!」
「うわぁぁぁ!!」
悲鳴が響く。何事かと慌てて彼から離れ走り出そうとしたが、上手く足が回らず、再びへたり込みそうになるのをクエリーシェルに支えられたかと思えば、ひょいっと横抱きされる。
所謂、お姫様抱っこである。
「ちょ、ケリー様!」
「今はそれどころではないから許せ!!」
慌てて悲鳴の上がる舞踏会会場に向かうと、それはそれは悲惨な状況だった。誰も彼もが嘔吐したり痙攣したりと、危うい状態なのが見て取れた。症状が軽症な人も、パニックを起こしている。
(これはまずい。毒だわ)
恐らく、飲食物に混ぜていたのだろう。これだけの人が被害に遭っていることを考えると、今日ここでテロをする目的で舞踏会を開催したに違いない。
(ここで今、毒草の知識があるのは恐らく私だけだ)
庭にあったものを思い出す。そして、食用として出されて違和感がないものを思い出す。
(あそこにあったもので違和感なく入れられるものと言えば、イヌサフランだ!)
「落ち着いてください!まずは症状が軽い方、症状がない方は速やかに重症な方の介抱をお願いします!!意識がある方にはなるべく大量の水を飲ませたあとに嘔吐させてください。意識がない人は無理に揺すったり起こしたりはしないでください!また、感染症ではないので移る心配はないので安心してください!!!」
クエリーシェルに抱かれながら、指示を出す。随分と厄介なものを仕込まれた。これは、下手しなくても死ぬ可能性がある。
「ケリー様、これはテロです。早急にバルドルを捕まえないと」
「あぁ、国王にも至急伝えせねば」
「ニール様!生きてます?!ダリュード様、マルグリッダ様!」
大きな声で叫ぶ。この状態で探し出すのは困難なため、自分に注目してもらうため、自分が出せる最大音量で声をかけた。
「あぁ、生きているぞ!俺は何も食べてないからな」
「では、ニール様は王城へと向かい、国王陛下に至急お伝えください!」
「お前に言われんでもわかっている……!」
ニールはすぐさま飛び出していく。
その様子を見たあとにぐるりと見渡すと、マルグリッダが手を挙げてこちらを見ているのがわかって、そちらの方に向かった。
ダリュードは少し食事を取ってしまったのか、顔色が悪く、マルグリッダが真っ青な顔で介抱していた。クエリーシェルの腕から降り、自分の足で立てることを確認すると、マルグリッダにピッチャーを持って近づく。
「お水を。飲めるだけ飲ませたあと吐かせてください。それで、きっとどうにかなりますから」
「えぇ、えぇ、わかったわ。ダリュード、お願いだから、飲んでちょうだい」
「吐けるだけ吐けたら安静に。大丈夫です。治ったら後遺症など出ませんから。お辛いでしょうが、気をしっかり」
伝えられることだけ伝えて、周りを見回す。
クォーツ家の使用人達の様子を見てこの状況を察するに、これを指揮または実行した人間は恐らくここにはいない。
リーシェは使用人達に水を飲ませて嘔吐させた後に安静にさせろ、さもなくば貴方達も罪に問われるぞ、と脅せば皆一様にバタバタと忙しなく水を取りに行き始めた。
「リーシェ!!!」
ニールの声が聞こえてそちらを向くと、彼がなぜかこちらに向かって走っていた。
「どうなさいました?!」
「ダメだ、馬もやられている」
「!紫陽花!!」
(くそ、もっと早く気付くべきだった……!先程の刈り取られていた紫陽花は、馬用の毒だったか!!)
今更気づいても遅いが、この様子だと馬車の馬もほぼほぼダメだろう。
「これだけ大量の招待客がいるんです、大丈夫そうな馬を見つけて行ってください。」
「あぁ、わかった」
ニールに再び指示を出す。その後、たくさんの人を介抱しているクエリーシェルの元へ駆け寄った。
「ケリー様!」
「何だ?」
「私達はバルドルを追いましょう。逃げる場所について、ある程度目処はついてます」
「なっ……!だが、リーシェは行く必要はないだろう?私が追いかけるから、リーシェはここにいろ」
「いえ、もうここはこれ以上何も手を尽くすことができません。ですから、これ以上の被害を増やさないためにも、早く捕まえないと。あいつを逃すと、国が滅びます!」
「……しょうがない、わかった。すぐに行くぞ」
クエリーシェルは邸宅内に飾られていた剣を腰に巻くと、すぐさまリーシェと共に玄関を飛び出した。
0
お気に入りに追加
1,922
あなたにおすすめの小説
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
最強賢者、ヒヨコに転生する。~最弱種族に転生してもやっぱり最強~
深園 彩月
ファンタジー
最強の賢者として名を馳せていた男がいた。
魔法、魔道具などの研究を第一に生活していたその男はある日間抜けにも死んでしまう。
死んだ者は皆等しく転生する権利が与えられる。
その方法は転生ガチャ。
生まれてくる種族も転生先の世界も全てが運任せ。その転生ガチャを回した最強賢者。
転生先は見知らぬ世界。しかも種族がまさかの……
だがしかし、研究馬鹿な最強賢者は見知らぬ世界だろうと人間じゃなかろうとお構い無しに、常識をぶち壊す。
差別の荒波に揉まれたり陰謀に巻き込まれたりしてなかなか研究が進まないけれど、ブラコン拗らせながらも愉快な仲間に囲まれて成長していくお話。
※拙い作品ですが、誹謗中傷はご勘弁を……
只今加筆修正中。
他サイトでも投稿してます。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
悪役令嬢は安眠したい。
カギカッコ「」
恋愛
番外編が一個短編集に入ってます。時系列的に66話辺りの話になってます。
読んで下さる皆様ありがとうごぜえまーす!! V(>▽<)V
恋人に振られた夜、何の因果か異世界の悪役令嬢アイリスに転生してしまった美琴。
目覚めて早々裸のイケメンから媚薬を盛ったと凄まれ、自分が妹ニコルの婚約者ウィリアムを寝取った後だと知る。
これはまさに悪役令嬢の鑑いやいや横取りの手口!でも自分的には全く身に覚えはない!
記憶にございませんとなかったことにしようとしたものの、初めは怒っていたウィリアムは彼なりの事情があるようで、婚約者をアイリスに変更すると言ってきた。
更には美琴のこの世界でのNPCなる奴も登場し、そいつによればどうやら自分には死亡フラグが用意されているという。
右も左もわからない転生ライフはのっけから瀬戸際に。
果たして美琴は生き残れるのか!?……なちょっとある意味サバイバル~な悪役令嬢ラブコメをどうぞ。
第1部は62話「ああ、寝ても覚めても~」までです。
第2部は130話「新たな因縁の始まり」までとなります。
他サイト様にも掲載してます。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる